約10年前と比べて8万台近く販売台数は増えている

 国内の販売状況を振り返ると、ホンダのメーカー別販売ランキング順位は、2008年ごろまでトヨタと日産に次ぐ3位だった。スズキに抜かれて4位に後退することもあった。ところが今は、トヨタに次ぐ2位を安定的に守っている。3位はスズキ、4位はダイハツ、5位は日産と続く。

 順位が入れ替わった一番の理由は、ホンダ車の国内販売台数が伸びたことだ。ホンダ車(小型/普通車+軽自動車)の販売推移を振り返ると、2010年は64万7000台だが、2015年には72万7000台に増えた。2019年は若干減ったが72万2000台を保っている。

 ちなみに国内販売総数は、2010年が495万6000台、2015年は504万7000台、2019年は519万5000台だ。2019年の国内販売総数は2010年の105%だが、ホンダ車に限ると112%だから伸長率が上まわる。そうなるとメーカー別販売ランキング順位も高まる。

 また日産の国内販売台数は、2010年が64万5000台、2015年は58万9000台、2019年は56万8000台と減っており、販売ランキング順位も前述の5位に後退した。ホンダ車が増えて、ほかのメーカーは減少か微増だから、ホンダのメーカー別順位も2位に繰り上がった。

 ならば今の状態がホンダの国内販売にとって幸せかといえば、必ずしもそうではない。ホンダ車全体の販売台数が増えたのに、小型/普通車は減っているからだ。2010年は48万6000台、2015年は38万1000台、2019年は35万7000台と一直線に下がっている。2010年と2019年を比べると、ホンダ車全体では前述の112%だったが、小型/普通車に限ると73%に減った。

 この背景にあるのは軽自動車の急増だ。2010年の軽自動車届け出台数は16万1000台だったが、2015年には2倍以上の34万6000台に達した。2019年も少し増えて36万5000台だ。軽自動車の届け出台数を2010年と2019年で比べると、じつに227%になる。そうなるとホンダの国内販売に占める軽自動車の比率も増える。2010年は国内で売られたホンダ車の25%が軽自動車だったが、2019年は51%だ。

 ここまでホンダの軽自動車が増えた一番の理由は、N-BOXのヒットだ。2011年に発売された初代モデルが売れ行きを伸ばし、2017年登場の2代目も絶好調に売れて、今は国内販売の1位を独走する。

 直近(2020年1〜8月)のデータでは、N-BOXだけで、国内で売られるホンダ車の32%を占めてしまう。軽自動車全体では、前述のように50%を上まわり、コンパクトなフィットとフリードも加えると80%に達するのだ。ステップワゴン、オデッセイ、ヴェゼル、シビックなどは、すべて合計しても残りの20%に含まれる。

このまま軽が売れ続ければ従来のホンダファンが離れる可能性も

 今は日産も軽自動車が好調に売れて国内販売の40%以上を占めるが、販売格差はホンダほど極端ではない。N-BOXが絶好調に売れたことで、ホンダのブランドイメージは軽自動車+フィット+フリードに偏り、「小さなクルマのメーカー」になりつつある。

 そして環境性能や自動運転技術への投資も増えたから、費用対効果が従来以上に問われ、選択と集中も進んだ。そうなると今の売れ方では「国内市場は軽自動車とコンパクトカーに任せれば良い」という判断を招く。商品開発にも偏りが生じて、スポーティなホンダが好きなユーザーにとっては辛い。

 ホンダの販売会社も、小さくて安価なクルマばかり売れるのは困る。店舗を見ても、スズキやダイハツのように、軽自動車が中心の販売で成り立つ作りにはなっていないからだ。

 小型車のヴェゼルは、国内で販売しやすいコンパクトSUVで、以前は好調に売れたのに今の登録台数は前年の半数程度だ。ステップワゴンも30〜40%のマイナスになっている。

 先ごろ軽自動車の新型N-ONEが披露されたが、今後は小型/普通車にも力を入れて売れ方のバランスを整えるべきだ。2011年に登場したN-BOXが好調に売れた背景には、優れたクルマ作りに加えて、「小型/普通車を中心に開発するホンダの手掛けた軽自動車」という商品イメージもあった。その結果、軽自動車でありながら、ホンダの出店が多い都市部でも好調に売れて人気車になった。

 軽自動車が国内販売の過半数を占める状態が続くと、ホンダのブランド力も影響を受ける。それは軽自動車の販売面にも、支障を来たしかねない。軽自動車を守るためにも、小型/普通車に力を入れるべきだ。