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レーシング・グリーンのF1サポートカー

2025年のF1は、序盤から手に汗握る展開が繰り広げられているが、ドライバーが全力を発揮するうえで、舞台裏の体制は極めて重要。万が一に備えて、セーフティーカーとメディカルカーが控えている。現在は、アストン マーティンも協力する関係にある。

【画像】F1を守るアストン マーティン ヴァンテージとDBX707 公道レーサーのヴァルキリーも 全117枚

今シーズンも後半へ突入した盛夏、AUTOCARはシルバーストン・サーキットの内側へ位置する、ストウ・サーキットへ隣接した同社の技術開発センターへ招かれた。セーフティーカーとメディカルカーへ、試乗できるという。


手前からアストン マーティン・ヴァンテージ(FIAセーフティーカー仕様)と、アストン マーティンDBX707(FIAメディカルカー仕様)

真新しいヴァンテージのボディは、アストン マーティンを象徴するレーシング・グリーン。フロントスプリッターにサイドスカート、リアウイングはネオン・イエローで染められ、ルーフにはアンテナとパトライトが載っている。

ダッシュボードには複数のボタンが並んだパネルと、ライブ映像を確認するモニターが鎮座。シートベルトは6点式だ。コース上での存在感は、かなりのもの。殺気立った20名のF1ドライバーを、抑止するのに充分な雰囲気を放つ。

レーシングドライバーの経験は不可欠

4.0L V8ツインターボエンジンは665psを発生し、0-100km/h加速を3.4秒で処理する動力性能を秘める。2000年からFIAのセーフティーカー・ドライバーを務める、ベルント・マイレンダー氏も、相当なスキルの持ち主だ。

「速く安全に運転するうえで、レーシングドライバーとしての経験は不可欠です」。そう話す彼は、2000年のル・マンで優勝。2004年までは、ドイツのDTMを戦っていた。


アストン マーティン・ヴァンテージ・セーフティーカーのドライバー、ベルント・マイレンダー氏

ストウ・サーキットは、短い2本のストレートと8か所のコーナーで構成され、コース長は1.6kmほど。ヴァンテージのステアリングホイールを握るマイレンダーは、筆者を助手席に乗せ、息が詰まるペースで周回してくれる。加速も減速も、熾烈だ。

多くのF1マシンを従えて走る状況では、相当に積極的な姿勢が求められるという。「タイヤカスへ、ドライバーは気づかないこともあります。邪魔していると感じられてイライラさせないよう、速く走るようにしますが、安全が第一です」

ドライバーの生体認証データも確認できる

今日は筆者が隣へ座っているが、本番でパートナーとなるコドライバーは、リチャード・ダーカー氏。ピットへ戻ると、彼が待っていた。遅くてもスタート10分前から、ピットの出口でヴァンテージに乗り待機しているという。

オーストラリア・グランプリ(GP)を、ダーカーが振り返る。「緊張感は相当ですよ。激しい雨で13周走りました。あんな状況では、路面状態を把握し運営ディレクターへ伝えるため、コミュニケーション力の高いクルマが必要です。ヴァンテージのように」


アストン マーティン・ヴァンテージ(FIAセーフティーカー仕様)

レース本番のグリット後方には、メディカルカーも待機している。アストン マーティンは、2023年からDBX707を提供中。4.0L V8ツインターボが705psを発揮し、0-100km/h加速3.1秒でこなす、スーパーSUVだ。

運転席の後方には、消化器や医療バッグ、AEDなどが積まれている。レースコントロール通信へアクセスが可能で、コース上のライブ映像だけでなく、ドライバーの生体認証データも確認できるという。

運転技術だけでなく状況判断力も試される

メディカルカーのドライバーは、カール・ラインドラー氏。彼も、プロのレーシングドライバーだった人物だ。「速く運転するだけでなく、冷静さを保ち、優れた状況判断も試されます。F1マシンは、DBX707の倍の速さで走れますから」

「2024年のアゼルバイジャンGPで開かれた、F2サポートレースでは、3台が絡む事故がありました。誰の救援を優先するか、自分たちは即座の決断が必要でした」


アストン マーティンDBX707 メディカルカーのドライバー、カール・ラインドラー氏

「1台はドライバーが脱出を試みていましたが、1台は炎上し、もう1台は横転。消防隊も到着し、自分たちは横転したマシンへ向かいました。ドライバーは無事でしたよ」

ラインドラーは、DBX707のメディカルカーでストウ・サーキットを全開で飛ばしてくれた。足取りは安定し、コーナーでは僅かにアンダーステア。筆者も少し運転させてもらったが、その頼もしさが強く響いた。レースの見方も、少し変わりそうだ。

番外編:F1のセーフティーカー&メディカルカー

F1へセーフティーカーが導入されたのは、1973年のカナダGPから。車両はポルシェ914だった。1978年のイタリアGPでの死亡事故をきっかけに、メディカルカーの導入が検討され、同年のアメリカGPから加わっている。

1981年のモナコGPでは、ランボルギーニ・カウンタックがセーフティーカーを担当。1995年のハンガリーGPでは、エンジントラブルでマシンから降りた井上隆智穂氏が、メディカルカーと接触。足を負傷してしまう。


アストン マーティンDBX707(FIAメディカルカー仕様)

1996年に、メルセデス・ベンツ C 36 AMGのセーフティーカーが導入。2020年のバーレーンGPでは、ロマン・グロージャン氏がクラッシュし、マシンは炎上。メディカルカー・クルーの処置を受けている。

メルセデスAMGとの共同で、アストン マーティンも2021年から参画。現在は2023年式DBX707と2024年式ヴァンテージが、レースの安全を守っている。