画面が小さいスマホでなく、PCで株式投資を行う高齢者が増加しているそう

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 真面目だった父の老後を、豊かに彩ってくれるはずだった「退職金」。それが、ある日すべて溶けてしまったら……? なぜそんな悲劇が起きたのか、どうすれば回避できたのか。マネーの専門家が、処方箋を提示する。今回のアドバイザーは、金融教育家でファイナンシャル・セラピストの上原千華子さんだ。

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家族が知らないうちに投資詐欺

「まさか、うちの父に限って詐欺に遭うなんて」。都内在住の50代女性、ともえさん(仮名)は、力なく語る。真面目で仕事一筋、定年まで勤め上げた父、洋造さん(仮名)には、退職金を含め、2000万円以上の預金があるはずだった。「両親の老後は大丈夫」。そう安心していたのに、投資詐欺に遭って、金融資産がほぼなくなってしまったのである。

画面が小さいスマホでなく、PCで株式投資を行う高齢者が増加しているそう

 きっかけは7年前、洋造さんが、近所の知人から「株で儲かった」という話を聞いてきたことだった。現役時代は投資に全く縁がなかったが、退職して手持ち無沙汰だったこともあり、独学で株式投資の世界へ足を踏み入れたのである。

 当初は、娘のともえさんを含め、家族は「今まで投資なんかしたこともないのに、ろくに勉強もせずにいきなり株をやるのは危ない」と何度も制止した。しかし、洋造さんは「私には時間がないんだ。朝お金を入れたら夕方には儲かるくらいじゃないと間に合わない」と頑なだった。当時、 洋造さんは70歳。いつ死ぬかわからないから、今すぐ結果が欲しい――。焦燥感に突き動かされるように、洋造さんは個別株の短期売買にのめり込んでいった。そんな父を、家族は「本人が稼いだお金だし……」とあきらめ半分で見守るしかなかった。

 問題が発覚したのは、2025年の秋。洋造さんが「利益を引き出すために、100万円の手数料が必要だ。あまりに高くて困っている」と、ともえさんに相談を持ちかけてきたのだ。

「手数料が100万円は絶対おかしい。詐欺じゃないの。それにずっと日経平均、調子よかったのに、100万円が払えないってどういうことよ」

 ともえさんが問い詰めると、思いもよらない事態が明らかになった。

――最初は、大手証券会社で口座を開き、我流で個別株を短期売買していた。振り返ってみれば日経平均株価はずっと上り調子だったが、時々大きく値を下げることはある。そのたびに、あわてて「損切り」のために売却してしまい、手持ち資金が減っていった。

「確実に儲かるアドバイスがほしい」と投資講座や投資サークルに参加するように。やがて目に留まったのが、SNS上に出ていた投資講座の広告だった。

 投資講座にコンタクトをとると、グループLINEに誘導され、投資用アプリのインストールをすすめられた。グループLINEでは受講生による「こんなに儲かった」と景気のいい話、そして投資成績を示すアプリの画像が飛び交っていた。煽られるまま、指定された口座に入金。投資アプリにはとんとん拍子で増えていく資産額が表示され、高揚した洋造さんは有り金のすべてを入金してしまった。その額、およそ2000万円……。

投資アプリをみたら、700万円くらい利益が出ているし、いったん出金しよう」

 洋造さんが投資講座の事務局に連絡を取ったところ、「手数料100万円」を請求されたのだ。

 話を聞いたともえさんは、警察に相談。捜査員が父のLINEグループに介入した途端、それまでにぎわっていたグループLINEから、「受講者」は一斉に姿を消した――「サクラだったみたいです」(ともえさん)。

「おかげで100万円を追加で払うことはなくなりましたが、やはり詐欺だったわけです。父がすでに払った2000万円ですが、こういう詐欺の被害に遭った場合、犯人がつかまっても返金される見込みは低いそうです」とともえさんは肩を落とす。

 洋造さんの住まいは持ち家で、家賃を払う必要はないことは救いだった

「年金だけでもなんとか生活していくことは可能です。ただ、何か大きな出費が必要になってしまったら……、それを考えると不安ですね」

 ともえさんは、父の無謀な投資行為を放置してしまったことを後悔し続けている。

専門家からのアドバイス/家族さえ「不可侵」だった老後資金の運用状況

 なぜ、堅実な人生を歩んできた親の人生設計がこれほど脆く崩れたのか。お金の問題について金融知識と心理の面からアプローチするファイナンシャル・セラピストの上原千華子さんは、その背景にある心理的な落とし穴を指摘する。

「最大の問題は、家族間でお金の話を共有できていなかったことにあります」

 洋造さんは、ともえさんら子どもたちはもちろん、妻にも資産運用の相談をしていなかった。口座がブラックボックス化されていたため、本人が不審な支払いを繰り返していても、周囲が早期に異変に気づくことができなかったのだ。

 こうした傾向は、「お金についてあれこれ話すのは卑しいこと」と捉える中高年世代に目立ち、お金に関するトラブルを一人で抱え込みやすい。今回のケースでも、本人に「自分で稼いだ金だ」という自負があり、失敗を認めることが敗北感に繋がってしまうという、プライドの高さが問題を深刻化させた。

「加えて、デジタル化の波も被害を助長しています。ネット銀行やアプリを通じた取り引きは、目に見える証拠が残りにくく、PCやスマホの中で全てが完結してしまいます。投資詐欺に巻き込まれても、家族が異変に気付きにくいのです」

親の資産を守るための「対話術」

 詐欺のテクニックは年々進化しており、お金の知識をこまめに更新していても、完全に防衛することは難しい。高齢な親ならなおさらだ。ではどうすれば?

「日ごろから家族同士でお金について話す習慣をつけておくといいですね。異変に気付きやすくなって、被害を予防する、あるいは被害を最小限に食い止めることができます」

 大切なのは、いきなり「お金はどのくらいある?」などと資産状況を問い詰めたりしないことだ。親は警戒して、ますますお金の話を避けるようになってしまう。

 投資詐欺の情報については、テレビのニュースやワイドショーをきっかけに「こんな怖い詐欺があるみたいだけど、うちは大丈夫かな?」と、親を思いやるスタンスで会話の糸口を作る。資産運用の状況については、「この先、やってみたいことってある?」と未来について話しながらお金の話題に少しずつ触れていく。病気や介護について不安があるようなら、「いざというとき困らないように」と、具体的な金額に触れなくても、銀行や証券会社の口座など「お金のありか」について確認しておく。

 親を心配する気持ちが伝われば、お金の話は「いやらしいもの」から「家族を守るためのポジティブな情報共有」へとアップデートしていく。これこそが、資産を守る鍵となるのだ。

 今回は詐欺被害に遭ったケースだが、本人の投資姿勢にも問題はあったと上原さんは言う。

「これから投資を始める人は、いきなり全財産をつぎこまないことです。世代に関係なく、個別株など値動きの大きい商品は、目減りしてもうろたえずにすむ余裕資金の2割までにしてください。特に、高齢者は“稼いで挽回”が難しいですから、生活費にまで手を出さないよう、投資額に制限を設けておくことは大切です」

 投資の有料講座や儲け話にひかれたら、家族に一言相談することも大切だ。家族に相談しづらい場合は、「消費者ホットライン」(188)や警察(#9110)でもいい。いずれも無料で助言がもらえる。

※紹介する事例は、プライバシー保護等のため、アレンジを加えている。

今回のアドバイザー/上原千華子さん
金融教育家/ファイナンシャル・セラピスト。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴25年以上。AFP、証券外務員一種、NLP(実践心理学)マネークリニック(R)認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。心理学を取り入れたライフプランと資産運用をアドバイスしている。現在は企業・大学でも登壇し、延べ5000名以上に金融教育を届けている。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)。

取材・文/鷺島鈴香

デイリー新潮編集部