高級レストランや一泊10万超えのホテルでデート三昧。最高の彼氏だと思っていたけど、裏があって…
「海外で、挑戦したい」
日本にいる富裕層が、一度は考えることだろう。
そのなかでも憧れる人が多いのは、自由の街・ニューヨーク。
全米でも1位2位を争うほど物価の高い街だが、世界中から夢を持った志の高い人々が集まってくる。
エネルギー溢れるニューヨークにやってきた日本人の、さらなる“上”を目指すがゆえの挫折と、その先のストーリーとは?
現状に満足せず、チャレンジする人の前には必ず道が拓けるのだ―。

Vol.10 恋愛文化の違いに驚愕する瑞希(28歳、エンジニア)
「またダメか…」
コロンビア大学からインターンで来ているクロエとコーヒーブレイク中に、スマホを見て私は思わず声を漏らした。
「Has anybody ghosted you again?(また音信不通にされたの?)」
彼女が両肩をすくめて笑う。
「ニューヨークでは、住居と仕事と恋人を見つけるのがとても大変だ」と確かSATCのドラマの中でキャリーが言っていた。
今、その気持ちが痛いほど私にはわかる。
京都大学の大学院を卒業後、Cal Polyの修士課程に進み、その後ニューヨークの医療系スタートアップに就職してマンハッタンに住んでいる。
物価の高いニューヨークで生きるのは、思った以上に大変だ。
文化の違いに驚くことも多々ある。
蕎麦はすすれないし、洗濯物は外に干せないし、仕事は同じ会社でも奪い合いだし。
それでも、好きなところもたくさんある。
「あなたはこれまで何度失敗しましたか?」
今の会社の採用面接で聞かれた言葉。
失敗を“挑戦の証”と評価する文化は、私には刺激的で合っていた。
足りないのは恋人だけ。
忙しさを理由に、こちらに来てから5年ほど“彼氏”と呼べる人がいない。
「どうやって異性と出会うの?」
「やっぱりアプリじゃない?」
クロエ曰く、アメリカには“合コン”なんてものはなく、アプリでの出会いが主流だという。
「怖くない?危険な人とかいない?」
怖がる私に、彼女は「さぁ?中にはいるだろうけど、私は危ない目にあったことないわ」と小首をかしげた。
― 一度試してみようかな…。
それから私はアプリに登録し、メッセージをやり取りして、良さそうだと思う人と会ってみた。
だが、結果は散々。
好きなアニメの話しかしない男性には「僕を“オニイチャン”って呼んで」と謎のお願いをされたり、アジア系のアイドルの話ばかりをされた挙げ句「やっぱり君はちょっと違う」とガッカリされたり…。
中には会って1時間で結婚を申し込んできて「日本人は仕事も家事も育児も全部やってくれるんだろう?」と悪びれずに言う強者までいた。
やっと2人、もう一度会ってみようかなと思える人がいたが、音信不通にされてしまった。
「また失敗…。どうやったら素敵な独身男性と出会えるんだろう…?」

そんな話をしていると、セールスマーケティングで働くジェシカが通りかかった。
「ねえ、それなら金曜日にみんなでバーに行かない?友達にシングルのいい男が集まるバーを教えてもらったの」
そうして私たちは『The Press Lounge』のルーフトップバーにやって来た。
広々としたモダンで落ち着いた空間には、スーツを着た男性グループが何組かいた。
その中の30代前半と見られる3人組の男性たちが、こちらをチラチラと見ている。
「どうする?」
クロエが聞くと、ジェシカは「いいんじゃない?」と彼らに目線を向けて微笑んで見せる。
すると、男性たちが飲み物を持って、こちらのテーブルにやって来た。
「一緒に飲まない?」
一目で高そうだとわかるスーツに身を包んだ彼らは、いかにも慣れていそうな雰囲気だ。
私は気後れしたが、ジェシカとクロエは彼らを気に入ったのか、すぐに受け入れた。
自信たっぷりでグイグイと話しかける男性は、ジェシカに。明るく人当たりの良い男性は、クロエに。
それぞれ示し合わせたかのように、すぐに個人戦へと持ち込んだ。
余ったのが私と、物静かで真面目そうなローガン。
ぎこちなく自己紹介をし、徐々に打ち解けていった。
見た目は大人しそうだが、話してみると聡明で話題も豊富で紳士的。
投資銀行でアナリストをしているという彼は、透き通る綺麗なグリーンの瞳が魅力的だった。
ローガンは私を家まで送ってくれたあと、こう言った。
「君の笑顔はとても素敵だね。今度良かったら食事に行かない?」
少し照れる彼に、私はすでにときめいていた。
◆

それから私たちはデートを重ねた。
1度目は『The Modern』でランチをし、2度目は『L’Artusi』でディナーを楽しんだ。
そして3回目。サンセットジャズクルーズでデートをした後、彼とキスをしていい雰囲気になる。
でも、私の気持ちが固まっていなかったので、彼と一夜を共にしなかった。
彼は「ミズキの気持ちが固まってからで大丈夫。ゆっくりお互いの関係を育んでいこう」と言ってくれ、最後に「I really like you」と愛おしい瞳をして言った。
彼の紳士的な態度に、すっかり私は気を許す。
5回目のデートでダウンタウンにある『Four Seasons Hotel』に行き、初めて大人の関係になった。
その時から、彼とは毎日のように連絡を取り合い、頻繁にデートをしている。
気がつけば、彼は私のことを「Honey」だとか「Baby」と呼ぶようになり、5年ぶりにできた彼氏に私は柄にもなく舞い上がった。
11月に入り、サンクスギビング、クリスマス、ニューイヤーとイベントが続いたが、アメリカでは家族と集まるため、彼は実家に帰ってしまった。
私も日本に一時帰国し、彼とは通話アプリで連絡を取り合った。

私たちは互いに「I miss you」と言い、2人とも再会できる日を心待ちにしていた。
1月にアメリカに戻った時には、中華レストランへ行った後、彼の部屋でとびきり甘い時間を過ごした。
そしてバレンタインデーの前日。彼からもらったのは1輪の黄色いバラと可愛いカード。
中には「Happy Valentine’s day!」のプリントの横に、彼の手書きでこう書かれていた。
「You always make my day. Thanks for being a part of my life.」
訳すと「君はいつも僕を幸せな気持ちにしてくれる。出会ってくれてありがとう」という感じだろうか。
私は彼の愛に溢れた文面に気持ちが高まり「I love you.」と伝えると、彼は「Thank you」と私を抱きしめてキスをしてくれた。
仕事もあり住むところもあり、そして何より完璧な彼氏がいる。
私はこの世の全てを手に入れた気になった。
そして1ヶ月後、彼から衝撃のテキストが来た。
「君とはいい関係を築いたけれど、残念ながら“対等”な関係にはなれなかった。僕は別の人と真剣に付き合うことに決めたんだ。だから悲しいけれど、もう君と一緒に出かけたりすることはできない」
そして文の最後には、こんな言葉が書かれていた。
「I really like you and always care about you.(君を大好きだしいつも想っているよ)」
この文面に、私は思わず「は?」と目が点になる。
― え、一体何を言っているの…?
この半年以上、私たちは確実に付き合っていたはずなのだ。最後にも“好きだ”と書いてある。
それなのに“誰かと真剣に付き合うからもう会えない”とはどういうことなのか…。
クロエに相談すると、申し訳なさそうにこう言った。

「多分真剣交際じゃなかったってこと。同時進行していた別の人と付き合うことにしたのね」
「二股ってこと!?半年以上もデートしたのに!?」
驚く私に、諭すように言った。
「ずるいけど二股とは言えないわ。誰かに“彼女”って紹介されたり、一度も“I love you”って言われてないんでしょう?」
確かに、彼の両親や友人に会ったことはないし、彼は私を「好き」と言いながらも“love”だけは使わなかった。
本当は、ずっと不安だったのだ。
「I love you」の返事が「ありがとう」なことにも、デートが高級レストランから手頃なアジア料理やカフェに変わったことにも、違和感を感じていた。
それなのに、好きだから、怖いからと関係を確かめることもできず、目をつぶっていたのだ。
「また、失敗したんだ…」
今度こそは、と切願していた私は、予想外の結果に愕然とする。
するとクロエはニッコリと笑顔を見せた。
「ほら、F.A.I.L(失敗)はFirst Attempt In Learning(学びの第一歩)って言うじゃない?初めは2回目のデートすらできなかったのに、半年も楽しい日々を送れたんでしょう?次はきっと大成功するわ」
そうだ、私はアメリカのこういう文化に惹かれたんだ。
“恋愛における文化の違い”に私は怖さを感じてしまったが、彼女が言うように、これは“成功のための必要な失敗”だったのだ。
「まあでも“First”ではないけどね」
私が言うと、クロエは声をあげて笑った。
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