--一時期事務所に所属するも、そうした物理的な貧乏状態よりも辛かった出来事があったのをきっかけに、当時の事務所を辞めることになったとのことで。

津田:当時、マネージャーさんに「最近、なんの映画を観ましたか?」と聞いたら、「こっちは映画を観てるほど暇じゃないんだ」と言われてしまって。その一言で「ここにいちゃダメだ」と。その時の崖っぷち感は半端なかったです。「とにかく辞めて、インプットだ!」と思いました。どこにでもいるような顔して中肉中背で何の特技もない、それでも役者になりたい。「そんなの無理だよ」となるかもしれないけど、「じゃあ俺は、なんでこんなに役者になりたいと思ってるんだ?」と。改めて考えると、「やっぱりスクリーンの向こうに行きたい」「映画の仕事に関わりたい」んだと思ったんです。

--津田さんといえば、映画デビューに繋がった北野武監督とのエピソードが有名ですが、ほかにも好きな監督にご自身でプロフィールを渡しに行っていたと。

津田:はい。5時間とか、平気でガードレールに座って待ってました。それでも監督が帰ってこない時は、ポストにプロフィールだけ入れて帰ったりしてましたね。

◆「大杉チルドレン」としての想い

――そうした下積み時代を経て、キャリアを重ねてこられました。様々な方との出会いがあったと思いますが、大杉漣さんの存在も非常に大きかったそうですね。

津田:めっちゃでかいですね。大杉さんは、こちらからお願いしたらそれに応えてくれるとかじゃなくて、大杉さんのほうから、電話をしてきてくれるんです。「どうしてんの? 最近。俺さ、SABUっていうのと、あと黒沢清って、すげえいい監督見つけてさ、津田くん紹介するよ。今度舞台挨拶やるから、そこにおいでよ」と呼んでくれたりするんです。俺から頼む以前に、大杉さんのほうからチャンスをくれる。

--それは津田さんに目をかけていたからでは。

津田:それが、そういったことをいろんな人にやってるんです。これからの俳優に。だから「大杉チルドレン」がいっぱいいるんですよ。

◆今作の撮影現場にも「漣さん、近くにいらっしゃったんじゃないかな」

――そうなんですね。津田さんは「いまも大杉さんの声が聞こえる」とお話しされていたこともありましたが、還暦を迎えられた今の津田さんには、どんな言葉をかけてくれると思いますか?

津田:「楽しいよね」って言うんじゃないかな。「寛ちゃん、楽しいでしょ。楽しいよね」って。今って、大杉さんがとてつもなく好きな時代になっていると思うから。

――というと?

津田:たとえば、俺自身、還暦とか言われても実感がまるでないんです。それは俺が若いとかじゃなくて、時代がそうなっているというか。還暦だろうが別に関係ない。何歳だろうと好きなことができる。それって、大杉さんに持ってこいの時代だし、本当に生きていて欲しかったなと思います。たくさんの人に好かれていて、あれだけ自由奔放にやって、他人を全部認めている。「それはダメだよ」みたいなことは、あまり聞いたことがなかった。今こそ、本当に大杉さんの時代だなと思うんですよね。

--今作も観てもらいたいですね。

津田:うん。今回、渡辺哲さんに出てもらったんですけど、本当は大杉さんにも出てもらいたかったです。以前、目黒シネマで「津田寛治ナイト」をやってもらったときに、武さんの『ソナチネ』をフィルムで上映したことがあって。大杉さんと哲さんにも来てもらったんです。そのとき大杉さんが、「ちょっと預かってきた」と言って、武さんからの手紙を持ってきてくれました。ほんと、今回も大杉さんと3人での掛け合いができていたら--。でも意外と、今作の撮影のとき、近くにいらっしゃったんじゃないかなと思ってるんですよね。

<取材・文・撮影/望月ふみ ヘアメイク/馬場エミリ スタイリスト/三原千春>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi