神経伝達物質と受容体は何歳でも変化する…「たくさん学びましょう」と脳科学者が訴える理由
語学や習い事など新しいことを始めても、なかなか上達を実感できない--。そんな経験は誰しも持っているでしょう。ただ、実感できない間に、脳が変わり始めているかもしれません。
私たちが日々下す選択や行動は、脳の構造と機能をつくり変えています。脳科学者のリチャード・レスタック氏は、学ぶことをやめない限り、脳はいくつになっても進化し続けると説きます。
レスタック氏の著書『いくつになっても頭はよくなる』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
「異なる言語は異なる心」に
脳は生涯変化しうるという考えは、多くの人が初めは受け入れがたいでしょう。というのも、そのプロセスがかなり進んでからでないと、脳の変化を自分で実感できないためです。たとえばロシア語を習いはじめた場合、最初はゆっくり、少しずつしか上達しません。それでも1年ほどたつと、ある程度話せるようになり、最初の苦労も忘れるようになります。とはいえ、新しい言語の能力は一夜にして身につくものではありません。ある朝起きたら急に完璧なロシア語を話せるようになった、というわけにはいかないのです。
第2言語のための脳回路を形成するには、ある程度の時間と努力が必要です。そしてついにその回路ができると、自分や世界が違って見えるでしょう。「異なる言語は異なる心」という格言の意味が突然わかるようになるはずです。
新たな学習にともなう脳の変化は捉えにくいものの、運動による身体の変化とそれほど大きな違いはありません。健康のために運動を休まず続けていると、やがて服が窮屈ではなくなり、疲れにくくなったことに気づくものです。
もちろん脳の変化は機能的なものなので、(PETスキャナー=脳の活動を画像で捉える装置で観察していないかぎり)そのようすを目で見ることはできません。ですがPET画像を撮れば、脳が変化していることを証明してくれるでしょう。精神活動の程度に応じて、新しい回路がつねに形成されているからです。
脳はまた、年齢とともに刺激に対する反応の仕方が変わっていきます。生後数年間は、細胞を消耗して回路をつくります。ネットワーク、すなわち「神経回路網」に組み込まれたニューロンは生き残り、選ばれなかったものは死んでいくのです。するとニューロンの数は減りますが、脳回路の豊かさや複雑さは増していきます。このプロセスは石の彫刻家の技法によくたとえられます。どちらも不要な部分を削って創作するからです。
絵の具を塗り重ねて創作する画家の技法とはずいぶん違うといえるでしょう。
年齢による脳の働きの違い
成長してこの段階を過ぎると、脳細胞の消耗はだいたい終わります。かわりにニューロンが接合して、増大するネットワークに入っていきます。各ニューロンは数千もの回路に関わることができます。関わる回路の数は多ければ多いほどいいのです。
なぜなら、ニューロンは動かしたり使ったりすると活発になりますが、動かさず使いもしないと不活発になり、死んでしまうからです。また、既存のネットワークから派生して、付加的なネットワークがたやすくできます。第2言語を初めて学ぶときより、第3言語や第4言語の学習のほうが楽なのは、これが理由の一つです。
多言語の習得は、幼い頃に始めると非常に早く身につきます。幼児期の脳にはもっとも可塑性があるからです。発達の初期段階では、ニューロンは多くの回路に容易に入りこめます。新しい言語学習への興味が数年続けば、ニューロンは新しい言語回路に組み込まれるでしょう。
つまり、言語に対する能力と「才能」を自分でも感じられるようになるのです。ところが、その言語を学校などで学習しなければ、のちに使おうとしても難しくなってしまいます。これは、運動の原則と同じだという例の一つです。
たとえば、あるスポーツのプロ選手はたいてい、他のスポーツでも優れたプレーができます。元プロバスケットボールNBA選手のマイケル・ジョーダンが野球をすれば、プロ選手ほどではないでしょうが、週末に野球を楽しむアマチュア選手の99%より上手にできるでしょう。それは、プロのバスケットボールで何年も練習と試合を積み重ねた結果、優れた運動能力のための精巧な神経回路が脳内で発達したからです。
多くの場合、1つのスポーツのための神経回路は、別のスポーツに必要な神経回路に組み込むことができます。そうした神経回路がない場合、つまり、あなたが典型的なカウチポテトで運動をしないのなら、変化させる神経回路がもとからありません。
トラウマを受けると、大人の脳のほうが子どもの脳より可塑性や柔軟性が低下します。脳損傷でも、子どもの脳のほうが早く回復します。子どもの脳は万能型で、多くの部分が他の部分の役割も担えるからです。一方、大人の脳は専門型で、お互いのかわりは務まりません。大工に電気屋さんの仕事を頼むようなものです。
たとえば、脳の右半球でも簡単な話はできますが、言語を専門とする左半球ほどなめらかに話せません。大人では機能分化がすでに発達しているため、左半球が傷ついて言語障害が出ると、右半球でそれを完全に補うことはできないのです。それに対して、子どもは左半球を全部取り除いても、ふつうに話せるようになる可能性があります。
幸いなことに、神経伝達物質と受容体では、年齢にともなう機能分化がそれほど強くありません。実際、構造ではなく化学的性質と機能に関しては、脳は生涯にわたって高い可塑性をもちつづけます。あなたがこの文章を読んで新たな情報を学んでいるときも、神経伝達物質と受容体のパターンがつねに変化しているのです。その変化の程度は、あなたの過去の経験によって決まります。
たくさん学びましょう。そうすれば脳回路は大きく変化します。逆に学ばなければ、脳組織は同じ神経ネットワークのまま変わらないのです。
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