元国家安全保障局長・北村 滋「国は外交、防衛、情報、経済、技術の5つの力を高めるべき時」
─ 今の情勢において、日本としても自らの国を自らの手で守るという観点からの見直しが入る可能性もありますね。
北村 そうした議論は出てくると思います。先程申し上げた米国の国家安全保障戦略では、「第一列島線」を防衛線とすることが明確に打ち出されています。どういうことかというと、在日米軍を含めて、我が国自身も自らを守るとともに、米国の安全保障、就中、本土防衛という観点から、第一列島線上で防衛しなければならないと書かれているんです。第一列島線には当然のことながら台湾も含まれます。
─ 引き続き同盟国である米国との関係は最重要になりますね。
北村 我が国の存立にあたって日米同盟が基軸であるのは当然のことです。国民全体にどの程度意識があるのかはわかりませんが、米国の安全保障戦略や本土防衛に深くビルトインされているという認識は持つ必要があります。
前出の米国家安全保障戦略で「西半球」重視が打ち出されたことから、インド太平洋地域から「足抜け」するのでは? という見方もされましたが、冷静に全文を読む限りは全くそのようには見えません。
─ 日本企業は中国とはどのように付き合う必要があると考えますか。
北村 これは中国だけに限りませんが、その国でビジネスをするということは「郷に入っては郷に従え」で、当該国の合法性は意識しなければなりません。一方で、中国では法や人権の持つ意義が我が国のそれとは異なりますから、それを十分に意識した上での経営が求められるということです。
─ 中小企業からの相談も増えていますか。
北村 中小企業については資産が100億円以下でも先端的な技術を持たれている企業が多くあります。それが株式市場で技術、IP、のれん等の無形資産が低く評価されているという事実もあり、懸念国資本の企業に買収されようとするケースが出てきています。経済安全保障とM&A(企業の合併・買収)は最近のキーワードになっています。
─ 外国人労働もインテリジェンスと微妙に絡んでくると思いますが。
北村 難しい問題です。安倍内閣でも「移民は行わない」としてきましたが、実際には外国人労働の枠は広がっていきましたし、外国人労働なしには我が国の経済が回っていかないのが実情です。労働力として日本経済全体を考えた時に避けて通れない問題です。ただ、外国人の土地取得規制については、私も有識者会議の一員ですから、検討していきたいと思います。
─ 外国人留学生の問題をどう考えますか。
北村 最近、研究における情報、技術の保全、すなわち、「リサーチセキュリティ」ということが言われています。安全保障に関するアカデミアでの研究成果が漏洩しないためにどうするかということを、G7全体で真剣に検討してきました。
─ 外交力、防衛力にとどまらず情報力、経済力、技術力など国が持つ力を一体で考えていく必要がありますね。
北村 その通りです。今、「経済の武器化」ということも言われていますが、国際的に見ると外交、防衛、情報、経済の4つの力を行使することによって国家意思を達成するというのが国策遂行の常識だと思います。
今、日本は安全保障戦略を改定中ですが、22年の国家安全保障戦略では、4つの力にプラス技術力が安全保障に関する国力5要素ということになっています。
─ SNS、AI社会におけるインテリジェンスをどう考えていけばいいでしょうか。
北村 1つはサイバー攻撃の問題です。現在はマルウェアの生成もAIが使用されています。攻撃側における活用も進んでおり、被害を拡大、深刻化させています。これは防御や、前段階での企業の訓練でのAIの活用、先制防御も重要な課題になってくると思います。
また、あまり認識されていませんが、SNS上では、自動的に生成されるナラティブ(物語)が多いのです。しばしばディスインフォメーション(偽情報)は表現の自由の文脈で語られることもありますが、機械が生成している情報に表現の自由はあるかについて、真剣に考える必要があります。
すでに先の総選挙でも中国系のアカウントが「反高市」の情報工作を行っていたことが報じられていますが、国家を背景とするディスインフォメーションにどう対応するか。認知戦の中で、アタックしてくる悪意あるナラティブに対して、いかにAI等の高度な技術を活用してカウンターナラティブを生成するかが重要な課題になっています。このような前提で物事を捉えていかないと、対処を誤るということは認識する必要があります。
