元国家安全保障局長・北村 滋「国は外交、防衛、情報、経済、技術の5つの力を高めるべき時」
北村 重要です。私が官邸に入ったのは11年のことですが、当時は、安全保障に対する意識がそれほど高くはなかったと思います。
その後、22年のロシア・ウクライナ戦争、23年のハマスとイスラエルの中東紛争勃発によって、戦場の模様が、我が国のお茶の間にも報じられるようになりました。
一方、我が国の周辺には台湾有事の問題もあります。22年8月に当時のナンシー・ペロシ米下院議長が訪台をした際、中国は台湾を封鎖するような形で軍事演習を行い、我が国の排他的経済水域にも5発の弾道ミサイルを着弾させました。こうした事態を通じて国際的緊張や紛争が、我が国にも及びうることを、国民が認識したことが安全保障意識の高まりにつながっていると思います。
「デリスキング」への企業の対応は?
─ 企業は少子高齢化の日本で成長の種を海外に求めてきました。そのような時代の中、安全保障の観点から国と企業の関係はどうあるべきだと?
北村 いろいろな場所で申し上げていますが、従来、企業法とは、商法、会社法、労働法、倒産法、税法、知的財産法、金融商品取引法とされてきました。しかし、セキュリティ・クリアランスや能動的サイバー防御、古くは特定秘密保護法など、国の安全保障に関する情報を律する法律が企業にも浸透しつつあります。
また、経済安全保障の文脈でデリスキング(De-risking、特定の国や地域への過度な依存を避けつつ、経済関係自体は維持しながらリスクを低減する戦略)が言われますが、どの国でどういう制裁が課されて、企業としても対応しなければならないという時に、当社のところにも様々な相談が来ています。
─ 企業にも相当な危機感があるということですね。
北村 企業自身がインテリジェンス能力を強化していかなくてはならない時代になりました。政府としても、企業に提供する情報や、企業の中にある営業秘密などへの関与も大きくなってきています。
コスト(価格)とエフィシェンシー(効率)を理念としてきたグローバライゼーション経済が、「デリスキング経済」に変わりつつあるということなのだと思います。
特にG7(先進7カ国首脳会議)は、グローバライゼーションを牽引してきましたし、WTO(世界貿易機関)を中心とする自由貿易体制のチャンピオンでした。西側先進国が足並みを揃えて世界経済を牽引してきたのです。
23年の「広島サミット」では「経済的強靭性及び経済安全保障に関する首脳声明」が出て、まさにG7諸国自身が世界経済のデリスキングというものについてコミットしたわけです。
22年に「経済安全保障推進法」ができたことは我が国にとって重要なことでしたが、世界的に見ると23年のG7の共同首脳声明は、世界経済のあり方が変容を遂げたことを、G7諸国が認めたという意味で大きかったと思います。
こうした世界経済というマクロの流れが、ミクロ経済の主体である企業にも影響を及ぼしているのだと思います。
─ 米トランプ政権が66の国際機関からの脱退を打ち出しましたが、このことと安全保障との関係をどう考えますか。
北村 これについては、離脱した国際機関をよく見る必要があります。トランプ政権は必ずしも安全保障的な観点で国際機関から離脱しているのではなく、国の主権を超えて特定の価値観を押し付けるような主体から離脱しているのです。
トランプ政権の外交安全保障政策は、予測不可能性というのが1つの戦術ですから、我が国においても毀誉褒貶はあると思います。一方、昨年12月4日に発表された米国の国家安全保障戦略を見ると、非常に戦略的な視点で書かれていうことが良くわかります。
