『超かぐや姫!』に登場する「未来の技術」と、“フラット”なインターネットの描き方を見て
※本稿には『超かぐや姫!』のネタバレを含みます。
現在Netflixで公開されている長編アニメ作品『超かぐや姫!』。SNSを中心に爆発的なバズを見せているこの作品は、約2時間20分の中に、バトルアクション、音楽ライブ、友情物語などの要素がぎっちり詰め込まれた、“エンタメ特化”な作品だ。平安初期に書かれた古典『竹取物語』を話のベースにしつつ、XRやメタバース、VTuberなど、現代の最新テクノロジーとミクスチャーされた世界観が描かれる。
(関連:【画像あり】『超かぐや姫!』の場面カット)
女子高生・酒寄彩葉(さかより・いろは)と、突然月からやってきた謎の少女・かぐやの友情を描くこの物語は、現実世界と仮想空間の両方をまたいでストーリーが進行する。
悪人がいないといっても過言ではないこの作品。「ハッピーエンド」を目指してキャラクターたちがはちゃめちゃに動きまわり「楽しい!」を探していくが、ネガティブなシーンが少ない。テンポもスピーディで、極めて痛快。主要キャラみんなが生き生きと楽しいことや好きなことを謳歌している様子と、そこから生まれる独特なエモーショナルが、多くの視聴者の心を鷲掴みにしている。現在は配信限定公開のため、映画館の大スクリーンで味わいたい、という声がSNSで多数あがるほどだ。
同作の特徴的なポイントとしては、SF的要素があるものの、ノリとテンポ重視で世界設定については意図的に説明を省いている部分がちらほらあることだ。監督の山下清悟はアニメイトタイムズのインタビューで「自分は、ストーリーの構造がものすごく複雑だったり、SFとして緻密な設定が必要なものにはそれほど興味がないんです。むしろキャラクターの感情の成長や、関係性の描写をメインに置いた作品を作りたかった」と語っている(※1)。キャラクター描写に比重を置くために、視聴者が世界観を各々感じ取ってくれるのを信じて、解説はあえて削ったのだろう。
とはいえキャラクターたちが多くの人の目に魅力的に映るのは、彼女たちが謳歌しているバーチャル文化・ネット文化の描写が巧みだからに他ならない。今回はストーリー部分のネタバレを避けつつ、作中の「XR」「メタバース」「VTuber」の表現に注目していきたい。
■簡単で便利な「コンタクトレンズ型XR機器」
作中では舞台になっている世界を「今とあんまり変わらない少しだけ未来の世界」と語っている。ところどころで表示される日時を見ると2030年らしい。この世界ではスマホのように、みんなが持っていて当たり前のツールとしてXR機器が登場する。たとえば序盤の現実パートで、彩葉の一人称目線だとARで空間上にディスプレイが何枚も浮いているのに、三人称のアングルになると何もない、なんて表現が説明なしにしれっと出てくる。
デバイスとして出てくるのはコンタクトレンズ型の「スマコン」と呼ばれるもの。ネットのことを何も知らない状態のかぐやが(彩葉のウォレットを使って勝手に)買えてしまうくらいには、この世界では普及しているもののようだ。なお作中ではモブの中年男性キャラクターがメガネ型の機器を使うシーンもあり、デバイスにバリエーションがあることも匂わされている。
コンタクトレンズ型スマコンは使用時に光を放つので、使っているかどうかは一応は(アニメーション的には)わかるのだが、それでも着用していているかどうかは他人からはほぼ判別できない。それ故か、彩葉の通う学校には「スマコン禁止」という張り紙がちょっとだけ映り込むシーンもあったりする。
またスマコンはVRモードとARモードがあるようで、ARモードのときは現実の視界に映像が重なって見えるような描写になる。VRの機能を使う場合は、イヤホンが別途必要で、着用して目を閉じれば、簡単に仮想空間「ツクヨミ」にログインできる。「ツクヨミ」ログイン中は現実世界の情報はシャットアウトされ、自由に仮想空間内を動けるようになる。ゲームのような複雑な動きが必要になる場合は、さらに両手持ちのVRコントローラーも必要になるようだ。
作中でのスマコンの価格は124,400円らしい。学生には少しお高めだが、日常生活で付けたままARを活用でき、ヘッドマウントディスプレイなしでVR空間に完全ダイブできる超軽量デバイスだと考えると、格安どころではない。2007年に放映されたアニメ『電脳コイル』では子供でも使えるMRデバイスとして「電脳メガネ」が登場していたが、そのさらに軽量版といったところだろうか。今すぐの実現は難しいだろうが、もう少し先の未来ならば、類似したデバイスが開発されることも十分ありうるんじゃないかと夢見たくなる。そんなちょうどいい塩梅のウェアラブルデバイスとして、とても魅力的に描かれている。
■希望にあふれた仮想空間「ツクヨミ」
彩葉とかぐやが暮らす現実と並行して、この作品のメイン舞台になっている「ツクヨミ」は、AIライバー・月見(るなみ)ヤチヨが管理している仮想空間だ。スマコンを使ってログインする形式で、自身のアバターを使って自由に遊ぶことができる、ユーザー数が1億人を突破している超巨大メタバースだ(同時に、それだけスマコンが普及している世界であることも伺い知れる)。日本人がメインユーザー層を占める「ツクヨミ」は、メタバースの比較イメージとしては、VRChatよりはメジャーで認知度も高く、Robloxほど世界規模で普及してはいない……くらいの雰囲気だろうか。
アバターは衣装や髪型を選択して作る、ゲームでよく見られるようなキャラクタークリエイト型。登場モブキャラを見た感じだと、プレイヤーは和風の世界観に沿った人間型しか選べない様子。メインキャラたちの「ツクヨミ」での姿と現実の姿が異なっているあたり、キャラクリの自由度はそこそこ高そうだ(身体をスキャンして現実に近い姿に設定される、という世界観の作品もある)。
人との交流がメインの楽しみ方となる「ツクヨミ」のチュートリアルでは、FUSHIというふわふわしたウミウシキャラクターがこう解説している。
「ツクヨミではみんなが表現者。君もなにかをして人の心を動かしたら運営から『ふじゅ~』がもらえるんだ」「『ふじゅ~』を使って君の好きなクリエイターを応援しにいこう!」
運営からもらったり、推しを応援する際に使える「ふじゅ~」というのは「ツクヨミ」内で使える通貨のようなものだ。現実世界でも使用できるようで、かぐやが稼いだ「ふじゅ~」で現実の物品を買う様子が見られる。
この表現活動の代表的なものとして、本作でかぐやたちが目指す「ライバー(配信)」にスポットが当てられている。その他、「ツクヨミ」では数多くのお店が立ち並んでいて、プレイヤーたちが物を売買している様子も見られるが、これもれっきとしたプレイヤーたちの「表現」活動なのだろう。
「ツクヨミ」内ではゲームを楽しむこともできる。中でも多くの人が注目しているのが「神戦(KASSEN)」というゲーム。自身のアバターを操作して仲間とチームを組んで協力し敵の本拠地を目指すという、『League of Legends』のようなマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナスタイル。ライバーではなかった彩葉も、このゲームで遊ぶことで「小遣い稼ぎ」をしていたという発言があるため、ゲームプレイも「ツクヨミ」では「表現」とみなされているようだ。
ふじゅ~にまつわる経済の詳細な仕組みは描かれていないが、老若男女を問わず「人の心を動かす表現者」であれば、メタバースで合法的にお金を稼ぐことができるというのはとても夢のある話だ。
「ツクヨミ」の数少ない弱点として描かれているのが、味覚や嗅覚が満たされないという部分。スマコンはあくまでも視覚と聴覚で体験するデバイスだからだ。「ツクヨミ」での表現活動をフルに楽しんでいるかぐやだが、普段現実世界では美味しいものを食べたり作ったりするのも大好きなキャラクターでもある。そんな彼女が「ツクヨミ」で味を楽しめないのは、心を満たしきれない重要なポイントとして描かれている。
■「ライバー」を推す楽しい日常
彩葉が推している月見ヤチヨは「AIライバー」。公式サイトでは「歌って踊って分身もできる8000歳(という設定)の、ミステリアスなAI」と解説されており、リスナーはその正体を知らない。実際にAIかどうか、8000歳かどうかはどうでもよくて、眼の前で楽しませてくれるから月見ヤチヨを推す……というファンの姿勢は、現在のVTuberを視聴する際の、お約束を大事にするスタイルによく似ている。
配信はYouTubeを彷彿とさせる動画配信サイトで行われている。この作品で描かれる「ライバー」の配信形態は主に「Webカメラなどを利用してアバターを動かす2D型」「『ツクヨミ』でアバターをまとって動く3D型」」「実写配信」の3通りだ。
ヤチヨはAIライバーなので、配信方法に関して序盤では謎が多い。一方、かぐやの普段の配信は、Webカメラを用いてノートPCでLive2Dモデルを動かす、いわばVTuber型にあたる。最初は自分で描いたぎこちない絵を使って動かすところからスタートし、途中からは「ツクヨミ」のモデルを2D化した、クオリティの高いモデルで配信を行うようになっている。
また同作ではこのシーンのためにわざわざ本当にLive2Dアバターモデルを制作しており、現実のVTuber配信がまとう「楽しい空気感」を再現しようというスタッフの意欲が感じられる。なお一部、ノートPCからの配信でもLive2Dモデルではなくアニメーションで描かれているカットもあるが、このあたりはあまり厳密に再現にこだわるのではなく、アニメ演出としてノリで切り替えているように見受けられた。
かぐやが「ツクヨミ」で全身(言い換えるならば3Dモデルアバター)を動かし、路上ライブを行ったり、「踊ってみた」動画を配信するシーンも度々描かれる。VRChatやclusterなどのメタバースを利用している人にとっては、見覚えのある光景だろう。人気の「KASSEN」の配信を行っているゲーム実況配信者などは、主にこのメタバースからの配信スタイルを用いているようだ。
ヤチヨは、自身とのコラボライブをかけてツクヨミの全ライバーが参加できる「Yachiyo Cup!!」で、最も多く新規ファンを獲得した人が優勝というイベントを開催している。そこでヤチヨとかぐや以外にも多数のライバーが活動する様子が見られるが、ほとんどは「ツクヨミ」のアバターを用いた配信活動者のようだ。
その中でかぐやは、アバターを用いない実写の顔出し配信も行っている。現実のVTuberファンが見たら「身バレでは!?」とちょっとドキッとさせられるシーンもあるのだが、作中の世界では視聴者にすんなり受け入れられていて、深くは触れられていない。一応とあるキャラはこのやり方について「ぶっ壊れてんな」と発言しているので、イレギュラーではある様子。
『超かぐや姫!』では、アバターを利用して配信しているか否かは、あまり区別されずに描かれている。それよりも、バーチャルであろうとなかろうと「どのくらい人の心を動かしたか」という点だけが物語的に重要になっている。おそらく多様なライバー表現の形の中で、VTuber的な見せ方の方が人気がある、くらいのバランス感なのだろう。
「ツクヨミ」ライバーとしての活動の枠に入るかどうかは明示されていないが、かぐやの「ツクヨミ」でのアバターダンス動画を真似て「踊ってみた」をアップする女の子が登場するシーンもある。彩葉の友達が顔出しをしているインフルエンサーとして活躍している設定があるなど、ネットで発信することに関しては全体的に「自身の好きを発信するのは楽しい」というポジティブな表現がされている。
一瞬しか映らないが「ツクヨミ」ライバーの中にはアートや歴史を中心に活動する知識系ライバーもいるようで、それぞれみんな人気がある様子。自由に好きなものを表現でき、おまけに「ふじゅ~」も入手できるこの世界のライバー活動は、希望に満ち溢れている。
作中でかぐやが他のライバーとコラボをするシーンでは、YouTubeの編集動画的なテロップが入る描写があったり、かと思えばヤチヨの配信ではニコニコ動画のような右から左に流れるコメントが再現されていたりと、配信文化の色々なエッセンスが随所に盛り込まれている。ネット文化に触れてきた人ならニヤリとできるポイントだろう。YouTubeのスーパーチャット的な「投げ銭」で、『竹取物語』の“とあるネタ”を再現しているのもユニークだ。
作中では歌でのパフォーマンスを行って、新規ファンを獲得していたかぐや。公式チャンネルでは作品公開前に、ライバーとしてのヤチヨとかぐやによる有名ボカロP作品の「歌ってみた」動画が続々とあがり、作品外での広報として、話題作りがなされていた。平成期に無名だったボカロPが、ネットで曲を発表してどんどん人気になっていった、あの当時の「誰でも表現者になれる」ワクワク感が、「ツクヨミ」の「みんなが表現者」というモットーとぴったり重なるかのようだ。
■ネガティブな要素が描かれない、理想的なバーチャルの未来
また、『超かぐや姫!』では「スマコン」を悪用したり、「ツクヨミ」でいわゆる“荒らし行為”をするユーザーなど、ネガティブな描写はほとんど描かれない。ライバー活動で競い合うという仕組み上、嫉妬や妨害といったトラブルが巻き起こってもおかしくないし、物語の流れとしてそういったシーンが登場したとしても違和感はないだろう。しかし、同作ではスマコンも、ツクヨミも、ライバー活動も、一貫して「みんながハッピーになるためのツール」として描かれている。唯一、ストーリー後半で「チート」に対してシステムから警告が発せられるシーンはあるが、これもある種の「緊急避難」的な意味合いが強かった。
そして、メインキャラである彩葉とかぐやが、現実とバーチャルに差を付けず、どちらも自分たちが幸せであるための居場所として大事にしていることも、本作の“姿勢”を表すワンシーンだ。とあるシーンで、かぐやが「やっぱ現実最高!」と言った時、彩葉が「私はツクヨミも好きだけど?」と返す会話がある。現実で海に遊びに行くのも、バーチャルでライブをするのも、どちらもかけがえのない体験であり、ふたりがそれらを等しく大切にしている様子が、随所で描かれている。このあたりは、山下清悟監督が明確に、インタビューで自身のスタンスを述べている。
「今回の作品では、ネットに対してネガティブやポジティブといった特別な感情を持つわけではなく、あくまで『インフラとしてのネット』を描いているんです」「あまり題材に対してメッセージ性を持たせているわけではないんです。例えば、『VRから現実に帰れ』といった形のテーマは一切ありません」「良くも悪くもネットに対する強い意識はなく、当たり前にそこにあるものとして描いているということです」(※2)
かぐやがスマコンを用いて「ツクヨミ」でライバー活動をしているのは、それらのツールが自分たちの「楽しい」を表現するのに向いていたからに他ならない。「配信は実写のほうがいい」とか「「ツクヨミ」ライバーはアバターでやるべき」とか「ライバー特定からの炎上」というようなやりとりが一切起こらないのも、フラットな感覚でこの作品が作られているからだろう。
ネットでの活動や、バーチャルにまつわる毒っけがほとんど描かれないからと言って、物語の味が損なわれることはない。なぜなら、同作は「ふたりの女の子がハッピーに向かって突き進むこと」が一貫したテーマであり、それを描くために2時間20分の尺では足りないくらいに楽しい描写が詰め込まれまくっているからだ。まるで、映像・音楽・物語が爽快感に満ち溢れているのだから、そこにノイズは必要ないとでも言わんばかりに。
人生のハッピーエンドを目指す物語においては、見えないものを形にして人と人がつながってきた「ネット文化」の表現方法も、とてもハッピーだ。興味のある方はぜひチェックしてみてほしい。
※1:https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1768959910※2:https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1768959910&p=3
(文=たまごまご)
