ニュルブルクリンク24時間レースで培った技術と経験を、「MORIZO RR」へどう落とし込んだのか

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「MORIZO RR」とは何者なのか?

 トヨタ「26式GRヤリス(2026年モデル)」は、2020年の登場以来、「もっといいクルマづくり」の思想のもと進化を続けてきた「GRヤリス」の最新モデルで、走りの質感や対話性にまで磨きをかけた熟成版とも言える1台です。

 そんな26式GRヤリスには、2台のスペシャルモデルが存在します。

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 1台は、2025年のWRCで9回のドライバーズタイトルを獲得したセバスチャン・オジェ選手の偉業を記念した「セバスチャン・オジェ 9x ワールドチャンピオンエディション」(日本100台+欧州一部地域100台、世界限定200台)。

 そしてもう1台が、今回紹介する「MORIZO RR」(日本100台+欧州一部地域100台、世界限定200台)です。

 なお、いずれも日本向けモデルは2026年5月下旬より抽選申し込み開始予定となっており、かなり狭き門となりそうです。では、このMORIZO RRとは一体どんな存在なのでしょうか。

 筆者(山本シンヤ)は、「高性能なのは当たり前」「速さと快適性の完璧なバランス」「走るステージを選ばない」「その実力をあからさまに主張しない」「パフォーマンスを余裕として使う」といった特徴を持ち、数値では表せない“価値”を引き立てたモデルだと考えています。ちなみにMORIZO RRは、ブランドの枠を超えて与えられる唯一無二の称号です。

 その第1弾となったレクサス「LBX MORIZO RR」は、GRヤリス譲りのパワートレイン/ドライブトレインを搭載することで、それを表現していました。

 一方、今回のGRヤリス MORIZO RRは、「ニュルブルクリンク24時間レース」ノウハウを活用して作り上げられたモデルとなります。

 GRヤリスはこれまで、レースやラリーなど、さまざまなモータースポーツを通じて鍛えられてきました。

 しかし、ニュルブルクリンク24時間レースにはコロナ禍の影響で参戦できていませんでした。そこで2025年のレースでは、モータースポーツを起点に開発してきたGRヤリスが「ニュルブルクリンクでも通用するのか?」を確認することもミッションの1つに掲げられました。

 そして、そこで培った技術やノウハウを量産車にフィードバックしたのが、このGRヤリス MORIZO RRなのです。

 今回、富士スピードウェイの構内路のみですが、特別に試乗することができました。その前に、まずは基準車(26式GRヤリス)との違いから見ていきましょう。

ニュルブルクリンク仕込みの専用仕立て

 エクステリアは、専用ボディカラー「グラベルカーキ」に、「マッドブロンズ」の専用アルミホイール、そして「イエロー」のブレーキキャリパーが特徴です。

 ちなみにグラベルカーキはモリゾウ氏(豊田章男会長)のテーマカラー、イエローはROOKIE Racing(ルーキーレーシング)のテーマカラーとなっています。コンペティション色の強いGRヤリスが、どこかシックに見えてくるから不思議です。

 加えて、フロントスポイラー/サイドスカートは「GRパーツ」、カーボンボンネットは「GRMN用」、フェンダーダクト/リアバンパーダクトは「エアロパフォーマンスパッケージ」と、既存アイテムを吟味して装着。

 一方、Rally2/ニュルブルクリンク24時間レースカーのデザインを踏襲したカーボン製リアウイングは、MORIZO RRのために開発された専用品です。

 開発を担当する山田寛之氏いわく、「GRヤリス用リアウイングの中で最もダウンフォースが出る」とのこと。

イエローステッチや専用プレートなど、派手すぎず“質”で魅せるコーディネートが印象的

 インテリアも特別仕立てで、ステアリング/シフトノブ/PKBレバーはスエード表皮&イエローステッチでコーディネート。シートもイエローステッチ仕様で、GRロゴはブラックのモノトーン仕様となっています。

 さらに専用メーター表示や、ダッシュボード助手席側にはニュルブルクリンクのロゴ入り専用シリアルプレートを装備するなど、細部までこだわりが感じられます。

 ただ、気になったのは、シートヒーターは装着されているのにステアリングヒーターが非採用な点でしょうか。

 欲を言えば、オーディオは基準車のJBLではなく、「センチュリーSUV GRMN」と同じYAMAHA製、さらにシートは「GR GT」のレカロ製カーボンシート(電動)を奢っても良かったかなとも感じました。

 ちなみにモリゾウ氏は、クルマと音楽の親和性を大切にしており、「クルマでの思い出には必ずバックグラウンドミュージックがあった」「運転時に音楽をかけ、クルマと会話するために音楽を活用している」と語っています。

 2008年のニュルブルクリンク4時間耐久シリーズ(VLN)にレクサス「IS250」で参戦した際にも、「初の試みであった“耐久レースにCD”は気分が乗ってGoodです」と振り返っていたのが印象的でした。

 エンジン(1.6リッター直列3気筒DOHCターボ:G16E-GTS)、トランスミッション(8速GR-DATのみ設定)は基準車と同じですが、4WDシステム「GR-FOUR」はGRAVELモードに代わり、「MORIZOモード」を専用設定しています。

 具体的には、ニュルブルクリンクを安心して走れる「前後駆動力配分50:50+最適なイニシャルトルク」にセットアップされています(ちなみにセバスチャン・オジェ9XワールドチャンピオンエディションのMORIZOモードとは異なる味付け)。

 フットワークについては、サスペンション/EPS制御ともにMORIZO RR専用チューニングなのは言うまでもありません。

 26式で新開発された「ポテンザ・レース」が完成してから、初めてゼロから作り込まれたのがこのMORIZO RRで、現時点でタイヤとのマッチングはベストだといいます(基準車は車両とタイヤを並行開発)。

 注目すべきは、GRヤリスとして新たなサスペンションセットの考え方を採用した点です。

 具体的には、「ニュルブルクリンクの厳しい起伏でもタイヤが確実に路面を捉える」をテーマに、バネレートはそのままに、フロントのショックアブソーバーは伸び側/圧側ともに減衰を下げ、リアは圧側ダウン、伸び側アップという設定にしています。

 そのままだと“沈みロール”傾向になりますが、強力なリアダウンフォースを前提にセットアップすることで、非日常のパフォーマンスと日常での扱いやすさを両立しています。

 開発ドライバーの大嶋和也選手は、「恐らくフラットなサーキットでも一番速いと思います」と自信を見せます。

速さを“余裕”として使える「大人のGRヤリス

 撮影車両は右ハンドルですが、試乗車は左ハンドル仕様(ドライバーモニターなど装備が若干異なる)でした。その走りを一言で表すなら、「走る道/走るシーンを選ばない、理想のGRヤリス」です。

 ステアリング系は基準車以上に抵抗感が少なく、スッキリしたフィールで、LBX MORIZO RRを上回る質感。

 驚いたのは、そのフットワークです。旋回時は基準車よりもロールを許容するタイプですが、単に“緩い”わけではありません。

 少ないロール量ながらも、ロールスピードがゆっくりかつ繊細に制御されているため、サスペンションを上手く沈み込ませながら、実に滑らかに曲がっていきます。

“力づく”ではなく“余裕”で速さを使う。MORIZO RRはそんなキャラクターに仕上げられていた。

 ロールを味方につけることで、“力づく”ではなく“自然”なコーナリングとなり、結果としてクルマとドライバーの対話性はより濃密になっています。

 今回は全開走行ではありませんでしたが、モリゾウ氏の言う「神に祈る時間(コーナーでアンダーステアが発生し、コントロールできなくなる瞬間のこと)」も、このサスペンションセットならかなり減っているのではないかと想像できます。

 快適性は「本当にGRヤリス?」と疑うほど高いレベル。フリクション感の少ないしなやかな足さばき、入力の伝わり方の上手さ(とにかくカドが丸い)、減衰の効かせ方が人間の波長に合っているなど、実にいなしの効いた乗り心地です。

 このようにスポーツ性とコンフォート性が絶妙にバランスされた走りは、アドレナリンが湧き出るようなワクワク感とはまた違い、より冷静にクルマと向き合えることに“旨味”を感じるハンドリングだと思いました。

 欲を言うなら、エンジンとトランスミッションにも、このフットワークに見合ったモードが欲しいところ。

 例えばECOモードを置き換える形で、「GTモード(よりスムーズなトルク特性+滑らかなシフト制御仕様)」などが実現できれば、さらに理想に近づくかもしれません。

高性能をあえてひけらかさない―MORIZO RRは“大人のGRヤリス”と呼ぶにふさわしい1台。

 そろそろ結論にいきましょう。GRヤリス MORIZO RRは、基準車以上に「駆け抜けなくても喜び」を味わえる1台です。

 高速道路の追い越し車線や、ワインディングの二車線区間で目を三角にして飛ばしていくクルマを横目に、「あの方たちは心に余裕がないのね。ご苦労さま」と笑って見送ることができる。いわば「金持ちケンカせず」といった余裕の走りを備えています。

 高性能なのは間違いありません。しかし、それをあえてひけらかさない“したたかさ”を持つ、大人のGRヤリスです。

 余談ですが、筆者は24式をベースに、そんな走りを目指してカスタマイズを行なっています。

 方向性としては「意外といい線いってるな」と思う反面、この完成度の高さには「ちょっと真似できないな」と脱帽です。

 日本向けは限定100台。かなり狭き門ですが、筆者は全力で応募してみたいと思います。