『豊臣兄弟!』写真提供=NHK

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 3月29日放送の『豊臣兄弟!』(NHK総合)第12回では、信長(小栗旬)が小谷城の浅井長政(中島歩)と市(宮粼あおい)夫婦を訪ねる。

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 北近江(現在の滋賀県)を本拠とする戦国大名の浅井家で、最後の当主となったのが長政である。足利義昭(尾上右近)を奉じ、天下布武を目指す信長にとって、京都への交通の要衝を押さえる長政は、東の徳川家康(松下洸平)と並んで、最重要の戦略的パートナーだった。

 長政は悲劇のヒーローである。一度は信長と同盟を結びながら、信長が越前の朝倉氏を攻めると反旗を翻し、金ヶ崎の戦いで信長の軍勢を挟撃して敗走させた。その後、姉川の合戦で敗れると、小谷城陥落とともに29歳の生涯を閉じた。

 今作で長政を演じるのは中島歩。長身にイケボ、柔和な笑みをたたえる中島は、若くして家督を継ぎ、勇猛で名をはせた長政にふさわしいキャスティングである。第10話の登場直後から、新婚の妻への思いやりや随所ににじみ出る紳士ぶりが視聴者の心を射抜いた。

 “戦国一の美人”と称される市をめとり、信長の前に立ちはだかった宿敵。ドラマ性に満ちた浅井長政は、これまで多くの作品で取り上げられてきた。個人的に『信長協奏曲』(フジテレビ系)の高橋一生が印象に残っている。

 長政(高橋一生)は、現代からやってきたサブロー/織田信長(小栗旬)と義理の兄弟になり、平和で豊かな国を築く理想を抱く。だが、父である久政(村井國夫)と朝倉義景(小市慢太郎)にその理想を踏みにじられ、サブローと対決することになった。 『信長協奏曲』最終話での長政の最期は涙なしに見られない。戦のない世界を夢見ながら生まれた場所と時代に引き裂かれた長政は、自らの命を賭して平和な世への願いを託した。高橋の魂の演技が作品のテーマを体現していた。

 中島が浅井長政を演じると知って、頭に浮かんだのは『あんぱん』(NHK総合)の若松次郎(中島歩)だ。次郎は主人公のぶ(今田美桜)の最初の夫で、終戦直後にのぶを残してこの世を去った。次郎が登場する回は多くなかったが、軍国思想に染まったのぶが再出発するきっかけを作ったのが次郎だった。

 のぶは、次郎の愛用のカメラと「走れ、絶望に追いつかれない速さで」という言葉を胸に、自身の過ちを見つめ、戦後を駆け抜けた。平和な時代に願いを託した次郎は、「逆転しない正義」という作品のテーマを語る上で欠かせない人物だった。

 後に続く人々に思いを託して逝った次郎と浅井長政には共通項があり、中島歩が演じることで両者は響き合う。想像力の広がりを生む余白が中島の演技にある、とも言い換えられよう。

 『豊臣兄弟!』で男に生まれたかったとこぼす市は、次第に長政に惹かれ、没後に遺児を育てる。『あんぱん』ののぶのように時代にほんろうされながらも、思いを受け取り、自らの人生を生きることで作品のテーマを次世代に継承する役だ。

 中島はインタビューで、長政について「愛に生きる誠実な人物」と印象を語っている。今作が史実どおりなら、長政は信長を裏切ることになるだろう。長政が弓を引いた理由には諸説あり、近江の国人を束ねる立場上、やむを得なかったとも言われている。ドラマでその辺りの事情がどのように描かれるかにも注目だ。

 その柔らかなまなざしの奥で、中島演じる浅井長政は何を見つめているだろうか。名将の雄姿をこの目に焼き付けたい。

参考「NHK大河ドラマ・ガイド『豊臣兄弟!』前編」(文=石河コウヘイ)