横浜DeNAベイスターズ、なぜ“勝敗反映”ショートドラマを制作? 球団職員たちの熱い想い
TikTok、YouTubeショート、そして専門のアプリで配信されている「ショートドラマ」が急増している。中国では市場規模が1兆円を超え、映画の興行収入をも超えているという。日本でも急速に市場を拡大し、さまざまなジャンルの物語が作られている中、まさかの作品が誕生した。横浜DeNAベイスターズが手がける『神様、おねがい』だ。
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ベイスターズを愛する主人公が、ひょんなことから魂を抜き取る死神と出会い、「ベイスターズが優勝したら魂を抜くのはやめて、生き延びる」と取引を持ちかける。彼女は果たして生き延びることができるのかーーというのが本作の物語だ。これが“フィクション”であれば、なんだかんだでチームは優勝して、めでたしめでたし……となるだろうが、本作はまさかの実際のプロ野球の勝敗結果と連動するシステム。勝敗はコントロールできないものであり、“最悪”の結末もあるわけだ。
これまでもチームの裏側に密着したドキュメンタリー映画シリーズをはじめ、意欲的な映像コンテンツを多数生み出してきたDeNAベイスターズは、なぜ「ショートドラマ」を作ろうと考えたのか。この疑問に答えてくれたのは、本作の企画者の1人である球団広報・小泉匡氏。2024年の日本一の勢いをそのままに、球団スタッフたちの熱い想いがそこには込められていた。
●“日本一になったからこそできる”挑戦
――横浜DeNAベイスターズはこれまでもドキュメンタリー映画シリーズをはじめ、“名作”映像コンテツを生み出してきました。さまざまな映像作品を手がけてきた中、なぜいま「ショートドラマ」を作ろうと考えたのでしょうか?
小泉匡(以下、小泉):DeNA体制になって14年目ですが、初年度から「球団公式ドキュメンタリー映像作品」を制作したり、YouTubeやSNSなどに力を入れたりと、"動画作り"を非常に重要視してきました。動画はベイスターズのブランドをつくってきたコンテンツの一つであり、社内には動画制作の専門チームも存在するほど、とてもこだわりを持っているんです。ドキュメンタリー映像作品はふだん見ることができないチームの裏側や選手の葛藤などを伝える“リアリティ”が魅力なのですが、今回のショートドラマも「動画を通して野球の魅力を伝えていく」という目的は同じです。チームや選手の要素は少ないですが、ベイスターズにまだ興味がない方や、これからファンになっていただける可能性がある層をターゲットに、縦型動画という形式でベイスターズや野球の魅力を伝えたい、というのがきっかけでした。
――ドラマにすることで、より間口を広くしたと。なかでも縦型動画を観るようなライトな層を狙っていきたかった?
小泉:おっしゃる通りですね。今回の企画でメインターゲットにしている10代後半から20代前半の方たちは、縦型動画を観ている世代。さらにはTikTokやYouTubeショートの“フォローしていない方でもオススメとして流れてくる”というメディアの特性も相まって、横型ではなく縦型で展開することにしました。
――勝敗でストーリーが変わるという内容は、とても挑戦的ですよね。
小泉:正直にお伝えすると、私たちもすごく悩みました。勝敗によって内容が左右する。ましてや、球団が一番大切にしなくてはいけないファンが“死ぬか生きるか”という設定は、本来やってはいけないことで。私たちは勝つことを信じていますが、当然勝ち負けは決められるものではないので、本当に葛藤しました。とはいえ、「プロ野球球団がショートドラマを作る」となったときに、やはり他との差別化は必要になってくる。ファンではない方が興味を持つきっかけになるのは、やはり成績や勝敗だと思うので、それを物語の中に組み込むことは、ベイスターズだからこそできる試みだと。ベイスターズだからこそできることなので、社内でしっかり議論をした上で、今の形になっていきました。
――覚悟をもって挑まれたわけですね。
小泉:どうしても「負けたときにどうするの?」とリスクを考えがちですが、まず僕らとしてもそのフィルターを外そうと。2024年、日本一を経験させていただいて、あの景色をもう一度見たい、ファンの皆さまも見たい、選手も見たい。そのためにはファンの皆さまをさらに増やして、球場内外の声援量を上げていただいて、チームを後押ししてもらうことが勝利につながると信じています。そう考えると、リスクをとってでも勝敗というスポーツそのものの魅力を入れ込んだほうが、結果としてベイスターズが一番魅力的なものになるのではないかと喧々諤々の議論をした上で、制作を決定いたしました。
――この企画自体が始動したきっかけや、期間も教えてください。
小泉:広報チームでは日々SNSを運用していますが、縦型コンテンツの需要が高まる中で「私たちはずっと横型でいいのだろうか?」とここ1、2年、チーム内でも話し合っていたんです。そんな中、いろいろなご縁があって今のショートドラマという形になっていきました。そういった背景もあったので、制作決定までは意外とスムーズでしたね。ただ、「何を作るのか」というところは、すごく時間をかけて練り上げました。私がこの企画を担当することになったのは2024年の年末頃で、公開までの約3カ月間はずっと設定を考えたり、「本当にこれでいいのか」と検討を重ねる期間でした。
――2024年の日本一はもちろん、ベイスターズファンを主人公としたTBS系ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』(2025年1月期)も、今回の企画にプラスの影響を与えているように感じます。
小泉:ドラマでは主人公・まどか(芳根京子)が横浜スタジアムで応援をするシーンもありました。TBSさんから「熱量の高いお客さんにエキストラとして入っていただきたい」というお話があったので、ファンクラブ会員の方にご協力をお願いしました。ドラマがスタートしてからは、回を重ねるごとに本当に反響がすごかったですね。それは僕らの力ではなくて、TBSさんの力ではありますが、「やっぱりいいものを作ればしっかり届くんだな」というのは再認識しました。「このドラマがあるから、球団でもドラマを作ろう」という話ではないのですが、いい影響を受けている気がします。
――いちファンとしても、2024年の日本一、『まどか26歳』の放送、そしてショートドラマの配信という流れが美しいなと思いました。
小泉:「日本一になったからこそできる」というのは、すごくありますね。たとえば2025年の開幕戦で実施したオープニングセレモニーは、対戦相手の中日ドラゴンズさんにもご協力いただきました。もし、ベイスターズが6位だったら全然違う見え方になっていたと思うんです。「自分たちだけではなく相手チームをリスペクトして、ドラゴンズファンの皆様にもちゃんと届くようなセレモニーにしたいよね」と。このショートドラマもまさにそうで、日本一になったからこそ見えた景色がある。今だからこそできるチャレンジなんじゃないかなと感じています。
●配信前日まで実際の試合にあわせた形に調整
――勝敗によってストーリーが変わるわけですが、具体的にどういった流れで作っているのでしょうか?
小泉:たとえば優勝するパターンとしないパターン、2024年のように3位争いをしていて、Aクラス入りをするパターンとしないパターンなど、ある程度の構成は考えています。「もしも早い段階で6位が確定してしまったら」というところまでは決めていませんが、少しずつ制作サイドと話をしている状態です。さらに細かいお話をすると、たとえば「昨日、バウアーがすごかったよね」「バウアーがいまいちだったよね」といったリアルタイムのセリフを入れなければ連動性がなくなってしまう。それがなければただのドラマになってしまうので、すべてではないですが、事前に複数のパターンを撮っておくこともあります。
――撮影から配信までは、どのくらい時間があるんですか?
小泉:ロケ地の関係もあるのでバラバラです。ただ、「野球がない日に楽しんでもらいたい」という想いがあるので、基本的には試合がない月曜日に配信できればと考えています。そこから逆算してスケジュールを組んでいて、おそらく2週間から1週間前には撮影しているかなと思います。ただ、編集は本当にギリギリまでやっていますね。
――ファンからすると、「大逆転サヨナラ負けの次に出るのがこの動画?」ということもあり得ますもんね。
小泉:そうなんです。ですから僕らは撮影の前日までミーティングをしていますが、役者さんは当日に台本を覚えなければいけないので大変ですよね。おそらく普通のドラマとは、スケジュール感が違うんだろうなと思います。
――芸能界にはベイスターズファンを公言されている方もたくさんいますが、キャスティングはあくまでフラットなのでしょうか?
小泉:基本的にはフラットですが、第1話にスタジアムMCの山田みきとしさん、第2話にベイスターズOBで球団職員でもある荒波翔さん、第3話にベイスターズOBの高木豊さんが出ていたりと、話ごとにゲスト出演があるんです。そういった方々の出演によって、ベイスターズファンの皆さまにも「おっ、出てるね」と思ってもらえたらうれしいので、展開次第ではベイスターズファンの著名人の方にもぜひ出ていただきたいなと思っています。
●チーム全体に広がっている「面白いことをやっているな」という雰囲気
――脚本は、カンヌ国際映画祭に出品された映画『PERFECT DAYS』で共同脚本を務めた高崎卓馬さんが担当しています。
小泉:ドラマの根幹になる脚本で、高崎さんの力をお借りできるのは本当に幸運だと思っています。高崎さん自身、プロ野球に対して知見や理解のある方ですし、事前に横浜スタジアムや横須賀スタジアムも見学していただきました。すごく細かいところに目をつけて「これ面白いね」「こうなってるんだね」とメモを取りながら聞いてくださったのが印象的でした。制作を依頼しているAOI Pro.さんの中にもベイスターズに詳しい方が複数いて、日々の試合内容を自分たちでキャッチアップしてくださる、PR会社のバスコムさん含め、「ファンの方が観たときに嫌な思いをしないかな」といった細かいニュアンスまで考えてくれるような体制になっていると思います。
――高崎さんも初の試みということで、前向きに取り組まれているんですね。本作について、選手・監督・コーチたちの反応は?
小泉:僕は選手たちと直接コミュニケーションはとっていませんが、あるチームスタッフからは「お前、またワケわからないことをやるのか」と言いながらも(笑)、「面白いね、うちらしいよね」と。選手や監督もSNSを自分たちで運用しているので、もちろん動画は観てくれていると思います。そもそもマイナスなことを言う人たちはいませんが、「面白いことをやっているな」という雰囲気は、チーム全体に広がっているのかなと思います。
――第3話まで配信されましたが、反響や手応えは?
小泉:僕の中では「想定内だな」という印象です。観た方のコメントを確認していると、概ね好意的に受け取られているように思います。社内の人間からも「面白い」という声が多くて、「次回のことは言わないで、ネタバレになるから」といった会話をすることもありますね(笑)。
――ターゲットである若者たちに届いているという感触も?
小泉:細かいデータをお伝えするのは難しいのですが、バズっている牧(秀悟)選手のダンス動画などを度外視すると、ふだんTikTokを観てくれている層と比べて、やはり若い方が観てくれているという手応えはあります。地域別の視聴層などを見ても、これまでとの違いを肌で感じているので、「方向性は間違っていないんだろうな」と思っています。
――勝敗連動なので、どんな展開にもなり得ると思います。私もベイスターズファンなのでこれは愚問なんですが、負けても楽しめるのかなと……。
小泉:もちろん負けることは想定していませんが、最悪の事態になることも可能性としてはあるので、それに対する解決策は常に考えています。仮にそうなったとしても、ドラマ自体を楽しんでもらわなければ、その先にある「ベイスターズに興味を持ってもらう」という話にはならないので、そこのクオリティは絶対に担保しなければいけない。今までのドキュメンタリー映像作品やYouTubeの映像もすべてそうですが、動画を観ている方に楽しんでもらえるものを作ることが大前提なので、その上でさらにその先を目指していきたいと思っています。
――最後に「こんなポイントに注目したらより楽しめる」といったものがあれば教えてください。
小泉:今後も各話ごとのゲストを楽しみにしていただきたいですし、第2話で登場したレストランのメニューが「デミ“ラミレス”ハンバーグ」になっていたりと、実は小ネタも挟んでいます。新規の方にベイスターズの魅力を伝えていくのと同時に、既存のベイスターズファンの皆さまにも楽しんでもらえる要素を散りばめているので、ぜひそれを見つけてほしいですね。誰か一人が気づいて、「わぁ、本当だ」と広がっていっても面白いなと思っています。
(文=石井達也)

