19世紀に「ライフリング」が実用化されると、銃も砲もこぞってこれを採用し、その命中率は飛躍的に高まりました。しかし戦車砲については21世紀現在、このライフリングが刻まれていない滑腔砲が主流です。先祖返りの経緯を追います。

頑なにライフル砲を使い続けたイギリスが変心

 2021年5月、戦車の歴史に大きな転換点が訪れました。イギリス陸軍はこれまで使用していた「チャレンジャー2」主力戦車のアップデートを発表、新型となる「チャレンジャー3」は、その主砲がついに伝統的な120mmライフル砲から120mm滑腔砲へ換装され、新型砲弾もあわせて採用するというのです。


2040年まで運用するという「チャレンジャー3」主力戦車(画像:イギリス陸軍)。

「ライフル砲」とは、砲身内部に溝(ライフリング)が施された砲全般を指し、その溝が入っていない「滑腔砲」と対をなすものです。2022年現在、NATOなど西側諸国の主力戦車はほとんどがこの滑腔砲を搭載した車両であり、砲弾の進化に対応した結果、そのような状況になっています。

 そもそも、砲や銃など火器の歴史を振り返ると、滑腔砲の方が先に登場しました。「ライフル」というアイデアは15世紀末頃からあり、命中精度と射程に優れることが知られていたものの、当時の火器は銃口/砲口から弾を込める先込め式だったため、溝が刻まれていると弾を奥に押し込めにくく装填に手間取り、戦場では一部で使用されるにすぎませんでした。

 本格的にライフリングが砲に採用されるようになるのは、19世紀中頃に砲尾を開閉できる後装式大砲が登場してからで、20世紀に入るとほとんどの砲がライフル砲になります。戦車は後装式の砲が発展した後に生まれたので、最初期からライフル砲が搭載されていました。

なぜ戦車砲は滑腔砲へと先祖返りしたのか

 しかし第2次世界大戦後、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と呼ばれる砲弾が登場すると、砲も大きな変更を迫られます。

 大戦中、戦車の防御手段は各段に向上し、その装甲を貫徹する砲弾も大型化する傾向にあり、よって砲も大型化し、そして大型砲塔の搭載が大変になっていました。APFSDSはそれまでの徹甲弾と違い、発射後に装弾筒から、タングステンなど硬い素材で作られた侵徹体という矢のような弾体が分離するタイプの砲弾です。


APFSDSは発射後、弾体と装弾筒が分離する(画像:アメリカ陸軍)。

 この砲弾は細長い形状の関係で正面面積が小さいために着弾時の速度を大きくでき、さらにその形状は装甲を貫徹する力が、同じ重さの通常の徹甲弾より高くなっています。

 1961(昭和36)年、ソビエト連邦軍が世界に先駆けてこのタイプの砲弾を本格使用する砲の運用を開始し、T-62は初めて滑腔砲「55口径115mm U-5TS」でAPFSDSを発射する戦車となりました。

「120mm L44」が大ヒット! 西側の戦車はほとんどコレに

 当時、アメリカなどNATOに属する西側陣営の標準的な戦車砲は、イギリス製の105mm戦車砲「ロイヤル・オードナンス L7」というライフル砲でした。


ライフリングが刻まれた「ロイヤル・オードナンス L7」105mm戦車砲のカットモデル(画像:baku13、CC BY-SA 3.0〈https://bit.ly/3vZxR10〉、via Wikimedia Commons)。

 APFSDS自体はライフル砲でも使えますが、ライフリングがある砲から発射すると回転の影響で威力が減衰してしまうという弱点があり、西側陣営では1960年代にこれを克服する新たな戦車と戦車砲の開発を、アメリカと西ドイツが共同で着手することになります。

 この開発計画は両国の設計方針の不一致などで頓挫しますが、この際、西ドイツが搭載を主張した120mm滑腔砲の案を元にして、後に西側の標準滑腔砲となったラインメタル製の「120mm L44」が開発されます。これはAPFSDSのほかに、歩兵用の対戦車ロケット砲弾にも見られる成形炸薬弾(多目的対戦車榴弾)なども使用できます。

 120mm L44砲を装備する戦車として1979(昭和54)年に配備を開始した西ドイツの「レオパルト2」は、戦車が動いている状態での射撃「行進間射撃」でも120mmという大口径でありながら高い命中精度を誇りました。また、アメリカ軍のM1「エイブラムス」戦車は、当初105mm戦車砲で制式化されたものの、これに代わって120mm L44砲をライセンス生産した「M256」が搭載されるようになります。

 このように、最終的には西側のほとんどの国の戦車が120mm L44砲を搭載しました。日本の陸上自衛隊が使用している90式戦車の砲も同様のもので、10式戦車に採用されている10式戦車砲に関しては国産ですが、やはり120mm L44を参考にしたものです。

 滑腔砲の弱点として、装弾筒と砲身に隙間があると弾道が安定しないというものがありましたが、それも技術発展により、砲身の隙間がほぼない状態で発射できるようになりました。こうしたことから、新たに画期的な技術が登場するまで、「戦車砲は滑腔砲」という時代は続くと思われます。