「愛着のある尖った品」を、大切に使ってくれる人に「引き継ぐ」がコンセプト。20年以上続く、知る人ぞ知る名古屋の<物々交換ショップ>
お金をかけずに欲しいモノが手に入ったら――。物価高の今、そんな願いを実際に叶えている人たちに話を聞いた
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<2よりつづく>
人間関係の希薄な時代だからこそ
「儲かりようのない物々交換事業を、もう20年以上も続けています」と笑うのは、名古屋市名東区にある物々交換ショップ「コレコーレ」の大株主、片桐健二さん。(73歳)
《世界の名品》と呼ばれるレアモノから、個性あふれる《尖った》一点モノまで。知る人ぞ知るこの店には、今日もユニークな品々が集まってくる。
マンションの1〜2階が店舗になっており、筆者が訪ねたときは、エントランスにクリスマスの飾り付けがほどこされ、おしゃれな小物や家具がところ狭しと並べられていた。
初めて訪れる人には少し入りづらい雰囲気だが、勇気を出して店内に足を踏み入れると、まるでお伽の国に迷い込んだよう。棚やショーケースには、陶器、アクセサリー、洋服、アート作品などが並んでおり、たちまち心を奪われてしまう。
片桐さんはファッションや通信業界で成功を収め、その経験と資金をもとに店を立ち上げた。
「モノがあふれ、便利になるほど、人との関係は希薄になっていく。そんな時代だからこそ、リアルな場での《物々交換》が必要だ」と感じたことが、事業を始めたきっかけだという。
「とはいえ、一般的な物々交換ショップだと、不用品や価値のないものを少しでもいい品々と交換したい、と考えるお客さんが多くなります。そうすると、店内は誰も欲しがらないモノばかりになってしまう。そこで《逆転の発想》を働かせ、《愛着のある尖った品》を、大切に使ってくれる人に《引き継ぐ》というコンセプトにしたんです」

外には「売ります 買います 交換します!」の文字が(撮影:本社・武田裕介)
こうした理念に共鳴したお客さんから、希少なコレクションを託されることも多い。人間国宝の手による品や、ティファニー工房の職人による作品なども店内に並んでいる。
ある大学教授は、研究で扱った貴重な史料原書を、「店の応援に」と寄贈し、別の女性は文化財級の自宅の調度品を「受け継いでほしい」と託したそうだ。
評判が評判を呼び、「大切なモノや個性ある《尖った品》はコレコーレに持ち込もう、というお客さんが増えてきました」と片桐さん。全国から目利きのバイヤーも買い付けに来るそうだ。
この「大切なモノを受け継ぐ」精神こそが、「20年以上、物々交換事業が続いてきた秘訣」だと語る。
コレコーレでは、品物を持ち込むとスタッフが査定し、金額に相当するポイントが付与される。現金での買取りも可能だが、物々交換を選ぶと査定額が優遇される仕組み。ポイントを使用することでほかの品と交換するのが基本ルールだ。ただ、店内の掃除やディスプレイなどに力を貸すことで、《お手伝い払い》する常連客もいるという。
シングル家庭には割引制度もあり、子ども服を月100円で借り放題というサービスもある。
「僕自身、複雑な家庭環境で育ったから、そういう家庭を応援したい。破れても汚してもいい。服を循環させながら、子どもたちが自由におしゃれを楽しめたら、それがいちばん嬉しい」と片桐さん。

片桐さんによる商品解説もお客さんに大人気だ(撮影:本社・武田裕介)
店が自宅のワードローブに
来店していた常連客に話を聞くことができた。ロシア出身で名古屋市在住のオレシャさん(40代)は、日本に住んで20年以上経つ。
「今日持っているこのバッグは、コレコーレで見つけました。軽くて形もいい。パソコンケースにぴったりでしょう?」
オレシャさんがそう言って見せてくれたバッグは、以前、靴を持ち込んで得たポイントで交換したそうだ。残ったポイントは、一緒に来ていた娘のミサコさんの髪飾りに換わった。
いまやこの店は、「自宅のワードローブ代わりになっている」という。
「一目惚れした服があったら、自分が着てきた服と交換して帰ることも。ここなら、自分が使わないモノが、別の人の《今欲しかったモノ》に生まれ変わる。その感覚が好きなんです」

コートを持ち込んで査定してもらうオレシャさん(右)(撮影:本社・武田裕介)
この日、オレシャさんが持ち込んだ赤いコートは、7000円分のポイントに換わった。一般的なリサイクルショップに持ち込むよりも、ずっと高値がつく。ポイントは3年間有効なので、「欲しい着物が入荷するまで貯めておく」と、嬉しそうだ。
娘のミサコさんも、「普段の洋服はコレコーレで調達することが多い」というが、この店に通う目的は《モノ》以上に《人》とのつながりだという。
「片桐さんは、常連のお客さん同士をつなぐのが好きなんです。あるときは、『きっとあなたの将来に役立つから』と、政財界で活躍している方を紹介してくださったこともあります。ここに来ると、モノだけでなく、人脈や知識も増えていく。それが嬉しいんです」と、目を輝かせながら語ってくれた。
しばらくすると、「10年以上通っている」という男性の常連客が来店。インテリアや美術品、食器などを持ち込むという。
「現金で売るより、物々交換のほうが《付加価値》を感じます。リサイクルショップなら1000円の買取価格しかつかないモノでも、ここなら、それ以上の値打ちあるモノと交換できる」。
別の常連客も、「一度来たら1時間は出られない」「掘り出しモノに出合える」と口を揃える。
この店を訪れる人々に共通しているのは、愛着のある品を循環させることの喜びだ。
モノを介して出会いが生まれ、人が人をつなぐ。その価値は、まさにプライスレス。コレコーレの店内には、《お金を介さない豊かさ》が満ちていた。
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今回、3つの物々交換の現場を取材して、「真の豊かさとは何か」と問いかけられたように感じた。物価高の今こそ、私たちのモノとの関わり方を見つめ直す好機なのかもしれない。
