この長すぎる説教によって参加者がふるいにかけられ、意識の高い者だけが残っているのだ。

◆牧師のギターでみっちり歌った賛美歌

 実際、どこの炊き出しに行っても大体いる、九官鳥と炊き出し巡りの達人・菊蔵さん(仮名)の姿がない。

 サムエルがどうなろうと知ったこっちゃない私は、どんな食料が配られるのかを探りながら、時間を潰すことにした。

 牧師の後ろには大きなブルーシートが敷かれていて、そこには「カップうどん」と印字されたダンボール箱が積み上がっている。その隣には「クッキー」と書かれたダンボール箱もある。

 ボランティアスタッフの男性がブルーシートの上に引っ張り出したのは、全長1メートルはあろうかという巨大な食パンだった。それを包丁で薄くスライスし、ポリ袋に小分けしていく。

 さらに、なんといっても注目すべきはブルーシートの端に固めて置いてある松屋の「牛めし弁当(並)」である。できることなら、冷める前に早く食べてしまいたい。
 
 17時に一度休憩を挟んでホットコーヒーが振る舞われたが、その後は牧師によるギター演奏のもと、みっちり賛美歌を歌った。すべての説教が終わったのは牛めし弁当を発見してから約1時間後の18時だった。

 そこから15分かけて参加者で食料を並べ、順路をつくる。ただ、23人も必要ない。私は隣にいた銀色のシートで身をくるみ、蓑虫みたいになっている男性のことが気になっていたので話しかけてみた。

「それ、暖かそうですね」
「ちょっと古いんで内側の銀が剥がれちゃって。もともと何回も着るもんじゃない。渋谷の炊き出しでエマージェンシーのセットをもらったんですよ」

 災害時、体に巻いて暖をとる「防寒・防風用アルミシート」だ。それに腕を通す穴をつくり、何枚も重ね着していたのだ。荷物を積めるように改造したマウンテンバイクで都内を移動しながら毎日、違う場所で寝ているホームレスだという。

「これがうまいんだよなあ」

 牛めし弁当を受け取った別の男性がそう呟いた。

 一通り食料をもらって持参した手提げ袋に詰め、私は牛めし弁当を片手にベンチを探した。牛めしはすでに冷えていたが、牛肉と玉ねぎと白飯を一気に頬張ると、だしの旨味が体中に染み渡った。

 路上で暮らす前はいつも当たり前のように食べていたけど、今は食べられなくなったメシ。

ホームレスになると高いメシではなく、そういうメシが一番うまく感じるんだろうな」

 あらためて、しみじみ考えた日だった。

◆春を呼ぶ中華丼

 私が各地で聞き回った情報を整理すると、2025年3月のある日曜日のこの日、都内では20もの炊き出しが行われていた。同時刻帯のものもあるため、すべてに顔を出すことは現実的に不可能だ。効率的に回れそうな炊き出しを数カ所ピックアップし、1日のスケジュールを立てる。

 まず私が選んだのは、年金生活者にして炊き出し巡りの達人・菊蔵さんが「バイキング形式でご飯がもらえるから行ったほうがいい」と教えてくれた錦糸町駅北口から徒歩7分の場所にある某韓国系キリスト教会の炊き出しである。ただ、教会へ向かう道中から「おかしいな」という疑念が湧いていた。

 視界に入るのは少年野球のユニフォームを着た子どもたちとその保護者ばかりで、生活困窮者らしき姿がひとつも見当たらないのだ。たとえば、800人以上が集まる都庁下の炊き出しでは、都営大江戸線の電車に乗っているときから、すでに「あの人もこれから炊き出しに行くんだろうな」と目星が付くし、それは大体、当たっている。

「これは空振りかも」

 駅近くの錦糸公園を歩いているときからそう思っていたが、教会が入るビルに着いた瞬間、予想は確信に変わっていた。案の定、この教会では「10時半からの炊き出し」など、やっていなかったのである。