《骨粗しょう症、歯周病、認知症を治療できる?》アンチエイジング研究で注目される“若返りタンパク質” 「DEL−1(デルワン)」の正体とは…最新研究セミナーをレポート
老化細胞を除去してくれる"若返りタンパク質"がある──超高齢社会の日本でいま、そんな最先端のアンチエイジング研究が進んでいる。
【写真で見る】「どうすれば若返る?」前川教授による「DEL−1(デルワン)」の解説スライド
4月22日、日本橋の会議室で開かれたセミナーに登壇したのは、"若返りタンパク質"と呼ばれる「DEL−1」研究の第一人者である新潟大学大学院医歯学総合研究科の前川知樹研究教授だ。前川教授の専門は免疫学や歯周病学を中心とした炎症制御・組織再生研究。特に体内の炎症を抑える「DEL−1」に着目し、骨の再生や、口腔組織の修復・再生に関する研究を進めている。
「DEL−1」とは果たして何なのか。前川教授はセミナーの冒頭でこう語った。
「DEL−1(デルワン)は、みなさんの体の中にもたくさんあるタンパク質です。ただこのタンパク質は、老化細胞だけを認識して体の中から除去することで、体を健康な状態にしてくれる働きがある。いわば、『若返りのタンパク質』です」
体内の掃除屋「DEL−1」とは?
人間の体は日々、健康に悪影響を及ぼす「老化細胞」を生み出している。DEL−1は、この老化細胞に自死(アポトーシス)を促し、免疫細胞に「食べて処理して」と命令を出す働きを持つという。つまり、DEL−1が体内に多ければ老化細胞が蓄積せず、若々しさが保たれるというわけだ。
しかし、このDEL−1は一生涯同じ分泌量を保てるわけではない。
「血液を調べてみると、若い頃は150くらい数値があるのですが、30代から50代くらいにかけて急激に下がります。そして60〜70代になるとほとんど出なくなってしまうんです。若い頃は怪我も風邪もすぐ治ったのに、40、50代になるとなかなか治らない。それはこのDEL−1が減るからだと考えています」
興味深いデータもある。前川教授が様々なメディアの協力で人々のDEL−1の量を測定したところ、日々のライフスタイルやストレスが数値に如実に表れることが判明したのだ。
「若々しいと言われる芸能人の方は、やはり健康に気を遣っていらっしゃるのでDEL−1の濃度が非常に高い方が多いです。一方で、あるテレビ局の制作スタッフ45名を測ったところ、実年齢の平均が45.6歳なのに対し、DEL−1から見た体内年齢は51.3歳でした。特に仕事が多くて寝不足なAD(アシスタントディレクター)の方などは、実年齢より20歳も高く(老けて)出るケースもありました」
睡眠不足や激務によるストレスは、この若返りタンパク質を激減させる天敵。逆に、定時退社を徹底し「日本一のホワイトラボ」を自称する前川教授の研究室メンバーは、実年齢より非常に若い数値を示すという。
マウスの寿命が1.5倍に! 外部から補うことで得られる驚きの効果
加齢やストレスで減ってしまうなら、外部から補う、あるいは自力で増やせばいいのではないか。そう考えた前川教授らは研究し、実際にDEL−1を体内に増やすことで、様々な「加齢による病気」が劇的に改善することが分かってきている。
マウスだけではなく、より人間に近い「サル」を対象にするため、自らフィリピンの山奥に寝泊まりして研究を続けてきたという前川教授。その成果は驚くべきものだったようだ。
「最も分かりやすいのが『骨』です。年を取ると骨を作る細胞と壊す細胞のバランスが崩れ、骨粗鬆症になります。しかし、年老いたマウスや、重度の歯周病で歯を支える骨が溶けてしまったサルにDEL−1の薬を投与すると、たった半月から1か月ほどで若い頃と同じくらいしっかりとした骨が再生されるんです」
効果は骨にとどまらない。DEL−1を補うことで、人工透析が必要な腎臓病の進行を食い止めたり、認知症を予防したりできる可能性が研究で示されている。また、肌の潤いやバリア機能の維持、高齢者の治りにくい口内炎の完治など、身近なトラブルへの効果も絶大だ。
「DEL−1をずっと体内で出せるように遺伝子を変えたマウスは、通常の平均寿命2年を大きく超え、3年半も生きています。しかも、ただ長生きするだけでなく、毛並みもツヤツヤで、太らずスマートなままなんです」
では、私たちが日常生活でDEL−1を増やすにはどうすればいいのか。特別な薬がなくても、今日からできる簡単な方法があるという。
「40代、50代で運動習慣のない方に『1日1時間のウォーキング』を1か月続けてもらうと、DEL−1量が1.5倍に上がりました。また、運動が難しい場合でも、オメガ3脂肪酸である『アマニ油』を毎日小さじ1杯、1か月とり続けるだけで同じく1.5倍になることが分かっています。納豆や味噌汁、出来上がった料理にかけて食べるのがおすすめです」
「自分の若さを自分で管理する」DEL−1が変える未来の生活
元々体内にある成分のため副作用のリスクが少なく、根本から体を若返らせるDEL−1。その研究が進むことで、私たちの老後や医療のあり方は大きく変わろうとしている。
前川教授が目指すのは、病気になってから治療するのではなく、DEL−1を指標にして「病気を未然に防ぐ」未来だ。
「薬品化によって治療に役立てるのはもちろんですが、将来は、自宅で唾液を採ってDEL−1値を測れるキットを作りたいと考えています。血液検査などに加えてDEL−1値も定期的に測って、個人個人のポートフォリオを提供できるようになればいいなと」
日々のちょっとした習慣で体内の「掃除屋」を増やし、細胞レベルから若さを保つ。日本橋の会議室で語られたのは、老いを恐れず、誰もが自分の健康を自らコントロールできる、希望に満ちた未来の姿だった。
