武蔵小山「タワマン建設ラッシュ」に地元民が懸念…タワマン住民と地元民のあいだの「見えない壁」
東急目黒線で目黒駅まで約3分と都心へのアクセスがよく、ファミリー層に人気の街・武蔵小山(東京都品川区)。だがいま、進行中の再開発が地元住民のあいだで波紋を呼んでいる。
武蔵小山駅周辺には現在2棟のタワーマンションが建っており、この駅前エリアに新たな3棟目となるタワーマンションの建設計画が進んでいる。小山三丁目第一地区にある地元民でにぎわう「武蔵小山商店街パルム」(以下、「パルム商店街」)の入口に面したエリアで行われ、2033年に竣工予定。
しかし、これに対して品川区議会議員から反対意見が出ている。日本共産党・品川区議団の安藤たい作氏は、昨年12月に「駅前地区再開発大失敗と、小山三丁目第一地区再開発二の舞いを懸念する陳情」への賛成討論を行ない、再開発に反対する地域住民らの懸念点をまとめている。
ちなみに武蔵小山では、今回取り上げる小山三丁目第一地区だけでなく、第二地区での再開発計画も着々と進められており、いま現在発表されている再開発計画も含めると、武蔵小山には計5棟のタワーマンションが建つ予定なのだ。武蔵小山在住歴7年の女性Aさんは「昔ながらの風情ある街並みが消える」ことへの懸念を語った。
記事前編は【武蔵小山駅前「3棟目のタワマン」建設が波紋…「賑わい失われる」地元住民から反対の声】から。
以前から「儲かる土地」として注目されてきた
ここからは再開発事情について詳しい住宅ジャーナリストの榊淳司氏に、武蔵小山の再開発について解説していただく。(以下「」内は榊氏のコメント)
榊氏によると、武蔵小山は不動産業界では“儲かる土地”として以前から注目を集めていたという。
「武蔵小山駅は、2000年までは目黒駅から蒲田駅を結ぶ『目蒲線』とよばれる路線の駅で、その頃は路線の需要がそこまでなく、あまり人気がありませんでした。しかし2000年に目蒲線が路線分割して武蔵小山駅は東急目黒線の駅となったことで、利便性が圧倒的に向上し、土地の価値も急上昇したのです。ちなみに目黒線と南北線や三田線は直通運転なので、大手町や日比谷などの都心エリアに一本で行けます。こうした利便性のよさが、近年タワマン建設が進む背景にあるのです」
タワマンが密集した他地域の現状
不動産業界からの熱い視線を受けて、駅前エリアが続々と再開発ラッシュとなった武蔵小山。現在ある2棟に加え、今後駅周辺に計3棟のタワマン建設計画が進むが、住民が一気に増えることによって、駅が混雑するなどの不便は発生しないのだろうか。
「住民が増えることは基本的に街全体にとってメリットになります。住民が増える、すなわち駅利用者が増えることになり、駅にとってはそれで大きな利益が得られます。そうなるとその利益を利用して、今度は駅が大きく改築されていくという流れが自然に起こるので、“生活圏に人が溢れてパンクする”といったことはほぼないでしょう」
武蔵小山のように、駅周辺にタワマンが密集した他の地域の現状について榊氏に聞いてみた。
「例えば曳舟駅(東京都墨田区)周辺は、2010年代にタワマンがいくつか建てられました。もともと下町だったところに、不自然にいきなりタワマンが建てられていった形でしたが、10年以上経った現在は、特に生活への支障はみられず、タワマンが暮らしの一部として馴染んできている印象です」
タワマンは地元民の暮らしにはほとんど影響しない?
武蔵小山に住むAさんは、再開発で街の人気飲食店がなくなる可能性や街の風情ある雰囲気が壊されることを危惧していたが、榊氏によると「タワマンが建てられたからといって必ずしも地元民の暮らしに大きな影響があるとは限らない」とのことだ。
「下町に長年住んでいる地元民と、タワマンに住む人たちとでは、同じ場所に住んでいたとしても生活様式が異なっていることがほとんどです。表面的に交わることはあっても、基本的にタワマンに住む人たちが地元の人たちの生活圏に入り込み、溶け込むということはあまり考えられません。
けっきょく地元のコミュニティを守り、盛り上げていけるかどうかは地元の人たち次第でしょう。再開発でタワマンができて、生活様式が違う人たちが増えること自体が、その地域の活気や地域の特色を直接奪うことにはならないのではないでしょうか」
地元民、区議会議員からの懸念は現実的か
冒頭で説明したように、これから着工開始する小山三丁目第一地区の再開発については、地元民、区議会議員などから、反対の声も挙がっている。
1つめの懸念は、パークシティ武蔵小山の商業施設ザ モールのテナントが複数閉店するなど、実際には必ずしも地域の活性化につながっていないのではないか、という点だ。今回の再開発の計画でも、オープンスペースなどの創設や、商店街のにぎわいを維持するための歩行環境の整備などが目的として掲げられているが、果たしてうまくいくのだろうか。
「人為的に作られた環境にわざわざ人は集まりませんが、自然発生的にできたような、すでに人々でにぎわっている環境を整備するならば、より活気に満ちあふれたよい空間に変わることもあります。ザ モールはタワマンの敷地内に存在し、ある種“人為的に”作られている場所なわけですが、タワマン住民ではない人からすると敷居が高く、なかなか入りにくいと感じるでしょう。
先ほどもお伝えしたように、タワマンに住む人々と地元民との間には生活の“壁”があるので、両者がともに交流できる場を作ることはかなりハードルの高い挑戦です。よって今回の再開発でも、ザ モールと似たような商業施設ができてしまう可能性は高いでしょう。実際これまで私が見てきた再開発で、そのハードルを越えられた例を見たことがありません」
2つめの懸念が、建設コスト急騰による“事業の破綻”だが、榊氏によるとこれは現実的ではないと指摘する。
「一度着工してしまえば、計画が白紙に戻ることはないです。いくら工事費がかかったとしても、建設途中で取り止めになることはなく、行政などと協力しながら力づくで建設を進めて竣工まで導きます」
視点を変えればメリットもある
近年では中野駅(東京都中野区)の中野サンプラザの再開発計画が建設費用の急騰を受けて、解体前に計画中止になった例もあるが、榊氏いわく「これはかなりレアなケース」とのこと。
事業全体にかかるコストはあらかじめデベロッパーや区などの行政との間で取り決められるため、何か大きなトラブルがない限り、着工した後に計画がとん挫するといったことはなかなか考えられにくいようだ。
――反対の声も少なからずみられる武蔵小山の再開発。
しかし視点を変えれば、区の税収が増え、街が整備されたり、利便性が向上したりするなどのメリットも多い。再開発で街の個性が薄れるということに関しては、本来の街の個性や趣を守るために、地元民が積極的に行動を起こすことも重要なのかもしれない。
(取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio)
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