@AUTOCAR

写真拡大 (全4枚)

まずはグリルの話から

私は通常、クルマのデザインを解説するときはまずサイドシルエットやあらゆる角度から見たスタンスなど、クルマ全体を最初に触れます。

【画像】大きなグリルは伝統を光で表現!新型メルセデス・ベンツGLC 全59枚

その後フロントまわりなどの要素に入っていくのですが(これが通常のデザイン作業の流れでもあります)、先週の『IAAモビリティ2025』でデビューした新型『メルセデス・ベンツGLC』はあまりにもグリルの主張が強いので、まずはそこからお話ししようと思います。


全体が光るフロントグリル。EVのトレンドに逆らうような主張の強いデザインですが、処理自体はコンサバ。    メルセデス・ベンツ

メルセデス・ベンツのデザインは、どの車種も非常に統一感があります。パッケージが全く異なる幅広い車種のある中、プロポーションの作りや面質など、どれも同じ印象を持たせるデザイン力はすごいと思うんです。

ただ最近は、特に顔まわりで個車ごとの変化をつけようとしています。左右のヘッドランプがつながったAクラスに始まり、新型GLCではグリルを縦長に変えてきたのですが、それに対しやや違和感を覚えました。

今回のデザインで目立つのは、何と言っても光る大きなグリルです。近年のメルセデスと比べて、より縦長のグリルになりました。

ドイツのプレミアムブランド3社が今年のIAAで揃って次世代EV車を発表しましたが、その中で興味深いのは、モチーフの発祥が3社とも全て過去の名車であることでした。しかしBMW iX3とアウディ・コンセプトCがグリルの主張を弱めた表現をしてきているのに対し、メルセデスは真逆のアプローチを取ってきたのです。

メルセデスのチーフデザインオフィサーであるゴードン・ワグナーのSNSによると、このグリルは縦目時代の280SEからインスピレーションを得たようで、デザインの出どころは理解できました。細かい格子のパターンはメルセデスの伝統のひとつなのでしょう。それを次世代EVらしく、光で表現しているんです。

縦長グリルの輪郭自体もその時代のメルセデスを意識したものでしょうが、そのせいかサイドから見ると絶壁のように縦にスパッと降りています。もしかしたらやや逆スラント気味かもしれません。

全体のデザインとグリルとのアンマッチ

最初にグリルの話をしたのは、全体のプロポーションを見た時にグリルの絶壁感が他のボディ部とアンマッチという印象を受けたからです。というのも、グリル以外の部分を見ると『丸い』印象を持ったんですね。

特にリアまわりはDピラーが割と寝ており、リアのシルエット全体もなだらかに下がっていて、どちらかというとエレガントな印象を受けます。


四角いフロントとなだらかなリア。ホイールベースの長さもあり、前後で異なった印象を受ける。    メルセデス・ベンツ

しかしグリルまわりのシルエットは無骨なSUVのイメージがあり、その辺がチグハグに感じました。GLSやGLBのようにリアゲートが立ったシルエットだとわかるのですが。さらにEVということもあり、全長に対してホイールベースがだいぶ長いので、やや胴長な感じも否めません。

一方、インテリアはかなり洗練されている印象を持ちました。近年のメルセデスはインパネ全体をディスプレイにするような構成が多いですが、ディスプレイそのものは2、3個に区切られていたのに対し、今回のGLCでは横長で継ぎ目のないものになっています。

また、そのディスプレイ部が独立して浮かんでいるような造形になっており、思いのほか圧迫感のないものになっています。センターコンソールからの繋がりもスムーズで、ぜひ座ってみたいデザインだと思いました。

最近のカーデザインは、エクステリアは若干ネタ切れな印象も感じますが、インテリアはどんどん洗練され、新規性のあるデザインが出てきています。

欧州ブランドのデザインで思うこと

前述のとおり、今回のIAAではメルセデス、BMW、アウディという、自動車業界を牽引するドイツのプレミアムブランドが揃って新型EVを発表しました。しかし新しい提案があったかというと、少なくともエクステリアではなかったように思います。

3社とも過去の名車のモチーフをデザインに取り入れていますが、立体構成や表現などにおいて新しさがなかったのは少し気になるんです。もちろん保守的なデザインでも魅力があれば良いのですが、ではプロポーションを煮詰めているかというとそうも見えません。


リアを見るとポルシェ・マカンのようなクーペライクのSUVに近い。横長のリアコンビはこれまでのメルセデスにはなかったデザイン。    メルセデス・ベンツ

過去のアーカイブを頼りにデザインすること自体は悪いと思っておらず、例えばスニーカーでは、何十年前のデザインが今でも定番になってます。歴史あるブランドの戦い方として、名作のリバイバルやオマージュはひとつのトレンドでもあります。しかし欧州自動車メーカーのそれは、表層的になっていないか? という危惧を感じてしまうんです。

それに欧州ブランドでも、ボルボやレンジローバーといった欧州以外のメーカーが資本の方がデザインの本質に向き合っていたり、『AVATR』や『NIO』など一部中国ブランドのように、シンプルで提案性あるデザインを行っている例もあります。

特に中国メーカーはここ何年も欧州を中心とした世界中からカーデザイナーを招き入れているという話も聞き、ここ数年で急激にレベルが高くなっているように感じます。欧州の自動車業界が危機感を持っているのかが気になりますが、彼らのデザインを見て育った身としては、その底力に期待したいところです。