星野純子さんが知る「冬季アスリートの実情」とは【写真:本人提供、新華社/アフロ】

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モーグル・星野純子さんインタビュー第2回「オリンピアンが知る冬季アスリートの実情」

 連日、熱狂と感動を届けているミラノ・コルティナ五輪。フリースタイルスキー・女子モーグルで2度の五輪に出場した星野純子さんにインタビューし、冬季スポーツで活躍する選手の実像に迫る。野球やサッカーなどのメジャーな競技に比べて、目にする機会が限られるウィンタースポーツ。選手の苦労、温暖化で雪不足が進む今、自然と共存する競技の難しさを聞いた。(全3回の第2回、取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)

 五輪で大きな脚光を浴びる一方で、冬季スポーツを取り巻く環境は知られていない部分も多い。白銀を舞台に戦ってきた星野さんは、その実像を明かす。

「冬のオリンピックは夏に比べると、どうしてもマイナー気質があって悲しい(笑)。競技への取り組み方は、選手によって本当に様々です。苦労している人も多いと思う」

 スキーやスノーボードの競技は海外遠征が多い。モーグルは12月〜3月まではワールドカップ(W杯)で各国を転戦し、夏場には雪を求めてオーストラリアやスイスなどで合宿も行う。ナショナルチームに所属していれば、全日本スキー連盟(SAJ)が費用を負担してくれるが、その割合は選手のランクによって異なる。星野さんは、日本滞在中にはホテル業を営む所属先のホテルリステルで半日勤務するなど、競技と両立してきた。

「私は個人合宿もさせてもらったし、費用も所属会社が負担してくれたり、助成金を使ったりして、ほぼ自己負担なしでできていた。モーグル選手の中には、100社くらいに応募して、やっと所属先が見つかって、競技を続けている根性のある選手もいる。他の社員の方より休みは多いけど、基本は普通に働いて、費用負担の上限も決まっているみたい。一度競技から離れて働いて、戻ってきた選手もいます」

 海外遠征には交通費、宿泊費、食費などの出費がかさむ。近年は円安が進み、海外の物価も高騰。2022年で引退した星野さんも現役時代から変化を感じていた。オーストラリア遠征では、1か月50万円だった遠征費が倍に。スイス遠征時にも水1本1000円、マクドナルドのセットで3000円と破格だった。

「自分で負担している人は大変だと思う」

 多くの壁を乗り越えて競技を続ける選手たちだが、直面する問題は金銭面、仕事との両立だけではない。その一つは雪不足。近年は大会中止が相次ぐなど、深刻な状況に陥っている。

今季モーグルW杯が3か国で開催中止に

 星野さんがスキーと出会ったのは2歳の時。上村愛子さんに憧れて、小学6年生でモーグラーになった。五輪は14年のソチ大会に初出場し、左膝前十字じん帯の大怪我を乗り越えて、32歳で22年の北京大会に2大会ぶりに出場。25年12月に結婚し、36歳の現在は銀行員としてフルタイムで働きながら、休日にはスキーの活動も続けている。

 長年、自然と共存してきたからこそ、深刻さを感じている。

「大会の1週間前くらいに現地入りしたらコースが野原のままで。人工降雪機もある程度、気温が下がらないと稼働できないので『滑ろうと思ったら雪がない!』ということもあった。スイス遠征は氷河で練習するんですけど、年々少なくなっていることが目に見えて分かった」

 今季、モーグルのW杯は9か国で開催予定だったが、3か国が中止に。12月のスウェーデン大会は財政難、3月のカザフスタン大会は運営上の理由により開催見送りが決まっている。他にも1月のアメリカ大会では雪不足により、会場が変更になっていた。

 大会の開催は選手にとっても重要。五輪前年からの2シーズンに獲得したポイントで争われる五輪の代表選考では、一つの大会で変動することもある。雪不足、賞金提供など、ホスト国にかかる負担も多いが「選手が可哀想……」と胸が痛む。

現状を知ることが第一歩に「自然に対して少しでも配慮があれば…」

 22年北京五輪は、人工雪100%で開催された初の五輪となった。雪不足の地域でも、大会を開催できる一方で問題点も。

「スキーや大会をするために人工降雪機を使うことは、環境に悪くないのかな。人工雪は天然雪に比べて長持ちするので、長くシーズンを滑られるメリットもあるけど、少し矛盾しているのかなと思う部分もあって。そもそもスキー自体もぎりぎりのライン? 自然の中にスキー場があって、リフトを稼働して、加えて人工雪を降らせるとなると、どうなんだろう……」

 雪質の良さ、円安の影響もあり、長野・白馬など日本のスキー場は海外の人気が高い。しかし、インバウンド需要によって、リフト1日券は9000円を上回ることもあり、ゲレンデ食のカレーやラーメンも安くて1000円程度と、国内のスキーヤーにとっては痛手に。学校のレクリエーションや若者のレジャーとして気軽に楽しむ壁にもなっている。

 星野さんはスキーを長く続けられること、選手の大会が十分に開催されることを願うが、まずは現状を知ってもらうことが第一歩になる。

「日本では、再利用されたエネルギーでリフトを稼働しているスキー場もある。環境に優しくウィンタースポーツを楽しもう、と活動している『POW Japan』という団体もある。難しい部分もあると思うけど、自然に対して少しでも配慮があれば良いのかなと思う」

 ウィンタースポーツの魅力とは。星野さんの言葉には愛が詰まっていた。

「壮大な景色に囲まれて雪上に立つ時の高揚感がすごく好き。天気が良い時はもちろん、しんしんと雪が降る雪山にいる時も、雪の降る音が聞こえそうなくらい静かで心が落ち着きます」

 美しい銀世界が守られるように。小さな意識が未来に繋がっていく。

(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)