2018年3月、滋賀県守山市の河川敷で、頭部や手足のない女性の遺体が発見された。遺体は近くに住む58歳の母親で、同居する娘・あかりが死体遺棄などの容疑で逮捕され、その後殺人罪でも起訴された。9年間浪人し医学部を目指していた娘と母の異常なほど密接な関係の裏に何があったのか。

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 2022年の刊行から累計22万部を突破した話題作、獄中の娘との書簡をもとに描いたノンフィクション『母という呪縛 娘という牢獄』(著=齊藤彩、講談社文庫)より一部を抜粋して紹介する。(全6回の1回目/2回目に続く)


写真はイメージ ©アフロ

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思わしくないテスト結果を持ち帰ると、「罰」を与えられた

 あかりが進学した私立中学校は手厚い進路指導、学習指導を行っていたうえ放課後の補習や英語合宿などもあり、あかりは、それまで通っていた進学塾には通わなくなった。

 中学生のとき、あかりが書いた作文がコンクールで賞を取っている。しかし、実は母が書いた文章を、あかりが書き写して提出したものだった。

 作文だけではない。

 あかりの幼少期から、祖母や大叔母に送る手紙、父宛てのメール、学校に提出する作文や読書感想文などを、母がしばしば代筆し、それをあかりの名前で出していた。「娘はこんなにかわいくて出来のいい子なんだと演出するためだった」とあかりは理解している。郄崎家では、それが当たり前のことだった。

 小学校のときは成績優秀な優等生で、あかり自身そのことにプライドを持っていたが、中学では徐々に難しくなる授業内容に戸惑い、成績は伸び悩んだ。とくに英語・化学・数学への苦手意識が強くなっていった。

 思わしくないテスト結果を持ち帰ると、しばしば「罰」を与えられた。法を犯した者に刑罰が下るように、母にとって悪い成績を取ることは「罪」だった。

太ももに熱湯をかけられ…中学時代に受けた凄まじい罰

 小学校のとき、母に包丁で切りつけられたことは前述したが、中学時代にも、行き過ぎた激しい「罰」を与えられたことがあった。

 中学2年生の私は、狡(ずる)い浅知恵がついた。定期考査の結果が悪かったのだが、担任教師が作成した簡素な成績表を改竄(かいざん)して母に見せたのだ。粗末な偽造はあっけなく見破られ、母は激怒した。

 当時は冬で、リビングの真ん中の灯油ストーブで暖を取っていた。常に薬缶(やかん)を上に置いていて、注ぎ口から湯気が出ていた。母はコップに熱湯を入れ、正座する私の太腿めがけてぶちまけた。

「ぎゃーっ!!」

 驚きと激痛で叫ぶ。熱湯をかけられた皮膚がでろん、と溶ける。

「……今後は挽回しなさいよ。……病院に連れて行ってあげるから、勉強中にうっかり飲み物をこぼしたって言いなさい」

 痛みと恐怖でしゃくりあげる私に、冷ややかな母の声が突き刺さる。

 定期テストの得点表は、教師の手作りで数字も手書きで書きこまれていた。あかりはそれを学校帰りにコンビニに寄ってコピーし、数字を書き換えて母に見せたが、見え透いた改竄はすぐに露見し、凄まじい罰を受けることになったのだ。

「噓つき」「バカ」「デブ」「不細工」母親からの罵声の数々

 母の罵声は、「詰問」「罵倒」「命令」「蒸し返し」「脅迫」など、いくつかのパターンがあった。暴風雨のようなその怒声の前に、いつも立ちすくむほかなかった。

・詰問

「どうしてちゃんとできないの?」

「何でこんなことが分からないの?」

「勉強したてなのに結果が出ないってどういうことなの? それって本当に努力したって言えるの?」

・罵倒

「噓つき」「バカ」「デブ」「不細工」

・命令

「言い訳しない!」「噓をつくな!」「寝るな!」「勉強しろ!」「素直に謝れ」「家から出て行け!」「学校をやめろ」

(「出て行け」「やめろ」と言われ、うかつに「そうする」「分かった」と応じると、「開き直りやがって!」「土下座して頼め」と激昂する。「どうか家にいさせてください」「どうか通わせてください」と頼みつづけるしかない)

・蒸し返し

「大体あんたはいつも同じことの繰り返し」

「前もそう言ってたけど全然できてないじゃん」

「あんたは保育園(小学校、中学校)のときから……」

・脅迫

「お父さんみたいになるよ」

「バカ学校にしか入れないよ」

「附属になんかとても行けないよ」

「次やったら家から追い出すからね」

「ちゃんと成績取れなかったら学校辞めさせるからね」

・否定

「あんたなんか産まなきゃ良かった」

「死ねば良いのに」

「消えろ」

「お母さんの娘とは思えない」

「本当に反省してるように見えない」

・その他

「人は人。関係ないでしょ、目標が違うんだから」

「お母さん(お祖母ちゃん)はあかちゃんのために働いている(お金を出してる)の」

「太ももにお湯かけられてしまって」学校で友人に打ち明けたが…

 学校で友人と、次のようなやり取りをしたことがあったという。

「お母さんに凄く怒られて、太腿にお湯かけられてしまって」

「えっ、噓」

「とんでもなく痛くて、皮膚が溶けたみたいになって、怖くて泣いてしまって……」

 級友は、言葉を失った。

「お母さんには病院の先生にうっかり飲み物をこぼしたって言うように言われたんだけど……」

 あかりと母の関係はほかの生徒の想像を絶し、「打ち明け話」で共感を得ることはできなかった。

 あかりの陳述書には、「ドン引きされているのにウケていると思っていた失敗」を、繰り返したくなかったとあるが、それはこのときのことを指している。

「ちゃんと勉強しろ!」「バカのくせに」“モンスター母”(58)の壮絶な教育虐待…母親を刺してバラバラに解体した“医学部9浪”の娘(31)が明かす、異常な親子関係〉へ続く

(齊藤 彩/Webオリジナル(外部転載))