立花孝志氏「攻撃や逃亡のおそれ」は保釈拒否の根拠にならない? ネットの疑問に弁護士が解説
「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告が名誉毀損罪で逮捕され、その後起訴されました。身柄拘束は半年にわたっています。
筆者自身の刑事弁護経験上、刑事裁判の過程で身柄拘束が長く続くケースは非常に多いと感じています。このことを記事にしたところ、多くの反響がありました。
その中には、たとえば今回の立花氏のケースでは、「被害者をSNSなどで攻撃してきた事実があるから保釈できなくて仕方ない」「身柄を解放されたら逃げそうだから当然ではないか」といった疑問もあるようです。そのような疑問について検討してみます。
●はじめに
まず前提として、この記事で問題として取り上げたいのは、日本の刑事司法のありかたであって、立花氏個人の言動に対する賛否とは関係がありません。
制度を考えるときに注意すべきなのは、制度は誰にでも同じように適用されるということです。
「悪い人はずっと閉じ込めておけば良い」という人もいますが、「悪い人」かどうかを判断するのは捜査機関や裁判所であり、その判断が常に正しいとは限りません。また、自分自身や、自分にとって大切な人は身柄拘束されず、そうでない人はずっと身柄拘束される、というわけではないのです。
同じことは、憲法改正や法律の制定・改正についてもあてはまります。警察官や検察官、裁判官も人間ですから、間違いも起こりますし、恣意が入る可能性も否定できません。そのように運用された場合にも不当な人権侵害が起こらないように設計する必要があります。
●「被害者を攻撃するおそれ」は保釈拒否の根拠になるか
話を保釈に戻します。
ここで注意すべきなのは、「現在の実際の運用から見てどう判断されるのか」という問題と、「あるべき制度はどういうものなのか」という問題は別であることです。
まず、現在の運用について考えてみます。
条文上、保釈請求は、6つの除外事由がない場合には認めなければならないとされています(刑訴法89条1項本文)。
除外事由として今回該当しそうなものとしては、以下の2つがあります。
・「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」(刑訴法89条4号)
・「被害者その他の者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき」(同法同条5号)
現在の実務上は、立花氏が、SNSを通じて攻撃的な発言をしてきたという事情が、このうち4号の罪証隠滅(※証人に対する働きかけもこれにあたり得ます)や、5号の被害者等を畏怖させると疑うに足りる相当な理由になりうることは否定できません。
実際、今回のケースでも、起訴直後にされたという保釈請求は認められていません。その理由は必ずしも明らかではありませんが、4号・5号のいずれかもしくは両方に該当すると裁判所が判断したものと思われます。
●このような運用が「あるべき姿」なのか
上のような運用は、立花氏に限ったことではなく、刑事裁判では「あるある」とすらいえます。
ただ、そのような運用が「あるべき姿」なのかは疑問です。
たとえば本件で、4号の罪証隠滅や5号の被害者などの畏怖をさせるような「相当な理由」が本当に認められるのかは、慎重に判断すべきだと思います。
4号や5号の「相当な理由」(おそれ)は、抽象的なものでは足りず、具体的・現実的なものである必要があるとされています。
本件の場合であれば、逮捕・勾留前に攻撃的な言動を繰り返してきたことから、保釈後に同様の言動を行うかもしれないと考えることは、「具体的・現実的なおそれ」があるといえるでしょうか。
個人的には、もし「逮捕・勾留前に攻撃的な言動を繰り返していた」という事情だけだったとすれば、抽象的なおそれに過ぎないのではないかと思います。その理由は大きく2つあります。
まず、身柄拘束が実際に行われたことで、それまでとは状況が大きく異なっています。保釈後に被害者を畏怖させる言動などを行えば、保釈が取り消されるおそれがあります(刑訴法96条1項4号)。
SNSなどで攻撃的な言動を行えば、保釈の取り消し事由があることはすぐに明らかになります。そうなればすぐに再び身柄拘束されてしまうのです。
これまでSNSなどで攻撃的な言動を行っていたからといって、保釈後もそのような言動を行う「具体的・現実的なおそれ」があるとはいえないのではないでしょうか。
次に、そもそも今回の起訴事実は、SNSや演説などで行った発言による名誉毀損です。
被害者を中傷するような発言を行ったことを根拠として名誉毀損罪で逮捕・勾留されている者について、そのような発言を行っていたことが5号にあたるとして保釈請求を認めないのであれば、極端な話、名誉毀損罪で逮捕・勾留されている者については常に5号のおそれが認められ、権利保釈が認められないということになりかねません。
同様のことは、脅迫罪や恐喝罪などについてもあてはまるでしょう。
もちろん、逮捕・起訴される原因となったもの以外の発言も含めて4号や5号の該当性が検討されるはずではあります。立花氏のこれまでの言動の攻撃性だけでなく、身柄解放した場合に、実際に証拠を隠滅・ねつ造したり、被害者らを畏怖させるような言動を行う具体的なおそれが認められるのかどうかについては、慎重な判断が求められると思います。
●「逃げそうだから保釈できない」は正しいか
89条の除外事由6つに「逃亡のおそれ」は含まれていません。逃亡のリスクは保釈金で担保するのが制度の原則です。
なお、保釈後に実際に逃亡するおそれが認められる場合には、これも保釈の取り消し事由となります(刑訴法96条1項2号)
●「出たら別の事件を起こすのでは」という指摘について
身柄拘束は、逮捕されたり起訴されたりした原因となっている犯罪について行われるものです。それ以外の事件のおそれなどを考慮して身柄拘束を続けることは許されません。
今回の起訴事実はあくまでも竹内元県議に対する名誉毀損罪であり、その他の事件を起こすおそれを理由に身柄を拘束することはできません。
●まとめ
私は特に立花氏の言動に賛成しているわけではありません。
ただ、立花氏に対する身柄拘束の長期化は、刑事司法において身柄拘束が簡単に行われ、拘束期間も非常に長いという身柄拘束の実態を象徴するものと感じ、この記事を書いています。
このような実態の中で、いわれのない嫌疑をかけられたり、特に身柄拘束を続ける理由もないのに不当な身柄拘束を受け続けるケースが多数埋もれていることを危惧しているのです。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
