「美空ひばり」「北島三郎」は不合格で「テツandトモ」は合格! 「NHKのど自慢」参加者同士が結婚して司会アナが仲人に…「生まれた子どもの名付け親になったことも」
今年で放送開始から80周年となる「NHKのど自慢」。1946年1月の番組スタートから今日まで、前編に続いて知られざる秘話を発掘する(文中敬称略、年齢は大会出場当時、前後編の後編)。
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美空、島倉の落選の理由
予選、及び本選出場へのコツも記しておきたい。まず参加希望の往復葉書に、歌唱曲目とその選定理由を書くのだが、その際、当日のゲスト(※参加者募集の際、NHKから告知される)の曲を書くと、少なくとも予選には選ばれ易いとされる。番組内で参加者がゲストの曲を歌うのが定例化しているためだが、逆にこれを熟知した応募者が多いため、先述の通り、予選当日は同じ曲の歌唱が果てしなく続くことも……。

もう一つが地元ゆかりの曲を選ぶこと。「のど自慢」のメイン・テーマとして、「地元が元気なことを放送を通じて伝える」があるからだ。例えば、東京・瑞穂町で行われる大会なら、名所としては「トトロの森」があり、名産としてシクラメンがある。よって、「となりのトトロ」か「シクラメンのかほり」を選ぶと、予選に出られる可能性は高くなる。宮城県・気仙沼市での予選では、「港町ブルース」(森進一)を歌う参加者が続出した。それも皆、2番から歌った。2番に「宮古、釜石、気仙沼」と出て来るためであった。
さらに、本選出場のためには、出だしに聴かせどころが来る曲を選ぶことが挙げられよう。先述のように予選での歌唱は40秒しか与えられた時間がないためである。「自分らしさ」も大切な要素。冒頭で紹介した美空や島倉は、本選出場当時9歳と11歳だったが、歌ったのは「悲しき竹笛」(奈良光枝)、「十三夜」(小笠原美都子)で、いずれも鐘1つ。美空に関しては、無音のまま、鐘が鳴らなかったという説もあるが、いずれも、審査側からの落選理由は一緒だった。
「もっと子供らしい曲を歌うように」
参加者同士で結婚も!
いざ本番だが、この時には20名の合格者が、かなり親睦を深めているのが特徴。地元の人間が多いこともあるし、スタッフが、「みんなの力で成功させましょう」と、声をかけていることもある。というのは、「のど自慢」は、その土地を統括するNHKの地方局それぞれが制作の中心にあるため、極端に言えば、NHK内での腕の見せ所でもあるのだ。「自分たちが制作した大会が、今年の1番と言わせたい」気持ちが働くのである。
本番収録30分前には楽屋で“決起集会”が開催されるのが通例。参加者それぞれが今回の歌への想いを他の参加者に語り、最後は「エイエイオー!」と勝どきを上げる。完全に出来上がった状態で本番に突入するのだ。これも歌の持つ魔力か。
大会が終わると、参加者たちは連絡先を交換し合い、有志次第では“同窓会”の開催も。もちろん場所はカラオケBOXだそうだ。
歴史ある番組だけに、参加者同士で結婚した例もある。「仲人を務めたことも、生まれた子供の名付け親になったこともあります。仲人は出場者同士が8組、出場した女性を見て『息子の嫁に』となった話が1組の、計9組(笑)」とは1970年から16年間「のど自慢」の司会を務めた金子辰雄アナウンサーの弁である。
この金子アナ、先代の宮田輝アナウンサーが絶大な人気を誇っていたため、就任当初は苦労したようだが、「自分を司会と思わず、参加者に寄り添う、次席の出場者のつもりで臨もう」と、そこから2000曲の歌詞を覚えたという。子供たちに、「お父さん、NHKで歌の試験があるの?」と不思議がられたそうだが、出場者が歌詞を忘れた時、そっと囁けるようにという配慮だった。また、ハンカチは常に2枚持って司会に登壇。1枚は合否に関わらず参加者が泣き出してしまった時のために携えた。
金子の次に司会を務めた吉川精一アナウンサーは、NHKを定年退職後、何と演歌歌手としてデビューしている。
「実は子供の頃から歌が大好きで……本当は歌手になりたくてしょうがなかったんです」(吉川アナ)。
北島三郎を励ました先の宮田アナ含め、そんな司会者の親しみ易さも、「のど自慢」を支える大きな柱だろう。
舞台から渾身のプロポーズ!
番組が質的に変化したのは1993年からとされる。この年から、本選の参加者を歴代最少の20名に絞り、1人1人にかけるインタビューを長くしたのだ。これにより、各人のその歌に賭ける想いが表出。人間ドラマとしても楽しめるようになったのである。
福岡県田川市の大会に出場したMさん(74)は脳こうそくで倒れ、一時は話せなくなるも、歌でリハビリに大奮闘。「その成果を見せたい」と、当日は呂律がやや回らないながらも歌い切った。富山県入善市大会の27歳の若者は、3年間交際している女性がいながら、その父の反対で結婚に至らず。そこで「のど自慢」に賭け、「嫁に来ないか」を顔を真っ赤にしながら熱唱。ゲストの小林幸子、山川豊も、「真面目で良い青年です」と応援。その後、婚姻に至った。義父からは、「真剣に歌う姿に、心打たれたよ」と言われたという。
数々の派生番組や大会も生み、「のど自慢荒らし」という存在も輩出した同番組。最後はその逸話で締めたい。
歌手、天童よしみは、幼少時から「のど自慢荒らし」として有名だった。同じく、常に会場で見かけ、仲良くなった少女がいた。「歌手になりたいねん」。上沼恵美子だった。お互い、切磋琢磨し、フジテレビの「ちびっこのど自慢」で優勝。天童は第15代、上沼は第16代のチャンピオンだったが、優勝者が集まる「グランドチャンピオン」大会は天童が制覇。上沼の父は、恵美子に言ったという。
〈「歌手になっても、あの子(天童)がおったらあかんで」〉(朝日新聞。2022年3月30日朝刊)
天童は1970年、16歳でプロデビュー。すると、上沼から手紙が届いたという。
〈「歌をあきらめて、お姉ちゃんと漫才します。よしみちゃん、これからも頑張って」〉(同紙より)
「その後、恵美子ちゃんが活躍する姿を見ると、もう嬉しくてね……」と語る天童。友情は現在も続き、天童のコンサートに訪れ声援を送る上沼の姿も見られている。
平成になってからの司会、宮川泰夫は、初代の司会者、高橋圭三に会った際、言われたという。
〈「宮川、人が笑顔で大きな口を開けて歌えるのは、世の中が平和だからこそだぞ」〉(「文藝春秋」2016年2月号)
90周年、100周年と言わず、「のど自慢」が永久に続きますように。
瑞 佐富郎
愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。「デイリー新潮」での執筆等、プロレス&格闘技ライターとしての活動が中心で、著者も多数上梓しているが、ライブハウス通いを好み、音楽にも造詣が深い。携わった書籍に『All You Need Is THE BEATLES』(宝島社)などがある。
デイリー新潮編集部
