2022年上半期(1月〜6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。人間関係部門の第4位は――。(初公開日:2022年1月23日)
50代は役職定年、親の介護といった人生の難局に直面する世代。作家の松尾一也さんは「50代で人生のマネジメントができるか否かで、それまで育てた果実を手にできるか決まります。人生を実らせるのは、『エリート・金持ち・有名』ではなく『良い人間関係・元気・心の平安』です」という――。

※本稿は、松尾一也『50代から実る人、枯れる人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■あなたが自分の時間とエネルギーを使うべきものは何ですか

実る人=人生を幸せにするものに気づく
枯れる人=人間関係から枯れていく

YouTubeで「TEDカンファレンス」の映像を見て、背筋が震えるほどの感動を覚えました。「人生を幸せにするのは何?」……なんとシンプルに最も大切で重要なことを伝えているのだろう! と。

一生を通して私達を健康で幸福にしてくれるのはなんでしょうか。

――最高の未来の自分のために投資するべきものとは?
――自分の時間とエネルギーを使うべきものとは?
――最も大切な人生の目的とは?

これはハーバード大学が1938年から約80年、724名の男性を調査し続けた史上最も長期間にわたって成人を追跡した研究です(ハーバード成人発達研究)。そして4代目所長のロバート・ウォールディンガー教授によると、その答えは……

「私達を健康に幸福にするのは、良い人間関係に尽きる」なのです。

はぁ? と感じる人もいるかも知れませんが、50歳を超えた多くの人はうなずき、共感することでしょう。私も人間育成の仕事に34年従事してみて、まさにその通りだと思います。

特に50代の時に良い人間関係に恵まれていると、70代、80代の時に健康で幸せを実感している比率がかなり高い、という研究結果が出ているのだそうです。ロバート・ウォールディンガー教授が紹介している作家のマーク・トウェインの次の言葉は心に刺さるものがあります。

「かくも短き人生に、争い、謝罪し、傷心して、責任を追及している時間などない。愛し合うための時間しかない。それがたとえ一瞬にすぎなくても、良い人生は良い人間関係で築かれる」

人が実るも枯れるも、その人の「人間関係」次第ということです。

■ファミリーとの他愛のない話で「家族体温」が高まっていますか

実る人=家族との温度を高める
枯れる人=自分の話ばかり聞いて欲しがる

「一人で生まれ、一人で死ぬに なぜに一人で生きられぬ」という川柳があります。まさに我々はこの世に一人でやってきて、一人で去っていく存在です。

だけど、いつも孤独を感じる生き物で、誰かとつながっていないとやっていけません。ある意味、50代は最も「孤独」に耐えないといけない期間かも知れません。パートナーとも結婚して20年以上が経過していて、よく言えば「空気」のような関係になり会話も希薄になるケースが多いです。子供たちも成長して、精神的に親離れをしていて、親密な対話もほとんどなくなってしまいます。

松尾一也『50代から実る人、枯れる人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

一方、あんなに元気だと思っていた両親に陰りが見え始める頃合いです。あそこが痛い、ここが痛いと病院に連れていく作業が増えます。そのまま深刻な状態になり、手術、看病、そして見送るという悲しいフローチャートになることもままあります。

私の場合は30代後半で父を看病、見送り、40代で母親を施設に入れなくてはならないという試練を早めに体験しました。

とにかく親のケアにエネルギーを相当、奪われることになります。そんな時だからこそ、それぞれの家族と丁寧に付き合わないと今後の人生で悔いを残すこととなります。ケンカするパートナー、ムカつく子供、看病する親、実はすべていてくれるだけで有難いと思う日がきっと来るものなのです。

「なにを食べても美味しかった……
なにを見ても楽しかった……
気がつくとそんな時いつもあなたがそばにいた……」

両手が義手の詩人で画家の大野勝彦さんからいただいた言葉です。

その関係性を温める一番のコツは、あらためて話を丁寧に聴き届けるということです。家庭でケンカがおきて、「言い争い」になりますが、「聴き争い」という現象はありえませんね。

「もっと話を聴かせてくれよ!」「いや、私が聴きたいの!」

こんなことになりますか(笑)。

パートナー、息子や娘、両親、それぞれの本心を聴いてあげることがお互いの関係性を温めることになります。具体的な行動として、月に1度くらいは家族で食事に行く習慣がバカになりません。日本の豊かな食文化はどこの街でも楽しめますし、予算も財布に合わせられるのでそんなに高いハードルではないでしょう。

我が家も近くの美味しい焼き鳥屋へ家族で定期的に通っています。そこでそれぞれが他愛のない話をしている瞬間に家族体温が高まります。せめて家族とだけは「信頼」を柱に生きたいものです。

■「同窓会なんてまっぴら御免」という人、本当にそれでいいのですか

実る人=喜びの窓口を大切にする
枯れる人=良い友達を捨てる

50代にもなると多層にわたる友人がいます。

学生時代の友人、仕事で知り合った友人、趣味などの仕事以外での友人。まずは同級生、何が一番楽かというと「お前、いくつになった?」という会話が必要ないことです。

大阪万博、高度経済成長、昭和歌謡、バブル、失われた20年……。ほぼ同じ体験を重ねているので自然と共感しやすいものです。私も高校時代の友人6人とLINEを使って日々、他愛のないやりとりをして楽しんでいます。

サッカー日本代表の試合、プロ野球の日本シリーズなどビッグイベントの最中にそれぞれのコメントが投稿されて大変愉快です。

離れていても一緒に観戦している感じで盛り上がります。たまに会って、酒を酌(く)み交(か)わすこともありますが、ここで重要なことがあります。さすがに50年も生きてくるとそれぞれの価値観や哲学がかなり違ってきているということです。

若い頃の友情は全幅の信頼のもとに築かれていたはずですが、中年以降はそれぞれ異質な人間同士であることを理解して、片目をつぶって仲良くする。そんな心がけも大切です。

仕事を通じての友人、これも天からのギフトです。お互いの研鑽や成果をシェアできる喜びは働きがい、生きがいを感じます。50代にもなると酸いも甘いも味わえる感性を持ち合わせていて面白さも増します。

また駆け引きのない仕事以外の友人というものも貴重です。

私はスポーツクラブの友人とはかなり深い絆で交友していて、共に汗を流し、たまに食事も一緒にして人生について語り合います。

以上のように「50代の友達ワールド」は人生の宝箱でもあります。

写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

しかし、逆に「孤独」に陥る可能性も高いものです。

人づきあいにも疲れ、仕事がらみの人には会いたくもないし、同級生とは極力コンタクトを取りたくない、今さら同窓会なんてまっぴら御免という人も多いです。私自身も一人メシ、一人酒、一人旅、一人で映画、一人で読書のおひとり様が気楽でいいと感じることがあります。

その気持ちもわからないでもありませんが、やっぱり生きる喜びをもたらす窓口のひとつは「友人」です。数は少なくていいのです。学生時代の友人一人、仕事仲間で一人、それ以外で一人は人間関係を活性化させて大切にしましょう!

一番、避けなくてはいけないことは「セルフ・ネグレクト(自己放任)」に陥ることです。

セルフ・ネグレクトは孤独死の8割を占(し)めると言われており、近年深刻な社会問題となっています。「もうどうなってもいいや」という心境になった時こそ、友達に会うことです。

(ルネッサンス・アイズ代表取締役会長 松尾 一也)