うつむきながら岸田首相と反対側に顔を向けて歩く菅氏

「この愚か者めが!」

 れいわ新選組の2議員が“牛歩戦術”とともに声を荒らげた、2月28日の衆議院本会議。新年度予算案の採決で、似た愚痴を腹に収めたまま、グッとこらえる男がいた。

 記名投票で壇上に向かうとき、ちょうど内閣総理大臣席の岸田文雄首相(65)と、相対するようになっている。多くの自民党議員が目を合わせ、首相に軽く会釈するなか、うつむいて岸田首相と目を合わせなかったのは、菅義偉(よしひで)前首相(74)だ。

「2021年9月の退陣のきっかけは、政権運営を批判した岸田首相による“菅封じ”でした。それに対して、菅さん自身も首相の政治姿勢を批判する、現在、唯一の“反主流派”の姿勢を貫いています。不倶戴天の敵同士ですよ」(政治部記者)

 迎撃能力の向上をうたい、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の大量購入をぶち上げた岸田首相に、菅前首相が“先制攻撃”で放ったのが、この“シカト”マホークというわけだ。

 だが、岸田首相は気にとめない。

 安倍晋三元首相の国葬で述べた弔辞が、国民から称賛された菅氏。3月3日には、超党派の「日韓議員連盟」の会長に就任することが決まった。

 首相経験者の菅氏の就任で、日韓関係の改善が期待されるなど、表舞台への再登板のように見えるが「そんなに単純じゃない」と、ある自民党議員は話す。

「残念ながら、日韓議連の会長というのは“もう芽がない人”のポストですよ。だって、筋論でいえば、副会長の麻生太郎さんを昇進させてもよかったところを、菅さんを会長にしている。

 今回、森喜朗元首相が人事の根回しをしたようですが、森さんとしては菅さんに花を持たせる形にして、“政局”を起こさせないようにできたし、岸田首相からすれば自分を支えてくれる麻生さんに“終わり”の烙印を押さずにすんだ。菅さん以外は、万々歳の人事では」

 年末年始以降、一時は現政権への攻勢を強めていた菅氏だが、側近議員ですら「言葉がテンポよく出てこない」と、健康不安説を唱え、最近はすっかりおとなしくなっている。

「菅氏と気心知れた二階俊博元幹事長や森山裕選対委員長は、自分たちの“世襲”がうまく進んでおらず、政権運営を不安定にしたくない。森山氏は、岸田首相と連携を深めているほどです。四面楚歌の状況も、菅氏が息をひそめる理由なんですよ」(政治部デスク)

 岸田首相からすれば、迎撃する必要もなかったということか――。