成長を続ける オープンハウス のマーケットイン戦略。鍵は営業チームとの連携による一気通貫した顧客体験の提供
創業26年で不動産業界4位まで躍進し、2023年には売上1兆円を超えたオープンハウス。その成長の基盤には「お客様に合わせたマーケットイン」の考え方がある。「全ファネルを俯瞰で見ると、成長の余地が見えてくる」と話すのは、オープンハウスグループのデジタルマーケティング部門を統括する川島佑太氏だ。企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていくDIGIDAY JAPANのインタビューシリーズ「look inside!―マーケターの思考をのぞく―」。今回は、2桁成長を続ける同社の秘策について、マーケティング視点から川島氏に話を聞いた。◆ ◆ ◆
コミュニケーションを科学する
DIGIDAY編集部(以下、DD):オープンハウスといえば、不動産業界内における突出した売上成長率が注目されていますね。また、営業力の高さも話題になっています。川島佑太(以下、川島):不動産業界の成長率は2.9%と言われるなか、当社は2013年の上場以降、平均成長率が28%で推移しています。2桁成長の数字を支えている要因はさまざまありますが、お客様のニーズを吸い上げる、マーケットインの考え方がまずベースにあります。価格が高くて「都心に戸建ての家を持つ」ことを諦めていたお客様に、個々のニーズに合わせたご提案をすることで、ご購入に至る成約率が上がっているのです。
川島 佑太(かわしま ゆうた)/オープンハウスグループ マーケティング本部デジタル戦略部 部長。新卒でオープンハウスに入社し、営業職として戸建仲介販売を経験後、マーケティング部へ異動。契約管理システムのPM、自社独自のCRMツールの改善に加え、リードナーチャリング、マーケティングオートメーションなどの業務も担当した。WEB広告運用マネージャー、事業推進グループ長を経て、現在はデジタル戦略部にてデジタルマーケティングを統括する。プライベートでは、子どもの幼稚園の運動会で「走れるかっこいいパパでいたい」と、ジム通いを続けている。

コンバージョン=顧客の感情転換
DD:マーケティングを実施する上で重要なポイントは何だと考えていますか?川島:当社のファネルで言うと、まず購入検討者をサイトに集客する広告があり、サイト上で会員登録をいただいた後、その先のお問い合わせにつなげていき、営業部門に連携していきます。そして、営業部門とお客さまとの直接のやり取りがあり、物件のご提案・ご案内を経て、お客さまからご購入の意思を頂き、ご契約に至るという流れですが、ここで重要なのは、こちらが提供しているものが各ファネルで異なるお客様の検討度や関心事・不安事にフィットしているか、お客様の状況において適切なものかどうか。お客様の体験は「連続したもの」であり、検討度合いによって時間と共に変化していきますが、企業側は作業が分断されていたり、どのお客様にも一律なコミュニケーションになっていたりするケースが多く見られます。サイト制作はベンダー、広告はマーケティング、ここから先は営業というような企業都合の縦割りになっていることが多い。これではお客様の実体験と異なり、どこかで歪みができてしまう可能性がありますし、ツギハギのコミュニケーションでは、住宅という大きな感情変化を伴う大きな買い物をされるお客様の心は動きません。データを改めて見直すと、そこに至るまでのお客様の体験によって施策への反応が異なり、そして行動が変わることがわかります。ということは、全領域を俯瞰で見る必要があります。コンバージョン=お客様の感情転換と考えられるので、一気通貫した顧客体験を提供しなければならないんです。DD:ユーザー視点で全ファネルを見るということですね。川島:はい、同じ施策の労力をかけるにしても「適切な相手に、適切なタイミング」で実施することで結果は大きく変わるということですので、ユーザの立場に立ちながらも全体を俯瞰することが重要です。DD:特徴的な戦略として「契約予測モデル」と「熱量予測モデル」という型があると伺いました。川島:契約予測モデルは当社サイト内でのお客様の回遊ログを分析し、実際に契約に至るかどうかを予測するものです。これまでは1、2カ月かけて広告の評価をしていたのですが、もっとPDCAを速く回したいという考えから作ったモデルです。いまは、お客様が会員登録した日から1週間で予測精度を高く出すことができるようになりました。一方で熱量予測モデルは、さらに深度を深めたもので、お客様ひとりひとりの「今」の熱量に合わせた今アプローチすべきお客様を、営業チームに知らせるためのものです。つまり、契約予測モデルはお問い合わせいただいた方の契約期待値でポテンシャルを測るもの、熱量予測モデルはお客様が「今」熱が上がってきたかを測るものなんです。重要なのはマーケティングチームと営業チームの連携
DD:お話を聞くと、マーケティングと営業チームの連携が重要だと感じますが、部署間の連携はいかがでしょうか?川島:これまでは組織が縦割りになりがちで、マーケティング施策でお客様を獲得したら「あとは営業の方でよろしく」といった空気がありましたが、最終的な成約まで見ていくことが必要です。自分たちのKPIだけを追うことに意味はなく、営業と同じ方向を見るために、営業側を理解して信頼関係を構築し、同じ目標のなかで各々の役割を果たし、協力することが肝心です。実際、営業は大変なわけです。雨が降っても風が吹いても営業活動はやめられないし、お客様の要望に応えなければなりません。なので、マーケティングチーム側も「その雰囲気を持つこと」を徹底しています。営業と同じだけ汗をかくということですね。そしてもうひとつは「同じ目標を見る」ということ。マーケティングチームも営業目標を見て、自分たちも意識統一をする。そのため、服装を含め、営業チームと同じフォーマットで働いています。部署ごとに強みは必要ですが、お互いへの気遣いは重要ですね。もう一段階かみ砕くと、「自責で考える」という会社の大事なキーワードがあります。たとえば会員登録しかしていない段階のお客様は、他社では追いかけていないところが多いと思いますが、当社は営業がきっちり追ってくれています。そのため、マーケティング側も「もっと営業が追いやすい反響を取ろう」という意識になるんです。営業側も「こんなに毎日反響があるなんて」と我々に感謝してくれるという環境ができています。つまり、お互いに「人のせいにしない」わけです。両チームが切磋琢磨するという文化は会社が作ってくれたものですが、非常に重要だと思います。DD:さらにオープンハウスを進化させるための重要なポイントは何だと感じていますか?川島:お客様が望むカスタマージャーニーに、さらに我々の施策を近づけていくことですね。企業都合ではなく、お客様からみた一気通貫で体験していただくこと。そういうことができる組織を作っていきたいと思います。成長の持続性を考えれば、お客様にストレスを感じさせないよう、こちらが提供する体験と、お客さまのそのときそのときの感情移行に乖離する部分がないかを見つけ、もし見つけたらその部分を改善していくことが不可欠です。我々は、組織一丸となったスムーズな連携により、お客さまの購入体験に寄り添っていかねばいけないのではないでしょうか。
文/島田ゆかり、インタビュー・企画/島田涼平(DIGIDAY JAPAN)写真/三浦晃一
