戸田恵梨香『地獄に墜ちるわよ』の怪演につながった『大切なことはすべて君が教えてくれた』 何が彼女の演技力を引き出したのか
●どの役よりも難しいターニングポイント
民放各局の春ドラマが出そろう中、4月27日にNetflixで配信開始された『地獄に墜ちるわよ』が負けずに話題を集めている。
話題の中心は主演・戸田恵梨香の演技。見た目もキャラクターもまったく異なる占い師・細木数子の17歳から67歳までを演じたのだから、あらためてその技量に驚かされる。
戸田と言えば3月まで『リブート』(TBS系)で「同じ外見で中身が入れ替わる」という特殊な一人二役を演じて称賛されたばかりだが、過去の出演作一覧を見て目に留まったのが2011年の『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系、FODで配信中)。
同作はいくつかの意味で、どの役よりも難しく、女優・戸田恵梨香のターニングポイントになった作品と言っていいのかもしれない。あらためてどんな作品で、戸田はどんな演技を見せたのか。ドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

戸田恵梨香
○「第三者なのに主人公」という難しさ
第1話は裸の柏木修二(三浦春馬)がベッドで寝ているシーンからスタート。衝撃的かつ女性視聴者へのサービスカットを狙った脚本・演出が視聴率獲得の常とう手段だった当時らしい。
目覚めた修二は寝ている佐伯ひかり(武井咲)に「誰? 君は……?」と声をかける。動揺した修二が言い訳をしながら先に家を出ると、婚約者の上村夏実(戸田恵梨香)から電話が入るが、すでに開始から5分あまりが経過していた。
家を出た修二が向かった先は勤務先の高校。しかも新学期開始の当日であり、担任となったクラスに制服姿のひかりが現れたことで混乱状態に陥ってしまう。修二と対面したひかりは人気のない教室で預かっていた家の鍵を渡そうとして……ここでようやくタイトルバックが入る。
冒頭の約15分間をかけてじっくり描いたことから、ヒロインは誰が見てもほとんど言葉を発しない寡黙な美少女・ひかりだった。その後もひかりと彼女に翻弄される教師・修二との関係性が物語の中心となっていく。
一方、主人公であるはずの夏実は蚊帳の外で登場シーンは少ない。同作は戸田と三浦春馬のダブル主演作だが、表記の順番は戸田、三浦の順。第三者のようなポジションであるにもかかわらず一番手の主人公であるところに、難しい役柄であった様子がうかがえる。
戸田の見せ場は修二とひかりの真相を知る中盤以降。ネタバレを避けるが、夏実は修二との結婚、徐々に変わる修二とひかりの関係性、新たな事実の発覚などでさまざまな葛藤を抱くことになっていく。
戸田に要求されるのは内面の演技であり、あまりセリフや行動に頼ることはできない。さらに「生徒たちの前で壊れることは許されず、どう振る舞うか」という教師としての立場も難しさに拍車をかける。また、修二のことを単純に許すだけでは「耐えて支える昭和のヒロインに回帰した物語」になってしまうというハードルの高さもあった。
中盤以降、戸田は表情や仕草などで繊細な感情を伝えなければいけないシーンが続いた。当時まだ22歳であり、同じ1988年生まれには新垣結衣、堀北真希、榮倉奈々、吉高由里子らがいるが、ここまで難易度の高い役柄を求められたのは戸田だけだった。
●未来の主演俳優が生徒役にズラリ
あらためて戸田の歩みを振り返ると、ゴールデン・プライム帯の連ドラデビュー作となったのは主演の木村拓哉がレーサーを演じた『エンジン』(フジ系、05年)。
以降、『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系、05年)、『ギャルサー』(日テレ系、06年)、『LIAR GAME』シリーズ(フジ系、07年・09年)などに出演したが、「かわいい」「いい子」というイメージのアイドル女優を思わせる役柄が大半を占めた。
その後、クセの強い役がジワジワと増える中、「新境地」として注目を集めたのが『SPEC』シリーズ(TBS系、10年〜)。IQ201の天才ながらKYでドSなキャラの主人公・当麻紗綾を演じて話題を集めたが、こちらは設定重視の役柄であり、主演俳優としての華は認められても演技面の評価までは得られなかった。
その点、当作は「内面の変化を描く」「第三者のポジションながら主人公を務める」などの高難度な役柄であり、現在配信中の『地獄に墜ちるわよ』につながるターニングポイントになったようにも見える。
もちろん当作の見どころは戸田の演技だけではない。生徒、保護者、同僚教師からの信頼が厚い人気教師からどん底に突き落とされる修二も見せ場たっぷり。時に「それは違うだろ!」などのツッコミを受けながらも動くことをやめない愚直な男を三浦が熱っぽく演じた。
生徒役では武井咲と剛力彩芽がフィーチャーされがちだったが、広瀬アリス、菅田将暉、中島健人、伊藤沙莉、能年玲奈、岡山天音などの今をときめく主演級俳優がズラリ。特に時刻表オタクの中島、関西弁まる出しでスベる菅田、メイド姿の剛力などの個性的な役柄は今見ると面白い。
物語全体を見ると、高校生の性交渉、結婚前の妊娠、教師の倫理観、人を許すということなどの骨太なテーマを各話に盛り込んだ脚本は見応え十分。安達奈緒子が初の連ドラ脚本とは思えない才能を見せ、その後の『リッチマン、プアウーマン』(フジ系、12年)、『失恋ショコラティエ』(フジ系、14年)などにつなげた。
ちなみに現在、安達は27年の大河ドラマ『逆賊の幕臣』を執筆中であり、その前に連ドラ第1作目となった『大切なことはすべて君が教えてくれた』を見ておいて損はないだろう。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
民放各局の春ドラマが出そろう中、4月27日にNetflixで配信開始された『地獄に墜ちるわよ』が負けずに話題を集めている。
話題の中心は主演・戸田恵梨香の演技。見た目もキャラクターもまったく異なる占い師・細木数子の17歳から67歳までを演じたのだから、あらためてその技量に驚かされる。
戸田と言えば3月まで『リブート』(TBS系)で「同じ外見で中身が入れ替わる」という特殊な一人二役を演じて称賛されたばかりだが、過去の出演作一覧を見て目に留まったのが2011年の『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系、FODで配信中)。

○「第三者なのに主人公」という難しさ
第1話は裸の柏木修二(三浦春馬)がベッドで寝ているシーンからスタート。衝撃的かつ女性視聴者へのサービスカットを狙った脚本・演出が視聴率獲得の常とう手段だった当時らしい。
目覚めた修二は寝ている佐伯ひかり(武井咲)に「誰? 君は……?」と声をかける。動揺した修二が言い訳をしながら先に家を出ると、婚約者の上村夏実(戸田恵梨香)から電話が入るが、すでに開始から5分あまりが経過していた。
家を出た修二が向かった先は勤務先の高校。しかも新学期開始の当日であり、担任となったクラスに制服姿のひかりが現れたことで混乱状態に陥ってしまう。修二と対面したひかりは人気のない教室で預かっていた家の鍵を渡そうとして……ここでようやくタイトルバックが入る。
冒頭の約15分間をかけてじっくり描いたことから、ヒロインは誰が見てもほとんど言葉を発しない寡黙な美少女・ひかりだった。その後もひかりと彼女に翻弄される教師・修二との関係性が物語の中心となっていく。
一方、主人公であるはずの夏実は蚊帳の外で登場シーンは少ない。同作は戸田と三浦春馬のダブル主演作だが、表記の順番は戸田、三浦の順。第三者のようなポジションであるにもかかわらず一番手の主人公であるところに、難しい役柄であった様子がうかがえる。
戸田の見せ場は修二とひかりの真相を知る中盤以降。ネタバレを避けるが、夏実は修二との結婚、徐々に変わる修二とひかりの関係性、新たな事実の発覚などでさまざまな葛藤を抱くことになっていく。
戸田に要求されるのは内面の演技であり、あまりセリフや行動に頼ることはできない。さらに「生徒たちの前で壊れることは許されず、どう振る舞うか」という教師としての立場も難しさに拍車をかける。また、修二のことを単純に許すだけでは「耐えて支える昭和のヒロインに回帰した物語」になってしまうというハードルの高さもあった。
中盤以降、戸田は表情や仕草などで繊細な感情を伝えなければいけないシーンが続いた。当時まだ22歳であり、同じ1988年生まれには新垣結衣、堀北真希、榮倉奈々、吉高由里子らがいるが、ここまで難易度の高い役柄を求められたのは戸田だけだった。
●未来の主演俳優が生徒役にズラリ
あらためて戸田の歩みを振り返ると、ゴールデン・プライム帯の連ドラデビュー作となったのは主演の木村拓哉がレーサーを演じた『エンジン』(フジ系、05年)。
以降、『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系、05年)、『ギャルサー』(日テレ系、06年)、『LIAR GAME』シリーズ(フジ系、07年・09年)などに出演したが、「かわいい」「いい子」というイメージのアイドル女優を思わせる役柄が大半を占めた。
その後、クセの強い役がジワジワと増える中、「新境地」として注目を集めたのが『SPEC』シリーズ(TBS系、10年〜)。IQ201の天才ながらKYでドSなキャラの主人公・当麻紗綾を演じて話題を集めたが、こちらは設定重視の役柄であり、主演俳優としての華は認められても演技面の評価までは得られなかった。
その点、当作は「内面の変化を描く」「第三者のポジションながら主人公を務める」などの高難度な役柄であり、現在配信中の『地獄に墜ちるわよ』につながるターニングポイントになったようにも見える。
もちろん当作の見どころは戸田の演技だけではない。生徒、保護者、同僚教師からの信頼が厚い人気教師からどん底に突き落とされる修二も見せ場たっぷり。時に「それは違うだろ!」などのツッコミを受けながらも動くことをやめない愚直な男を三浦が熱っぽく演じた。
生徒役では武井咲と剛力彩芽がフィーチャーされがちだったが、広瀬アリス、菅田将暉、中島健人、伊藤沙莉、能年玲奈、岡山天音などの今をときめく主演級俳優がズラリ。特に時刻表オタクの中島、関西弁まる出しでスベる菅田、メイド姿の剛力などの個性的な役柄は今見ると面白い。
物語全体を見ると、高校生の性交渉、結婚前の妊娠、教師の倫理観、人を許すということなどの骨太なテーマを各話に盛り込んだ脚本は見応え十分。安達奈緒子が初の連ドラ脚本とは思えない才能を見せ、その後の『リッチマン、プアウーマン』(フジ系、12年)、『失恋ショコラティエ』(フジ系、14年)などにつなげた。
ちなみに現在、安達は27年の大河ドラマ『逆賊の幕臣』を執筆中であり、その前に連ドラ第1作目となった『大切なことはすべて君が教えてくれた』を見ておいて損はないだろう。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
