「本田圭佑の解説」が共感を呼んだワケ ABEMAスポーツ編成責任者に聞くスポーツ中継の未来
変わりゆく放送・配信の在り方についてABEMA塚本氏に聞く
最近10年ほどでスポーツコンテンツを取り巻く放送・配信の在り方が、大きく変化を遂げている。かつては地上波で放送されていたプロ野球は有料サービスになったものの、時と場所を選ばずに楽しめるようになったり、最近では世界陸上が地上波でも楽しめながら、インターネット上でハイライト映像をチェックできたり。来年は、ミラノ・コルティナ冬季五輪、WBC、サッカーW杯などスポーツのビッグイベントが数多く開催される中、今後スポーツを巡る放送・配信環境はどのようになっていくのか――。
2022年FIFAワールドカップカタール2022(カタールW杯)ではABEMAの中継責任者として携わり、MLBなど数々のスポーツ中継を手がける仕掛け人の1人でもある、ABEMA総合編成本部編成統括ライセンス本部・塚本泰隆本部長に話を聞いた。
◇ ◇ ◇
インターネットの普及やデバイスの多様化の影響もあり、特に最近10年において、スポーツコンテンツは決まった時間にテレビで観るものから、好きな時に好きな場所で楽しむものへと変化を遂げてきた。世界的に見られる放映権料の高騰という傾向も含め、「市場環境の変化は我々も肌で感じています」と塚本氏は話す。
ABEMAの開局が2016年。同年にはDAZNも日本でサービスを開始し、同じ頃からNetflixやAmazon Prime Videoも日本での普及・拡大に注力するようになった。YouTubeのライブ配信などを含めれば、放送・配信という形でスポーツコンテンツをユーザーの元に届ける手段は圧倒的に増えた。
同時に「なかなか地上波では扱えなかった競技を、有料のOTT(インターネットを通じて動画などのコンテンツを提供するサービスの総称)や我々のような無料のプラットフォームで見せることもできるようになりました」と塚本氏。「この10年くらいで、ユーザーが『ちょっと見たいな』と思った時に映像として届けられているスポーツコンテンツの数と幅は、圧倒的に増えたんじゃないかと思います」と話す。
かつてテレビの地上波放送のみだった時代から、BS放送、CS放送、インターネット配信とスポーツコンテンツを届ける方法の幅が広がり、テレビだけではなくスマホやタブレット、PCなど観る方法も多様化した。おかげで、同時刻に開催される2つのスポーツイベントを1つはライブ、1つは見逃し再生で楽しんだり、日本時間の深夜/早朝に開催される試合を起床後にチェックしたり。すべて無料ではなくても、ユーザーが主導権を握りながら自分に合ったスポーツ観戦を楽しむスタイルが、日本にも定着しつつある。
その背景には「基本的にスポーツ中継とインターネットは相性の良さがあると思います」と塚本氏。だが、同時にスポーツコンテンツを巡り「地上波が果たす役割と配信プラットフォームが果たす役割は違うとも思っています」と言葉を続ける。
「ユーザーが好きな時に好きな場所で、というのが配信の良さ。一方で地上波が凄いのは、お祭りのようにコンテンツに対する瞬間的な熱量を上げることができること。両者が複合的に組み合わさることで、ユーザーが色々と楽しめるというのが最近のトレンドで、今後もそれが続いていくんじゃないかと思います」
地上波、配信プラットフォーム、それぞれの役割が相乗効果を生むスポーツ中継の在り方とは?
地上波が生み出す熱量と、配信プラットフォームがもつ利便性が融合した最好例が、2022年のカタールW杯だろう。日本戦を含む全戦無料生中継を実施したABEMAの責任者だった塚本氏が当時を振り返る。
「日本戦の時は『今、この瞬間をみんなで見よう!』という日本国民の熱量が、地上波をきっかけに盛り上がった印象があります。その他、深夜に行われる試合はABEMAで見ようとか、外出しているからABEMAで日本戦を観ようとか、朝起きてABEMAのハイライトを観て、夜の地上波放送に備えるとか、様々な楽しみ方ができたなと感じています。ABEMAの中で、生中継からハイライトまで全てが楽しめる分かりやすさもあったと思います。地上波と我々の役割分担がかなり上手くいき、数多くの日本の皆さんに楽しんでもらえたと実感できる成功体験となりました」
ABEMAではアニメやバラエティ、恋愛リアリティーショー、ドラマなど数多くのジャンルを取り扱っているが、中でもスポーツで際立っているのが「ライブ映像を通じて得る一体感や熱量」だという。インターネットでのライブ配信の場合、リアルタイムで書き込めるコメント欄が活発になる。カタールW杯の時も例外ではなく、最近ではMLBや大相撲などでも大きな盛り上がりを見せている。「コメント欄への書き込みを通じて、場所こそ違えど同じ映像を一緒に観ている人がいるという熱量、楽しいという価値が生まれる。リアルで観戦している時に近い感覚になるんだと思います」。
今後もスポーツコンテンツを巡る放送・配信の在り方が様々に変化することが予想されるが、その中で無料配信プラットフォームであるABEMAは「ユーザーとコンテンツを繋ぐ『エントリーメディア』であり続ける」と塚本氏は説明する。
「我々は『エントリーメディア』として、競技を見始めるスタートラインを意識しています。例えば、サッカーについて凄く詳しい人もいれば、なんとなくルールを知っているくらいのライトなファンや初心者の方もいる。色々なユーザーに観ていただく中で『楽しいな、また次も観たい』と思っていただくことをゴールとした時、ABEMAとしてどのレベルの人たちに楽しんでもらうのか。そこを考えていくと、『エントリーメディア』としては、コアなファンだけではなく、気軽に入ってきた人たちが十分に楽しめることを目指しています。だから、カタールW杯では視聴者と同じ目線に立っていただいた本田さんの解説が共感を呼んだんじゃないかと」
「エントリーメディア」として提供する「新しいものを楽しむきっかけ」
誰もが気軽にスポーツコンテンツを楽しめる「エントリーメディア」であることを象徴するかのように、ABEMAでは9月14日から10月19日まで「ABEMA SPORTS SUPER 5 WEEKS」と銘打ったキャンペーンを展開し、MLB、大相撲、ブンデスリーガ、世界ラリー選手権など多様なスポーツコンテンツを無料配信するという。
「スポーツコンテンツの多い秋に、新たなきっかけを提供したいという思いで実施します。今までサッカーしか観ていなかった人がモータースポーツを観たり、あるいは普段は恋愛リアリティ−ショーを観ている若者が大相撲を観たり、新しいものを楽しむきっかけになったら嬉しいなと。ABEMAの中でDAZNさん、WOWOWさん、J SPORTSさんのスポーツコンテンツも観られるので、我々の無料放送をきっかけに有料サービスへの加入に繋がる流れも作っていきたい。あくまで『入口』としての役割を果たしたいと強く思っています」
2026年はミラノ・コルティナ冬季五輪を皮切りに、WBC、サッカー北中米W杯など、スポーツのビッグイベント開催が目白押しとなる。地上波や配信プラットフォームなど、それぞれがどのように関わりながら、スポーツコンテンツを日本のファンに届けていくのか。これまでの10年にも匹敵するような大きな変化が、これからの10年に起きても何の不思議もなさそうだ。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)
