「唐揚げ1個1000円」の時代が来る? 元プロレスラー経営者が語る飲食業界“戦後最大の苦境”
もはや私の店が、牛肉を扱う業者が、といったレベルではなく、飲食業界全体、もっといえば、何かを仕入れて、それを販売するというビジネスモデルがもう限界を迎えているのかもしれません。すべての原価が高くなって、いつになったら落ち着くのかがまったく見えない。それでも庶民の給料は上がらず、可処分所得は減っていく一方。この状況で、長期的に経営を考えることなんて不可能ですよ。
どんな商売にも「永遠」なんてありません。
私はステーキ屋をはじめる前に、もうひとつ考えていたセカンドキャリアがありました。プロレスラー時代、熱帯魚を飼うのが好きで、しょっちゅう専門店に通っていました。ある日、店長さんと話しているときに、なにげなく「やっぱり好きなことを仕事にするのが一番ですよね。プロレスを引退したら私も熱帯魚を扱うお店をオープンさせてみようかな」と漏らしたところ、さっきまでニコニコしていた店長さんの顔色がサーッと変わりました。
「松永さん、悪いことはいわないから、それだけは止めたほうがいいですよ。ぶっちゃけた話、こんなにマニアックな店、まったく儲かりませんから。ウチだって、いつまで続くことやら……」
こちらは熱帯魚店の経営状況なんて分かりませんでしたから、その深刻な雰囲気に驚きました。その店長さんの言葉にウソはなかったと思います。もう、そのお店は潰れてしまって存在しないのですから……。
もう一軒、懇意にしているペットショップがありました。私がリングにワニを登場させるデスマッチを実現させようと動いていたとき、そのショップの店員さんがノリノリで「ワニならいくらでも貸しますよ! ウチも全面的に協力しますから、絶対に実現させましょう!」と約束してくれたのです。
しかし、いざ試合が近づいてくると、決定権を持つ店長さんが出てきて「ウチの大事な商品をプロレスのリングに上げるとは何事だ!」と烈火のごとく怒り、NGを出してきました。他にワニを貸してくれるところを探さないと試合ができないと困っていたら、その店長さんが「まぁ、ウチからワニを買ってくれれば、別に問題ないですよ。お客さまが買ったものを観賞用にしようが、プロレスのリングに上げようが、それはもうお客さまの自由なんでね」とニヤリ。
結局、私は8万円でワニを買い取り、デスマッチは開催されました。ちなみに試合で使用したワニは「飼いたい」という知人がいたのでお譲りしましたが、その後どうなったのかは私にも分かりません。この、私にワニを売りつけたペットショップも、今はもう存在しません。
あんなにたくさんあった熱帯魚を取り扱うお店が、数えきれないほど潰れていったのを見てきたことで、お店が続くということは決して当たり前じゃないんだと身に染みて分かりました。あのとき、勢いでペットショップを開業しなくて良かったと、しみじみ感じます。
◆若いころならワクワクしたかもしれないが…
どんなジャンルのお店でも栄枯盛衰があるのですから、飲食店だって、いつまでも当たり前のように生き延びていけるかどうか分かりません。常識で考えたら「食べることは人間に欠かせないんだから、少なくはなっても絶滅はしないだろう」と考えますけど、そんな常識すら通用しないのが令和の日本。
外食という習慣が当たり前では無くなり、誰もが家で食べるようになったら、もうおしまいなんですから。それに近いことが、コロナ禍で実際に起こりましたよね? 何がきっかけで、どんな事態になるかなんて、誰にも分からないのです。
ここ数年、何ひとつ明るい兆しが見えないまま経済は推移し、それに振り回されるような恰好で飲食店はずっと苦境に立たされています。多分、これからもそれは続くでしょう。誰も予想できない、新たな時代が到来します。若いころならワクワクしたかもしれませんが、私も来年で還暦ですから不安しかありません。
<TEXT/松永光弘>

