世界販売台数が過去最高を更新…なぜレクサスは世界で勝ち続けるのか?その開発からみえた「日本車の競争力」

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世界的な電動化の波と、欧州主導のルール変更――。

いま、大きな転換点に立たされている日本の自動車産業。しかし、日本車メーカーの競争力は、単なる技術トレンドへの対応だけで語れるものではありません。むしろ長年にわたり培ってきた“日本流ものづくり”の思想こそが、グローバル市場で独自の強みを生み出してきた歴史があります。

では、その強さの正体はどこにあるのか。なぜ日本車は、世界のユーザーに選ばれ続けてきたのか。

本稿では、『教養としてのニッポン自動車産業史』の内容を踏まえつつ、レクサスの事例から、日本の自動車産業が持つ本質的な強さを紐解いていきます。

日本車の競争力は「体験価値」にある

インバウンドと呼ばれる外国人観光客の姿は、すっかり日本の日常風景になりました。大都市からひなびた温泉地、スキー場や神社仏閣まで、どこへ行っても世界各地からの訪問客が日本を満喫している様子を見かけます。

日本政府観光局の推計によれば、2025年の年間訪日外客数は4268万3600人で、過去最高だった2024年の記録を580万人以上上回り、2026年に入ってからも右肩上がりが続いています。中国政府による訪日抑制策をよそに、韓国や台湾、米国など、世界18か国・地域からの訪日客数が2月にも過去最高を記録しているのです。

SNSに満足の言葉を残していく彼らは、日本のどこに魅力を感じているのでしょうか。美しい景色や美味しい食べ物、円安のおかげで一層楽しめる買い物など、たくさんのポイントが挙げられるでしょう。

しかし、旅という実体験でしか楽しめないもの、それはその土地に根付いた文化と、それを醸した人々との交流です。インバウンドの外国人たちにとっても、ホテルや商店での接客はもちろん、混雑した電車に整然と乗り降りし、深夜に女性が安心して街を歩け、たとえ大震災のような非常時にあっても譲りあい、いたわりあって生きる日本人の心根に触れることこそ、最高の体験と感じているのに違いありません。

40年余り自動車雑誌の制作に関わってきた筆者は、日本のクルマが世界で認められた理由もそこにあると考えています。日本車には日本人の細やかな気配りや思いやりが随所に込められ、それが乗り手に心地よい体験として感じられるからこそ、本来は移動手段という実用品にもかかわらず、日本旅行を楽しむ外国人と同様に、世界にファンを生んでいるのだと思うのです。

レクサスが体現する「高級旅館のおもてなし」

そのひとつの例が、2025年に88万台と過去最高の世界販売台数を記録した高級ブランド、レクサスのパワーウインドーです。

2025年、レクサスは米国で37万260台を販売。当地で30万3200台を売った、かのメルセデス・ベンツを上回り、38万8897台のBMWとも、互角の人気を得ています。アジア市場でも好調が続いており、グローバルでの存在感をさらに高めています。

パワーウインドーとは、電気モーターの力を利用して、自動車の窓ガラスをスイッチ操作で自動開閉する装置のこと。今や軽自動車にも当たり前についていますが、外国製の高級車もふくめて、その動きはとくに面白みのあるものではなく、ワンタッチで開閉できる運転席の窓でも、スイッチを入れると一定の速度で動いてどすっと閉じる(開く)だけというのが普通です。

ところが現行のレクサス各車のそれは、ドアサッシがない一部のモデルを除いて、スイッチを操作すると他車とはけた違いに滑らかに動き出し、スムーズに加速した後、閉じる(開く)間際になるとまた滑らかに減速して、スッと静かに止まります。

まるで高級旅館の中居さんが、客室のふすまを開け閉めするときの所作を思わせる優雅なその動きは、日本発の高級ブランド、レクサスのおもてなしの精神を具現化するものとして、繊細にチューニングされているのです。

その他にも、スイッチ類の操作感に物入れのフタの感触や開閉速度、室内照明の点灯の仕方など、あらゆる動きや反応が人の感性に調和する、統一感を持ったものになるように、デリケートにデザインされているといいます。

標準装備のオートエアコンも、冬場にエンジンが冷えているときには冷たい風を吹き出さないのはもちろん、ステアリングのグリップやシートに仕込んだヒーターと連携し、車種によっては膝から太ももを暖める遠赤外ヒーターまで駆使して、乗り込んだらすぐに快適に過ごせるように、しかもシステムが作動していることを乗り手にことさらに意識させないように、心配りがなされています。さらに運転者だけの乗車時には運転席回りだけを集中的に冷暖房するなど、省エネ性能にも優れた制御になっているのです。

誤解を恐れずに言えば、そうしたレクサスのおもてなしを支えているのは、超ハイテクではありません。もちろん、大衆車と比べればけた違いの手間とお金はかけられていますが、それでは海外メーカーには絶対真似のできない高度な技術の塊かといえば、必ずしもそうではないのです。

世界の高級車を青ざめさせた初代セルシオ

レクサスブランドはバブル景気の真っただ中となる1989年に、日本でもセルシオとして発売された大型セダンのLSをフラッグシップとして、北米市場からスタートしました。当時はまだパワーウインドーの繊細な動きまでは採用されていませんでしたが、LSの圧倒的な品質や他に類を見ない静かな走りはアメリカ人を驚かせ、たちまち成功しました。

レクサス登場以前の日本の高級車は、ほぼ手作りのセンチュリーを除けば、クラウンやセドリックといったタクシーにも使われているような車種でした。高級車としてのそれらはタクシーや大衆車より大きなエンジンを積み、快適な乗り心地や静かな室内とするために上等な足回りや遮音材などが奢られた上で、豊富な装備を備えてはいましたが、機械的なレベルでは大衆車と大きく変わりませんでした。

しかし、初代セルシオことレクサスLSは、よりハイレベルな快適性と走行性能を両立させるために、根本から考え方を変えました。

騒音や振動を抑えるためには遮音材に頼るのではなく、鋼板に樹脂を挟んだ制振鋼板と呼ばれる材料をボディに使い、エンジンとタイヤを結ぶ軸の回転精度をとことん高めたうえで、その経路が途中で折れ曲がらず、まっすぐになるように配置するなど、開発者が源流主義と呼んだ、問題を根元から断つ思想で設計されました。

新開発のV型8気筒エンジンも中の部品ひとつひとつの精度やバランスを極限まで高めた上、当時、北米市場でも重視されるようになっていた燃費性能を高めるために、同クラスの欧米の高級車よりあえて小さめの排気量で同等の走りを追求しました。

そうして完成したレクサスLSの北米でのCM映像は、ボンネットにシャンパンを満たしたグラスのタワーを積み上げ、テスト台上で時速150km/hまでエンジンを回しても中身がこぼれないという、今ならフェイク動画と疑われそうなものでした。

もちろんその映像は、小細工まったくなしの実写です。レクサスLSのエンジンは、メーターを見なければ回っているのかどうかわからないほど振動がなく、走行中の車内の騒音も、それまでの世界の高級車たちを青ざめさせるほど静かだったのです。

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【つづきを読む】欧米メーカーは「真似できない」と悲鳴を上げた…米国で2位に躍進した「レクサス」が、いま世界の富裕層に選ばれる理由

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