--無意識のうちに、期待される役割を果たそうとするのは、誰にでもあることではないでしょうか。一番ケ瀬さんは、どのようにして自分軸を取り戻していったのですか?

一番ケ瀬:確かに、急に考え方を変えられるものではありません。まずは「自分の気持ち」に向き合うところから始めました。

◆「今日できたことを3つ書くだけ」が自分軸を取り戻すプロセス

--どのように向き合ったのですか?

一番ケ瀬:目標設定と振り返りにフォーカスしました。きっかけは2019年、夫が買ってきた手帳です。私も同じ手帳を購入し、ライフプランを書いて、お互いに見せ合う約束をしたのです。

約束という強制力が働き「自分はどうしたいのか」という問いに、初めて真剣に向き合って書きあげました。仕事だけではなく、家計、健康、家族、趣味など人生のあらゆる側面で「こうありたい」という自分の姿を考えて、手帳を埋めていったのです。

それは、周囲が望む「正解」を探すのではなく、自分の内側にある「本音」を掘り起こして、言葉にする作業でした。自分の「ありたい姿」を具体的に思い描くのは、進むべき方向に顔が向いたという感覚です。

--例えばどんな目標を設定したのですか?

一番ケ瀬:そうですね、ひとつは「経済的な自立」です。健康で長く働き続けるために、今はしっかりと土台を築く時期と設定しました。

--目標設定によって、自分軸が見つかったのですね。もうひとつ「振り返り」についてはいかがですか?

一番ケ瀬:自分軸を育てるために、手帳を使って一日を振り返りました。どんな小さなことでも、今日できたことを3つ見つけて自分を褒めたのです。

--例えば、どのようなことを見つけたのですか。

一番ケ瀬:本当に小さなことです。今日何を飲むか自分で決めたとか、家具をひとつ選んだとか。これが自己肯定感を高めたり、自分との対話を深めたりするのに役立ちました。

周囲半径30センチの物事を自分で決められたら、次は1メートル、次は5メートル(キャリアや住まい)というように、人生の選択権を握る範囲を段階的に広げていったのです。

--スモールステップを積み重ねて、自分の軸を育てたのですね。しかし、自分軸がハッキリしていると、ともすれば自己主張が強い人、わがままな人と思われそうですが……。

一番ケ瀬:自分軸は、自分の主張を押しつけて周囲との調和を乱すものではありません。自分軸と自己主張の違いは、他者へのリスペクトがあるかどうかです。自分の軸を持っている人は、他者には他者の軸があると理解できます。自分を尊重できるからこそ、他の人の軸も同様に尊重できるのです。

◆5000人以上が参加するオンラインコミュニティに発展

--手帳と、オンラインコミュニティがセットである点も特徴的ですね。なぜこのような場を作ったのでしょうか?

一番ケ瀬:夫と手帳を見せ合った経験が大きいです。一人で書く手帳は、どうしても挫折しがちです。一緒に続ける仲間と約束があれば、手帳を続けられると考えました。

--今では5000人以上が参加する「手帳部」を立ち上げた経緯を教えてください。

一番ケ瀬:育休中に参加していたオンラインコミュニティで、いつの間にか私は「手帳の人」として知られるようになっていました。多くの人が私の手帳に興味を持ってくれたため、コミュニティ内で40人程度の「部活」を始めたのです。次第に参加者が100人、150人と増えていき「手帳部」へと発展しました。

「手帳部」の盛り上がりを見たある方が「オリジナルの手帳を作っちゃったら?」と提案してくれて、2020年秋に『自分軸手帳』の制作と同時に、現在のコミュニティ運営をスタートしました。