※この記事は2022年01月03日にBLOGOSで公開されたものです

欧州で急激に感染者数が増えている、新型コロナの変異株「オミクロン株」。中でも昨年12月中旬から1日に10万人以上の新規感染者を出しているのが、イギリスだ。

筆者はロンドンに20年近く住んでいるが、感染拡大から約2年が経ったこのタイミングで、家族の事情により年末年始に一時帰国し日本で過ごすことになった。

今回は、12月16日から年明け直前までの2週間、ホテルや自宅で隔離状態となった筆者の体験を記してみたい。外部との接触を厳重に禁じられる、政府指定のホテルでの強制隔離とはどんなものだったのか。

「日本に帰れなくなるかも」イギリス出国直前まで高まる不安と緊張感

「帰国できなくなるかもしれないよ」。東京に住む母がスカイプ電話の電話口でそう言ったのは、昨年11月末のことである。南アフリカでオミクロン株の存在がWHOに報告されてからまもなくだった。

筆者は元々、1月中旬に一時帰国するチケットを買っていたが、その後、障害を持つ弟がコロナが原因で年内に職を失うことになった。さらに一緒に暮らす高齢の母が発病。帰国を早めざるを得なくなった。

壁に貼られたレモンや梅干しの写真?日本到着後の手続き

まず、ロンドンを発つ前に提出書類の準備だ。出国前に準備していたウィルス検査の陰性証明書(医師の署名を含む、日本政府が指定する必須項目を含むことが条件)と感染症対策質問票である。後者は名前、生年月日、滞在地、体調などの質問に回答したもので、回答後に取得したQRコードを印刷しておいた。

12月15日、ロンドン・ヒースロー空港からパリ経由で羽田空港へ。パリー羽田間のエコノミー席では、誰も座っていないシートが目に付いた。

パリ出発から約11時間後の翌16日昼、搭乗機は羽田空港に到着した。「手続きが終わるまでに、7時間かかる」「途中でトイレを使えない」「飲み物・食べ物を買えない」などの経験者からの情報をもとに、筆者は入国関連の書類をクリアファイルに保存してすぐに取り出せるようにしていた。飲み物や軽食を手荷物に入れるとともに、到着直前にトイレの使用を済ませた。

空港に到着すると、マスクを着用した空港職員、警備員らが通路に並ぶ中、指定されたルートを通って、書類確認所、検疫所、隔離中の居場所を知らせるスマホアプリなどのインストール場所に向かってかなりの距離を歩くことになった。

抗原検査は唾を溜める方式で、必要な容量を出すまでに時間がかかり、焦った。ブース内に「レモンや梅干しの写真が貼られている」という知人の情報は本当だった。

処理の過程で、厚生省が出す「誓約書」を書き込むように要請された。入国者は、入国翌日から14日間は、政府指定の宿泊場所または自宅で待機し、他人と接触しない、公共交通機関を利用しない、入国者健康居場所確認アプリ「MySOS」をインストールする、などを誓う必要がある。

最後が、MySOSのインストールと具体的な操作方法の説明だった。全員がスマホを所持することが基本となっており、持っていない人は貸し出す形を取る。

書類の確認を経て、等間隔に置かれているパイプ椅子に座るように指示された。しばらく待っていると、筆者を含む数人が出入国管理デスクによるパスポートチェックに向かうように言われた。

周囲にいる他の入国者が同じ便に乗っていた人だったのかどうかは、掴みにくかった。アプリインストールの段階を終了するまでの時間が人によって異なり、各地から様々な便で到着した入国者が一人また一人と次の段階に進んでいるようだった。

パスポートチェックを終えて、スーツケースを受け取った後、出口に向かう。一定数が集まるまで待機した後、隔離ホテルに行くシャトルバスの停車場へ。

バス内では十数人に達するまで30分ほど待ち、痺れを切らしたある入国者が「一体いつになったら、出発するの」と怒りの声を上げる場面もあった。

どこのホテルになるのかが事前に知らされないまま、バスが走り出した。小1時間後、バスは都内のホテル前で停止した。

―ベジタリアンメニューを頼むと出されたのは…

コロナ対策のため、入国者たちは一人ずつ間隔をあけてホテルの中に入り、受付で検査の結果を含む関連書類を提示するよう求められた。自分の識別番号、体温計、カードキーを渡され、一人ずつエレベーターに乗って、部屋に入った。

室内はシングル用ベッドルーム。部屋のスペースの大部分をベッドが占める。浴室、デスク、お茶のセットなどが常備。タオル類は使い捨てのものだった。ベッドの横には窓があり15度ほどしか開けることはできなかったが、まずはほっとした。

部屋に到着時点で、羽田に到着時から約4時間半。あっという間だった。

空港での書類審査の時点で、食事のタイプを選べるようになっており、自分は「ビーガン(実質的にはベジタリアン)」を選択していたが、夕食は肉が入った通常のメニューのお弁当だった。部屋からホテル内のコールセンターに電話すると、「ベジタリアン食のお弁当提供は2日後からになります」と言われ、代わりに運ばれてきたのはベジタリアンのカップラーメン2個。

飲み物は冷たい日本茶とミネラルウオーターが提供された。アルコール類の持ち込みは禁止で、禁煙である。

一方、食事の時間が1日のリズムとなり、ベジタリアンの弁当は、野菜と豆類を中心としたタンパク質のバランスが取れており、美味だった。

さらに、新鮮な野菜やフルーツなどをAmazonで注文することができ、その日中に届けてくれた。都内に住む家族が差し入れを受付に持ってきてくれたことも、助かった。

1日はこんなふうにして、過ぎた

入国者は滞在国・地域によって隔離日数が3~10日と異なる。筆者が住むイギリスはオミクロン感染者が発生している国に該当するため、6日間の隔離だった。

「6日間」の数え方だが、入国した日はゼロ日になり、翌日が1日目。筆者は12月16日に到着したため、17日が1日目で、6日目は22日。退所日まで、同じ一つの部屋に宿泊し、外出は不可だ。

部屋に固定電話はあるが、コールセンターへの問い合わせのみで、外部とは話すことができない。もし家族や友人と話したい場合、テレビ電話(スカイプ、iPhoneのフェイスタイムなど)のみになる。

食事は朝食が8時半ごろ、昼が12時ごろ、夜が午後6時ごろ。ドアの取手に弁当が入ったビニール袋がぶら下げられる。すべての配食が終わると、弁当の袋が置かれていること、マスクをつけて袋を取るよう、アナウンスがある。

入国3日目の検査対象者へのリマインダーのアナウンスも、時折ある。

また、朝8時ごろ、ホテル側が用意したQRコードを使って、体温計で測ったその日の体温をスマホで報告する。この時、咳や熱がないかなど、健康状態の情報も伝える。

厚労省が用意したアプリ「MYSOS」への対応もあり、結構忙しい。こちらの方は健康状態の報告とともに、動画通話で対応するよう要請が来る。要請が来たら、これを受けて、カメラに向かって、30秒間こちらの様子を伝える。1日に2度の要請だが、いつかかってくるかがわからないので、不意打ちとなる。

ホテル隔離で最も辛かったこととは

自分の健康状態や位置情報の報告、家族や友人への連絡など、忙しく日が過ぎたものの、大きな不安を伴う旅への準備、長時間のフライトのため、体には相当疲労が溜まっていた。隔離はちょうど疲労の回復の時となった。

窓を少しの角度でも開けることができたので、外の空気を吸うことができ、気分転換に役立った。

室内ではドアとベッドの間の小さなスペースでストレッチングをしたり、小走りをしたりしたが、これは運動のためというよりも、ストレス解消に役立ったように思う。

家族や友人たちの「がんばって」という激励の言葉の数々に、何度も精神的に救われた。また、多少窮屈ではあっても、すべてが公費負担で運営されていることを片時も忘れたことはなかった。

しかし、心理的に大きな負担となったのが、普段は異国にいるために会うことができない家族に、同じ国にいるのに会えないことのつらさだ。ホテルの受付に差し入れをしてもらっても、面会は許されない。生身の人間と顔を合わせられない日々が続くのはこたえた。

同じ飛行機に乗った人が検査で陽性に

「いつどうなるか、わからない」という不安感も常につきまとった。

厚生労働省からの連絡で、隔離中に2度、同じ飛行機に乗った人の中にコロナ陽性の人がいた、という連絡を受けた。到着2日目と3日目、「あなたが搭乗していた航空機において、新型コロナウイルス感染症に関する検査で陽性と判定された方が確認されました」。

もしこれがオミクロン株の感染者だった場合、イギリスからの入国者で同じ便に乗っていた人は全員が「濃厚接触者」とみなされ、入国から14日間、指定の宿泊施設での待機になってしまう(当時。12月28日から、濃厚接触者の定義は感染者の同じ列と前後2列の乗客のみになった)。

筆者の場合、陽性者がオミクロン株の感染だったという追加報告はなかったものの、退所日まで、「もしかしたら」という不安は消えなかった。

退所日、シャトルバスが羽田に到着したのは午後6時過ぎだった。入国者は自宅など次の待機施設に行くまで、公共交通機関以外の道を事前に手配する必要がある。

政府は利用可能なハイヤー調達会社のリストを作成している。

筆者は、リストには乗っていなかったが、個人ブログで良いレビューが書かれていたある会社にネット予約。金額は他の会社が都内近辺で約2万5000円のところ、ほぼその半額だった。

自宅ではひとつの部屋をあてがわれ、そこで寝起きしている。原稿執筆時点で、自宅待機が6日目に入った。14日間の待機が終了したのは12月30日だった。

―隔離を経験して感じる2つの改善点

最後に、システムの改善のために2つ提案しておきたい。

まず、コロナウイルスワクチンを2回以上接種し、陰性証明書を持ち、入国当日、および滞在3日目に検査を行なって陰性とされた入国者を、その後数日間のホテル隔離を含む全14日間にも及ぶ、外部との接触制限付きの待機措置にする必要はあるのだろうか。

政府には、医療関係者と相談の上、公費削減のためにもぜひ効率性の向上を一考していただきたい。

また、ホテル隔離および自宅などの待機による心身への影響についても一考いただき、策を講じてほしい。例えばホテル隔離中、家族とは一切会えないのは厳し過ぎるのではないか。受付でガラス越しにでも会えるようにできないだろうか。また、職員の方の監視のもとで良いので、1日に1時間ほど外に出て太陽の光を浴び、歩くようにできないか。

「コロナと共に生きる」ために、よりよい入国者対策を望みたい。