ディズニー実写版』『ムーラン』での主演俳優のスタントダブルをはじめ、数々のアクション作品でスタントを務めてきたリウ・ヤーシーが映画初主演を果たした『シャオ・メイ/ローマ大決戦』。2025年シッチェス国際映画祭オルビタ賞の長編作品賞、イタリア・ゴールデングローブ賞の監督賞を受賞したことも話題だ。

行方不明となった姉を探すためにローマにやってきた中国人女性シャオ・メイ(リウ・ヤーシー)は、売春や人身売買が横行する移民地区で食堂を営むマルチェッロ(エンリコ・ボレッロ)の助けを借りて、高級中華料理店「紫禁城」を根城にする人身売買組織に戦いを挑む。ローマを舞台にしたカンフー映画という異文化が混在する中で繰り広げられる愛と憎しみの大作を作り上げたのは、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』で注目されたイタリアの鬼才ガブリエーレ・マイネッティ監督。ブルース・リーを敬愛し、これまでも様々なジャンルを融合させた作品を生み出してきたマイネッティ監督が『シャオ・メイ/ローマ大決戦』を制作した意図とは? インタビューで訊いた。

――カンフー映画を撮るという構想はいつどのように生まれたのでしょう? 

良い質問ですね。というのも、元々はとあるホラー映画を撮るはずだったのですが、制作費が2億ユーロ以上かかることになって頓挫し、以前から話に出ていたカンフー映画を撮ることをプロデューサーに提案されました。私のスタイルでカンフー映画を撮るとするとある程度の予算は必要なのですが、2023年3月頃に何かしら作品を撮ることにはなっていたので、すぐに準備に取り掛かりました。『シャオ・メイ/ローマ大決戦』のロケ地であるローマのエスクイリーノ区にあるヴィットーリオ広場は私の仕事場から200メートル離れていない場所なのですが、中国系の人が多いエリアで、「ここでカンフー映画を撮るのはどうだろう?」と思いつきました。

――カンフー映画のスターであるブルース・リーは監督のヒーローということですが、どんなところに惹かれたのでしょうか?

たくさんあります。ラッキーなことに私が7〜8歳の頃、初めて観たカンフー映画がブルース・リーの映画で、その強烈な印象が今も心に焼き付いています。まず、緊張感を漂わせながらあの美しい動きをするところが素晴らしいです。ブルース・リーの映画は引きの画で戦うシーンを見せることが多いですが、バレエダンスのようにも見える。リズム感が完璧なんですよね。ブルース・リーはアクションスターが持つべきものをすべて持っています。例えばジャン=クロード・ヴァン・ダムもアクションができる俳優ですが、誇張し過ぎなところがあってブルース・リーのような美しさはありません。ブルース・リーは私にとって映画を超えた存在です。特に『ドラゴン危機一発』とローマで撮影された『最後のブルース・リー ドラゴンへの道』が印象深いです。後者はローマのコロッセオで戦うシーンがありますが、『シャオ・メイ〜』で私はローマを背景としてではなく、登場人物の一人のように描きたかったんです。また、アメリカ人がカンフーをやっている作品がありますが、個人的にはあまり説得力が感じられないので、カンフーの本場である中国の方に文化を背負って演じてもらいたくてリウ・ヤーシーにシャオ・メイを演じてもらいました。文化交流は本作の重要な要素のひとつです。

――『シャオ・メイ/ローマ大決戦』はカンフー映画であり、人間ドラマでもあり、家族ものでもあり、文化交流の映画でもあり、多くの要素が混在しています。脚本を書き進める上で悩んだことはありましたか? 

確かにバランスを取るのは難しかったです。イタリアの映画は内向きのものが多いですが、映画はグローバルなエンターテインメントです。イタリアの観客に共感してもらうためにイタリアの家族を大切にする文化を取り入れつつも、カンフーの要素も強くしたい。ただ、私が過去に撮った『鋼鉄ジーグ』や『フリークスアウト』もいくつもの要素が混ざり合った映画でした。登場人物の感情を大事にしながら、「このシーンでは何が必要か」ということをしっかり考えていく中で、楽しさと美しさを盛り込んでいきました。私にとって映画作りは自分の好奇心を満たすもので、アジアの文化は私の好奇心を強く刺激してくれるものなんですよね。このまま映画を作っていくと、いずれは自分が話せない言語の映画を撮ることになるかもしれません(笑)。

――イタリア文化が盛り込まれたシーンの中で特に気に入っているシーンは? 

ローマでメイがバイクに引かれそうになるシーンで、メイはローマ訛りのイタリア語で「何やってんだよ!」と怒鳴られます。そこでメイはイタリア文化のシャワーを浴びるわけなんですよね。また、ローマのレストランでメイはウェイターに「座れ」と言われて、あんなに強いファイターなのに従順に座ります。その店のレジではお客さんが「この会計は間違ってる」と話していて、キッチンからは怒鳴り声が聞こえる。ローマの文化と中国の文化という大きく違うものが同じテーブルに乗っかっているような映画を作りたかったんです。

――監督の初長編監督作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は永井豪のアニメ「鋼鉄ジーグ」を題材にしていましたが、日本のアニメや映画で好きな作品というと?

私はボローニャ大学で映画史と映画批評を専攻していたのですが、日本のアニメにはクレイジーな自由さを感じます。宮崎駿監督のアニメのキャラクターは空を飛んだりしますが、誰も「なぜ飛ぶのか?」という疑問を持ちません。日本のアニメならではの自由で大胆なマインドに多大な影響を受けていると思います。中でも永井豪は私を灯台のように照らしてくれる存在で、一番のお気に入りは「デビルマン」です。何度も読んでいて、映画化したいという気持ちはあるのですが、相当制作費が高くなるだろうなと(笑)。日本の映画監督で優れていると思うのは、ありきたりかもしれませんが、黒澤明、小津安二郎、三池崇史、北野武、是枝裕和、濱口竜介。イタリア映画は顔で表現するアプローチが目立ちますが、日本映画には目で語るようなエネルギーを感じます。一番影響を受けたのは北野武監督の『ソナチネ』や『HANA-BI』あたりでしょうか。パク・チャヌクですらアメリカ映画を意識したロバート・ダウニー・Jr.主演のドラマシリーズ『シンパサイザー』を作っているけれど、北野武は世界的な監督になっても、アメリカ映画のロジックに迎合せずに、日本映画だからこその美しさが宿る映画を作り続けているところに惹かれます。

【インタビュー・執筆】小松香里
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