'19年9月に東京駅に到着する「お召し列車」を撮影しようと群がる鉄道ファン

写真拡大

「どけぇぇ〜!」「ボケ!」

【写真】断崖絶壁で危険! 死亡事故のあった「撮り鉄」の撮影場所

 日本屈指の人気列車『江ノ電』に向けて罵声が響く。

ルールを守らない“撮り鉄”とトラブル

「'21年8月に試運転の江ノ電を撮影しようと鉄道ファンが集まりました。撮影スポットを電車が通過する際、自転車に乗った外国人男性が通りかかり、電車にカメラを向けていた鉄道ファンたちにポーズを決めた。

 それにファンたちが激怒。聞くに堪えない罵声を浴びせるというトラブルになりました」(社会部記者)

 男性の自転車を蹴り、また「金だろ!」と金銭を要求するような言葉、さらに「死ね!」という声すら……。

「今年に入ってからも、1月に鉄道ファンら10数人が駅のホームに集まり、そこで脚立使用や肩車をして撮影。ルールやマナーを守らない一部の鉄道ファンに批判の声が相次ぎました」(同・社会部記者)

 鉄道ファン─鉄オタ(鉄道オタクの略)に関するトラブルは多い。

「鉄オタには乗ることを楽しむ“乗り鉄”など、さまざまな分類がありますが、トラブルのほとんどは撮影を楽しむ“撮り鉄”が起こしていますね。

 強調したいのですが、あくまでも一部であり、ある意味彼らをいちばん迷惑に思っているのは、マナーを守る撮り鉄でもあります。脚立を点字ブロックの上に置くような行為は言語道断ですが」

 そう話すのは都内在住の撮り鉄の男性。休日はほぼすべてを“鉄”に費やす。

撮り鉄が多く集まるのは、ひと言でいうと“レア”な電車の運行時。臨時列車や試運転などですね。廃路線や引退する車両など“終了”を好む人を『葬式鉄』と呼んだりします。

 撮り鉄が“廃回”と呼ぶ、廃車を駅などに運ぶ“廃車回送”なども人気ですね。ただいちばん人が集まるのは『お召し列車』だと思います。天皇、皇后、上皇、上皇后、太皇太后、皇太后が乗車される列車です」(撮り鉄男性、以下同)

 記事上の写真が'19年9月に東京駅に到着するお召し列車だ。ホームは通勤ラッシュ時のように身動きが取りづらいほど混雑している。

 試運転などは一般にアナウンスされないが、どうやって情報をキャッチするのか。

撮り鉄の情報ルート、近隣迷惑もしばしば

「情報収集は人によってさまざまだと思いますが、いちばん“強い”ルートとして、鉄道会社職員から漏れるケースがあります。鉄道会社の職員も鉄オタだったりするので漏らしてくれるのです」

 撮り鉄のトラブルがニュースになることは多いが、現場で実際に見て、どのようなものがあるのか。

「多いのは、列車の通過直前での線路横断や線路脇などの敷地内への乱入だと思います。昨年3月にJRの中央線で、鉄橋を走る電車を撮るために鉄橋の端に侵入した撮り鉄がいました。

 電車は緊急停車。その後、彼らは逃げています。こういった行為は鉄道営業法違反や軽犯罪法違反となる可能性があります」

 撮り鉄は1つの地点だけを撮影するのではなく、追っかける者も……。

「車で電車を追っかけます。今年1月3日に長野県を走る篠ノ井線に撮り鉄が集まりました。正月恒例の4両の機関車が連結された“四重連”の『単8560レ』という列車を撮るためです。

 当日は“追っかけ”の人たちで近隣が大渋滞になりました。地方の細い道を、速度違反のスピードで追っかけることも多いので、事故もよく聞きますね」

 人気列車に撮り鉄が集まると集まった者でひな壇のような形で列を組む。ひな壇は“激パ”(激パニックの略で混み合うこと)になると自然と形成されるが、そこでは指示する者も。

「声を出してその場を仕切る人がいて『自治鉄』と呼ばれます。仕切られることを嫌う人は少なくないですが、私を含めだいたいの人はトラブルに巻き込まれたくないので従う。ですが無視する人もいます」

 “自治”する側なのに、ほかのファンや地元住民に迷惑をかけることも……。別の撮り鉄男性にも話を聞いた。

血の気の多い撮り鉄死亡事故

「自治鉄がその場にいると内輪ネタで盛り上がってたりしてウザいんですよね。自治鉄とモメた話も聞きます。昨年の江ノ電の様子を見れば血の気の多い人がいることがわかるでしょう(苦笑)」(別の撮り鉄男性、以下同)

 撮り鉄同士のトラブルだけならまだいいのだが……。

「静岡県のとある陸橋は撮り鉄に人気なのですが、陸橋下の急斜面の撮影ポジション周辺が、いつの間にかモルタルで階段状に舗装されていました。自治鉄が勝手に造成したようです。

 舗装された場所にはツイッターアカウント名と“勝手に使うな”という趣旨の文言が……。土地自体は静岡市の所有地で、私有地ではないはずです。今はもうなくなっているはずですが」

 江ノ電と同様に、地元住民に迷惑をかけることが少なくないようだ。

「'13年に『しなの鉄道』の“浅間山を背景に列車が走る姿を撮れる”撮影地で、桜の木が伐採された事件が起きました。撮り鉄は“犯人を撮り鉄と決めつけるな”と反発。

 言い分はわかりますが、正直、撮り鉄くらいしか切って得する人がいない。列車が隠れるから“邪魔”と思った撮り鉄が切ったと思います」

 電車を撮影することは基本的に無料だ。ただ最近ではトラブルを避けるため“自腹”を切る者も。

「昨年、JRは『撮り鉄コミュニティ』を開始。限定撮影会など“お金を払って撮る”形ですね。JRが管理する撮影会なので、治安はいいですね。また有志でお金を出し合って貸し切りの臨時列車を走らせて撮ることもあります。数十万円くらいで走らせることのできる列車があるので」

 熱意がありすぎることで痛ましい事故も。

「'10年に群馬県で男性が崖から落ち死亡するという事故が起こりました。当時、数日にわたって蒸気機関車が牽引する形の臨時列車を運行しており、それを撮影に行った撮り鉄でしょう。

 現在も撮影スポットですが、地面は木の根が隆起して歩きづらく、断崖絶壁のようなところです」

 愛することは素晴らしいこと。しかしその気持ちが暴走列車になってはいけない。