記事のポイント
ユニリーバは生成AI活用の社内制作システムを構築し、広告資産を大量かつ高速に生成している。
この体制は制作効率や広告効果を向上させ、マーケ費削減をめざす一方、エージェンシー収益減の懸念を招いている。
ほかの大手企業も導入を検討する可能性があり、長期的にはエージェンシー業界の構造変化を引き起こす恐れがある。


消費財大手のユニリーバ(Unilever)が、生成AIを使った自社デジタルクリエイティブの「量産体制」を構築している。このシステムは、ほかの大手ブランドにとってのモデルとなる可能性がある一方、クリエイティブエージェンシーには頭痛の種をもたらすかもしれない。

ユニリーバはこの1年間、マーケティングサービス企業ブランドテック・グループ(The Brandtech Group)と協力し、「ビューティAIスタジオ(Beauty AI Studio)」という独自の社内システムを、ビューティ&ウェルビーイング事業内に構築してきた。現在、18の市場(米国と英国を含む)で展開されている同システムは、「Dove Intensive Repair(ダヴ・インテンシブリペア)」「TRESemme Lamellar Shine(トレセメ・ラメラシャイン)」「Vaseline Gluta Hya(ヴァセリン・グルタハイア)」など、複数のブランドを対象とした、ペイドソーシャル、プログラマティックディスプレイ広告インベントリー(在庫)、ならびにeコマース向けのアセット制作に活用されている。

ユニリーバのグローバルバイスプレジデントで、ビューティ&ウェルビーイング事業のマーケティング変革を率いるセリーナ・サイクス氏は、「これまでと異なる仕事のやり方だ。以前はブリーフを送るとコンテンツが返ってくるという流れだった。現在は、このような迅速で反復的なアプローチを採用している」とDigidayに語った。サイクス氏によると、ユニリーバはこのシステムを用いて、1製品につき平均で推定400件のクリエイティブアセットを作成している。「以前はキャンペーン1回あたり20件のアセットを作成していたが、現在は数百件単位だ」。

ユニリーバが構築したシステムとは



このシステムを支えているのは、ブランドテック・グループが開発した生成AIアプリケーション「ペンシル・プロ(Pencil Pro)」だ。同ツールは、複数の大規模言語モデル(LLM)を使用し、またメタ(Meta)とTikTokへのAPIアクセスを通じて効果測定を行う。すでに補聴器ブランドのアンプリフォン(Amplifon)が、デジタル広告チャネル向けのテキストおよび画像アセットの迅速な生成に活用している。

ユニリーバのプロセスでは、マーケターはターゲットオーディエンスに関するプロンプトと自身のインサイトを用いて、各製品の3Dレンダリングを基に画像や動画を生成する。「デジタルツイニング」とも呼ばれる手法だ。特定市場における個々のブランドに「ブランドDNAi(BrandDNAi)」と呼ばれるAIツールを割り当て、これを使って、ブランドのガイドラインや関連規制に関する情報を取得し、生成プロセスに追加の制約を課す(テクノロジーに詳しい人向けに説明すると、LLM、検索拡張生成[RAG]フレームワーク、ならびにREST[表現状態転送]APIを組み合わせたクラウドベースのプラットフォームを用いてこれを実行している)。

サイクス氏は、このシステムは人物の画像生成には使用されず、「現在のところ人間のAI生成は行っていない。製品に関するものに限定している」と述べている。同氏によると、ユニリーバはこのシステムを活用することで、従来の方法に比べてクリエイティブアセットの制作を30%高速化し、そのほか動画再生完了率(VCR)やクリック率(CTR)などの広告効果指標も倍増させている。

サイクス氏は、制作効率の向上がもたらすコスト削減の推定額を明かさなかったが、ユニリーバは予算の2桁パーセント削減をめざしている。メディアリンク(MediaLink)によると、AIをプロセスに導入した広告主とエージェンシーは、クリエイティブ制作費を27%削減している。ユニリーバは世界最大級の広告主であり、2024年の決算によると、マーケティングに昨年78億ユーロ(約1兆3280億円)を費やしていることから、小さな数字でも大幅なコスト削減につながる。

ビューティAIスタジオは、ユニリーバにとって単なるテクノロジーへの投資ではない。それは、チームの訓練と組織化に時間を費やすことも意味している。同社は2023年にブランドテックとの協業を開始し、2024年第1四半期にペンシルのテストを開始した。そしてこの1年間の大半を、インハウス化を専門とするオリヴァー(Oliver)とともに、ビューティAIスタジオの設計と運用に費やしてきた。また、これまでに2万5000人の従業員が「AI流ちょう性トレーニング」を受けている。

これがクリエイティブエージェンシーにとって何を意味するのか



ユニリーバはかつて、全世界で約3000社のエージェンシーと提携していた。しかし、過去10年間の大半をその数を削減することに費やし、2024年には、ビューティ&ウェルビーイング事業のクリエイティブ業務の大部分を英国の大手エージェンシーWPPに統合した(ただし、メディア事業は依然として幅広いエージェンシーに分散している)。

ガートナー(Gartner)のアナリスト、ニコール・グリーン氏は、広告主はAI導入において「ハイブリッド式」のアプローチを選択する可能性が高いと指摘する。すなわち、広告主自らがいきなりAI導入に踏み切るのではなく、エージェンシーに先陣を切ってもらう形だ。WPPや電通のような大手エージェンシーグループは、AI対応の制作部門をサービスの中核に据え、それぞれホガス(Hogarth)とタグ(Tag)という傘下部門の能力をアピールしている。

それでも、AIの責任ある利用に関するガイドライン、AI利用における消費者への透明性、データのサイロ化や先行き不透明な規制環境といった要素が、広告主のさらなるAI導入を妨げている、とグリーン氏は指摘する。2024年に実施されたガートナーの調査では、マーケティングリーダーの30%が、今後12カ月間でマーケティング業務のインハウス化を拡大する計画だと回答した一方、同社の別の調査では、生成AIを使用するトレーニングを受けたマーケティング担当従業員は62%に留まる。

フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、ジェイ・パティソール氏によると、これらの障壁は実際に、インハウス化をめざすブランドを「減速」させる可能性があるという。「導入にはエージェンシーが必要で、運用にもエージェンシーが必要で、移行とトレーニングにもエージェンシーが必要で、それには時間がかかる」と同氏は述べている。ゼネラルモーターズ(General Motors)、モンデリーズ(Mondelez)、コカ・コーラ(Coca-Cola)を含む複数の消費財クライアントは現時点で、AIを用いた制作能力をインハウス化するのではなく、エージェンシーパートナーのモンクス(Monks)、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)、アクセンチュア(Accenture)、WPPなどにアウトソーシングする方針を選択している、とパティソール氏は指摘する。

ただし、この体制が永続するとは限らない。長期的に見れば、エージェンシーはAIで強化された社内部門への「引き継ぎ」を求められる可能性がある、とグリーン氏は言う。そうなった場合、報酬をめぐる疑問や、すでに不安定なエージェンシーのビジネスモデル基盤は重大な課題となるだろう。

また、すべてのクリエイティブまたは制作エージェンシーが、ブランドテックやオムニコム(Omnicom)、WPPレベルの世界的大手と同等の技術や開発リソース、資金を有しているわけではない。「SaaSプラットフォームで制作能力を代替し、社内の従業員をプラットフォームの運用に充てるというこの種のシナリオは、エージェンシーがこれまで得てきた制作収益の一部を奪うことになるだろう」とパティソール氏は述べている。

ユニリーバのサイクス氏は、同社のAIを用いたクリエイティブの量産体制が、エージェンシーの仕事の削減につながると示唆することには慎重な姿勢を示した。

「我々は生成AIを、人間を置き換えるものではなく補助するものと考えている。場合によっては、AIが作業の一部を担うことで、人は創造的な仕事のなかでも人間ならではの部分に集中できる時間を作り出せるだろう」と、同氏はその後のメールで回答した。「我々としては、世界有数のクリエイティブエージェンシーのネットワークグループ、独立系エージェンシーチーム、主要テクノロジープラットフォームと提携し、ともに能力を習得・構築していることを誇りに思う」。

ブランドテックも、ユニリーバのソリューションを「テンプレート化された」アプローチとしてほかのクライアントに販売するつもりはないと強調している。「変革のモデルは、場所によってやや異なる形を取る」と、ブランドテック・グループのパートナーであるレベッカ・サイクス氏(ユニリーバのサイクス氏とは無関係)は述べている。

しかし今後、同様の体制が大手広告主のあいだで標準になるとしたら? 実際、ブランドテックはすでにGoogleとも同様の関係を築いている。もしそうなれば、クリエイティブ業界のハブであるニューヨークのブルックリンとロンドンのショーディッチでは警戒のベルが鳴り始めるだろう。

[原文:Inside Unilever’s AI beauty marketing assembly line - and its implications for agencies]

Sam Bradley(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:坂本凪沙)