35年ぶりの続編を控え再評価される『101回目のプロポーズ』 令和でも刺さる野島伸司脚本の純度の高さ
●武田鉄矢続投で『102回目のプロポーズ』配信へ
lead=今冬ドラマで話題性の高い主演女優と言えば、「『未来のムスコ』(TBS系)の志田未来」と言っていいのではないか。そんな志田の出演作で『14歳の母』と並ぶ「転機になった作品」としてあげたいのが『わたしたちの教科書』(2007年 ※FODで配信中)。同作は脚本の岡田惠和が向田邦子賞を受賞した知る人ぞ知る名作であるほか、トリビア的なトピックスも多い作品であり、その魅力をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。
3月19日、ドラマ『102回目のプロポーズ』(FOD)の配信がスタートする。そのタイトルからわかるように、同作は1991年に放送された『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系、FODで配信中。13日〜TVerで全話順次配信)の続編。
同年放送の『東京ラブストーリー』とともに「歴代月9の2トップ」と言われ、今なお語られることの多い名作だが、あらためて何が視聴者を魅了したのか。さらに35年もの時を経た今どんな作品に見えるのか。
続編の配信開始直前に、中国・韓国版のリメイクに加えて、12年に武田鉄矢と浅野温子の時代劇版も舞台化された『101回目のプロポーズ』の本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

『101回目のプロポーズ』(C)フジテレビ
○月9の勢いを感じる明るさと笑い
91年当時を振り返ると、放送開始前は否定的な声が決して少なくなかった。当時はトレンディドラマ全盛期。その中心だった浅野温子の相手が「なぜ武田鉄矢なのか」「ラブストーリーとして見られない」「生理的に受け付けない」などの辛らつな声も目立った。
しかし、それでもけっきょく見はじめてもらえるのが、当時トップを走っていた“月9”のパワーか。もしネットが発達した現在なら放送開始前にネガティブな声が飛び交うなど「第0印象」の悪さからこれほど多くの人が見た作品にならなかったかもしれない。
第1話がはじまると、案の定と言うべきか、武田鉄矢が演じる星野達郎は「お見合い99連敗中」という冴えない42歳の中年サラリーマンだった。一方、浅野温子が演じる矢吹薫は息をのむほどの美女チェリストで、しかも12歳年下の30歳。実際、第1話冒頭、CHAGE & ASKAの主題歌「SAY YES」が流れるタイトルバックを見れば、どう見ても薫は「無理目の女で2人が結ばれそうなムードはない」と感じるだろう。
そんな疑問を抱きながらも見はじめた人を引きつけたのは達郎のひたむきさだった。当作の代名詞であり新語・流行語大賞にも選ばれた第6話の「僕は死にましぇん」を筆頭に、競馬挑戦、ピアノ猛練習などのドラマ史に残る一途な姿を「今も覚えている」という人が多いのではないか。「達郎を見ていると『人は頑張れば変われる』『こんな風に人を好きになりたい』などと勇気づけられる人が徐々に増えていった。
……ここまでは当時、誰もが感じていたことだろう。
もう1つ忘れてはいけないのは、当作における“明るさ”と“笑い”のパート。そもそも「中年男がひとまわり年下の美女を追いかけ、相手にされなくてもフラれても懸命に食らいつく」という達郎の言動はストーカーと紙一重であり、見やすくするための明るさと笑いが必要だった。というより当作の明るさと笑いは「当時の世相、あるいは月9の勢いやノリが成せる脚本・演出」と言っていいかもしれない。
●「これぞ野島伸司」時代を問わず追求する純粋な思い
特に兄・達郎とお調子者の弟・純平(江口洋介)とのかけ合いは常に楽しく笑いであふれ、おバカながらも温かい兄弟愛を感じさせるなど、当作の明るさを決定付けた。ちなみに『102回目のプロポーズ』では、その後の達郎(武田鉄矢)と空野太陽(せいや)のかけ合いがその明るさや笑いを担うという。
さらに純平と薫の妹・矢吹千恵(田中律子)の大学生同士、達郎と同じ会社の天然系受付嬢・岡村涼子(石田ゆり子)と純平、薫の父・矢吹孝夫(小坂一也)と達郎・純平兄弟のトークも笑いを誘った。また、「怖いの」というセリフを何度もモノマネされ続けている浅野温子の演技も、令和の今見るといい意味で笑いを誘われるのかもしれない。
そんな笑い泣きできる世界観を作り上げた立役者は、若かりし野島伸司と大多亮プロデューサーのコンビ。特に野島と言えば、90年代に放送された『高校教師』『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』『未成年』『聖者の行進』(すべてTBS系)などの過激な作風を思い浮かべる人が多いが、時代を問わず追求しているのは人間の純粋な思い。
実際、88年の連ドラデビュー作『君が嘘をついた』から、90年の『すてきな片想い』、そして91年の当作までは、“月9枠”でピュアな世界観のラブストーリーを立て続けに手がけた。その後も94年の『この世の果て』、99年の『リップスティック』、08年の『薔薇のない花屋』と同じ“月9枠”で過激な設定ながらも純度の高いラブストーリーを執筆。あらためて振り返ると『101回目のプロポーズ』はその原点のような作品と言っていいだろう。
野島が描く純愛は時代不問の普遍性があるだけに、令和の今見ても古さを感じさせられるところは少ない。私オムが脚本を担う『102回目のプロポーズ』も、そんな普遍性を感じさせる純度の高さが成否の鍵を握るのではないか。
○ピアノの音色が美しい音楽ドラマ
最後にもう1つ「名作」と言われる理由は“音楽ドラマ”としての魅力。
劇伴をピアニスト・西村由紀江が担うことで繰り返し叙情的なピアノの音色が流れたほか、薫のチェロだけでなくオーケストラ全体の演奏なども美しかった。
薫の出演シーンで流れた「夢を追いかけて〜薫のテーマ〜」を筆頭に各曲が物語とリンクし、西村のサントラCDもヒット。達郎が懸命に練習したショパンの「別れの曲」も「悲しい曲だと思っていたのに当作で聴くとこんなに美しい曲だったのか」と感じさせられた。
もちろん主題歌の「SAY YES」も効果的に機能し、「イントロがかかると高揚する」という人が続出。光野道夫チーフ監督がこれらのさまざまな音で巧みにアクセントをつけていた。
35年後の今見ても、こんなに笑わせられ、時に瞳を潤ませながら、主人公を応援したくなってしまう貴重なラブストーリーであることを再確認させられる。第1話の20.3%から最終話の同36.7%まで世帯視聴率を上げて終えたのも当然と言っていいかもしれない(※視聴率の数字は、ビデオリサーチ調べ・関東地区/世帯)。
余談だが、中韓合作でリメイクされたチェ・ジウ主演版もなかなかのクオリティだった。はたして続編の『102回目のプロポーズ』はどんな作品なのか。同じ91年に放送された『東京ラブストーリー』の20年版リメイクは高品質だっただけに、こちらも期待して待ちたい。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
lead=今冬ドラマで話題性の高い主演女優と言えば、「『未来のムスコ』(TBS系)の志田未来」と言っていいのではないか。そんな志田の出演作で『14歳の母』と並ぶ「転機になった作品」としてあげたいのが『わたしたちの教科書』(2007年 ※FODで配信中)。同作は脚本の岡田惠和が向田邦子賞を受賞した知る人ぞ知る名作であるほか、トリビア的なトピックスも多い作品であり、その魅力をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。
同年放送の『東京ラブストーリー』とともに「歴代月9の2トップ」と言われ、今なお語られることの多い名作だが、あらためて何が視聴者を魅了したのか。さらに35年もの時を経た今どんな作品に見えるのか。
続編の配信開始直前に、中国・韓国版のリメイクに加えて、12年に武田鉄矢と浅野温子の時代劇版も舞台化された『101回目のプロポーズ』の本質をドラマ解説者・木村隆志が掘り下げていく。

○月9の勢いを感じる明るさと笑い
91年当時を振り返ると、放送開始前は否定的な声が決して少なくなかった。当時はトレンディドラマ全盛期。その中心だった浅野温子の相手が「なぜ武田鉄矢なのか」「ラブストーリーとして見られない」「生理的に受け付けない」などの辛らつな声も目立った。
しかし、それでもけっきょく見はじめてもらえるのが、当時トップを走っていた“月9”のパワーか。もしネットが発達した現在なら放送開始前にネガティブな声が飛び交うなど「第0印象」の悪さからこれほど多くの人が見た作品にならなかったかもしれない。
第1話がはじまると、案の定と言うべきか、武田鉄矢が演じる星野達郎は「お見合い99連敗中」という冴えない42歳の中年サラリーマンだった。一方、浅野温子が演じる矢吹薫は息をのむほどの美女チェリストで、しかも12歳年下の30歳。実際、第1話冒頭、CHAGE & ASKAの主題歌「SAY YES」が流れるタイトルバックを見れば、どう見ても薫は「無理目の女で2人が結ばれそうなムードはない」と感じるだろう。
そんな疑問を抱きながらも見はじめた人を引きつけたのは達郎のひたむきさだった。当作の代名詞であり新語・流行語大賞にも選ばれた第6話の「僕は死にましぇん」を筆頭に、競馬挑戦、ピアノ猛練習などのドラマ史に残る一途な姿を「今も覚えている」という人が多いのではないか。「達郎を見ていると『人は頑張れば変われる』『こんな風に人を好きになりたい』などと勇気づけられる人が徐々に増えていった。
……ここまでは当時、誰もが感じていたことだろう。
もう1つ忘れてはいけないのは、当作における“明るさ”と“笑い”のパート。そもそも「中年男がひとまわり年下の美女を追いかけ、相手にされなくてもフラれても懸命に食らいつく」という達郎の言動はストーカーと紙一重であり、見やすくするための明るさと笑いが必要だった。というより当作の明るさと笑いは「当時の世相、あるいは月9の勢いやノリが成せる脚本・演出」と言っていいかもしれない。
●「これぞ野島伸司」時代を問わず追求する純粋な思い
特に兄・達郎とお調子者の弟・純平(江口洋介)とのかけ合いは常に楽しく笑いであふれ、おバカながらも温かい兄弟愛を感じさせるなど、当作の明るさを決定付けた。ちなみに『102回目のプロポーズ』では、その後の達郎(武田鉄矢)と空野太陽(せいや)のかけ合いがその明るさや笑いを担うという。
さらに純平と薫の妹・矢吹千恵(田中律子)の大学生同士、達郎と同じ会社の天然系受付嬢・岡村涼子(石田ゆり子)と純平、薫の父・矢吹孝夫(小坂一也)と達郎・純平兄弟のトークも笑いを誘った。また、「怖いの」というセリフを何度もモノマネされ続けている浅野温子の演技も、令和の今見るといい意味で笑いを誘われるのかもしれない。
そんな笑い泣きできる世界観を作り上げた立役者は、若かりし野島伸司と大多亮プロデューサーのコンビ。特に野島と言えば、90年代に放送された『高校教師』『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』『未成年』『聖者の行進』(すべてTBS系)などの過激な作風を思い浮かべる人が多いが、時代を問わず追求しているのは人間の純粋な思い。
実際、88年の連ドラデビュー作『君が嘘をついた』から、90年の『すてきな片想い』、そして91年の当作までは、“月9枠”でピュアな世界観のラブストーリーを立て続けに手がけた。その後も94年の『この世の果て』、99年の『リップスティック』、08年の『薔薇のない花屋』と同じ“月9枠”で過激な設定ながらも純度の高いラブストーリーを執筆。あらためて振り返ると『101回目のプロポーズ』はその原点のような作品と言っていいだろう。
野島が描く純愛は時代不問の普遍性があるだけに、令和の今見ても古さを感じさせられるところは少ない。私オムが脚本を担う『102回目のプロポーズ』も、そんな普遍性を感じさせる純度の高さが成否の鍵を握るのではないか。
○ピアノの音色が美しい音楽ドラマ
最後にもう1つ「名作」と言われる理由は“音楽ドラマ”としての魅力。
劇伴をピアニスト・西村由紀江が担うことで繰り返し叙情的なピアノの音色が流れたほか、薫のチェロだけでなくオーケストラ全体の演奏なども美しかった。
薫の出演シーンで流れた「夢を追いかけて〜薫のテーマ〜」を筆頭に各曲が物語とリンクし、西村のサントラCDもヒット。達郎が懸命に練習したショパンの「別れの曲」も「悲しい曲だと思っていたのに当作で聴くとこんなに美しい曲だったのか」と感じさせられた。
もちろん主題歌の「SAY YES」も効果的に機能し、「イントロがかかると高揚する」という人が続出。光野道夫チーフ監督がこれらのさまざまな音で巧みにアクセントをつけていた。
35年後の今見ても、こんなに笑わせられ、時に瞳を潤ませながら、主人公を応援したくなってしまう貴重なラブストーリーであることを再確認させられる。第1話の20.3%から最終話の同36.7%まで世帯視聴率を上げて終えたのも当然と言っていいかもしれない(※視聴率の数字は、ビデオリサーチ調べ・関東地区/世帯)。
余談だが、中韓合作でリメイクされたチェ・ジウ主演版もなかなかのクオリティだった。はたして続編の『102回目のプロポーズ』はどんな作品なのか。同じ91年に放送された『東京ラブストーリー』の20年版リメイクは高品質だっただけに、こちらも期待して待ちたい。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら
