携帯電話のサービス品質を考慮しない総務省の「内外価格差調査」に意味はあるのか(佐野正弘)
2020年末から2021年頭にかけて大きな話題となった携帯電話料金の引き下げ。その発端となったのは、菅義偉内閣総理大臣が就任前から「日本の携帯電話料金は高い」と主張してきたことなのですが、その根拠とされているのが総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」です。
これは日本の東京と、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルの6都市の携帯電話や固定ブロードバンドなどの料金を比較したもの。この調査で、とりわけ20GBの大容量プランが6都市のうち最も高い水準にあることを菅氏は問題視していたようで、それが一連の携帯電話料金引き下げに関する動きへとつながっているわけです。
そして料金を引き下げた各社のプランが一通り出そろった2021年5月25日、総務省は電気通信サービスに係る内外価格差調査の最新版となる、令和2年度調査結果を公表しています。そして今回の調査でMNO(携帯電話事業者)の最安値を、前年度(令和元年度)の調査と比べてみますと、東京の20GBプランの料金は6877円から2973円と大幅に下がっており、6都市で最も高い金額だったのが、3番目に安い水準にまで下がっていることが分かります。


シェア1位の事業者同士による料金比較を見ても、東京の20GBプランは8175円から2973円と大幅に下落。こちらは6都市中最高値から、2番目に安い水準にまで下がっているようです。
ちなみに今回から追加された無制限プランの比較を見ますと、最安値プランでの比較では3280円と、4G・5G共に6都市中2番目に安く、シェア1位同士での比較でも4Gで6都市中3番目、5Gで4番目となっています。他の項目を確認しても、MNOによる比較では東京の料金が最も高い項目はなくなっているようで、1年のうちに料金が大幅に下がったことは確かなようです。


この結果に菅総理はさぞご満悦なこと思いますが、改めてその内容を見ますと疑問しか沸いてこない、というのが筆者の正直な感想です。疑問点の1つは、シェア1位の事業者同士の比較でNTTドコモの「ahamo」が対象とされていることです。
ahamoはご存知の通り、店舗でのサポートをカットするなどして料金を大幅に引き下げた料金プランで、従来の「ギガホ」「ギガライト」とは明らかに異なる仕組み。当初から「実質的にサブブランドではないのか?」と言う声が少なからず挙がっていたのですが、NTTドコモはサブブランドではなくメインブランドとしての提供を押し通しています。
つまりahamoはサービスの質を大幅に下げて料金を安くしたプランなのですが、この調査の評価軸にサービスの質は全く考慮されていません。それゆえメインブランドだからという理由だけで、ahamoを従来プランと同列に扱って比較しようという姿勢にはかなりの違和感を覚えてしまいます。
またこの調査は令和2年度、つまり2021年3月末までに提供されたプランが対象となっているのですが、ahamoは発表当初より2021年3月の提供を予定しており、2021年3月26日にサービスを開始しています。直前までサービスの詳細が発表されず混乱が起きていたことを考えると、かなり急ごしらえで作られたプランだった印象を受けたのも事実です。
これら一連の内容を考慮すると、ahamoは内外価格差調査で菅政権が満足する結果を得る数字を作るために提供されたプランなのではないか?という見方をする人も少なくないのではないかと思います。

そしてもう1つ、今回の調査では、最も安い料金に楽天モバイルの料金プランが含まれていることにも疑問があります。もちろん楽天モバイルはMNOですので調査対象に含まれること自体はおかしなことではないのですが、問題はやはり料金のみの比較で、エリアなどネットワーク品質面が全く考慮されていないことです。
楽天モバイルは調査対象となる2021年3月末時点で、4Gの全国人口カバー率が80%を達成したとしています。ですが現状、楽天モバイルは他の3社に匹敵するエリアをカバーできているわけではなく、地方を中心にKDDIとのローミングで賄っているエリアが多くを占めていますし、ローミングを終了した場所でも郊外や建物内などでは「つながらなくなった」などの声が少なからずある状況。他社との公平な競争環境を求めてプラチナバンドの割り当てを求めていることが、楽天モバイルがエリア面で不利な状況にあることを示しているといえます。

本来はそうしたエリアや通信品質も考慮した上で評価しなければ、同列での評価はできないはずです。にもかかわらずこの調査はあくまで料金しか考慮していないので、エリア品質の面で劣る楽天モバイルの料金が入ることで、20GBのプランを中心に東京の料金が大幅に下がったように見えてしまうのには疑問があります。
しかも今回の調査資料には、前年度の調査にはなかった翌年度(令和3年度)の4月1日時点の最安値情報もあえて参考として記載されています。それゆえ同日にサービスを開始した楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の料金も記載されており、一層東京の料金が安くなったように見せているのも気になるところです。
無論、この調査はあくまで「内外価格差」というものであり、サービス品質を示すものではないことからそこまでの要素を求めることには無理があるのかもしれません。ですがこれまでの経緯を振り返りますと、菅政権がこの調査で、東京の料金が高いこと“だけ”を基準に国内携帯電話会社のサービスの良し悪しを判断し、多角的な評価をすることなく、自由競争が認められている民間企業に強硬な姿勢で値下げを迫ってきたことは問題だといえます。
ここまで触れてきた通り、携帯電話のサービスは料金だけで決まるものではありません。エリアや通信品質、サポートやサービスなど多様な角度からの評価によって良し悪しが決まるものであるはずです。
にもかかわらず、政府が料金だけで携帯電話会社の取り組みを評価してしまうとなれば、サービス内容が悪くても料金が安いサービスを国が推奨していると捉えられてもおかしくはないでしょう。またそのような評価が今後も続くようであれば、携帯各社は5Gのインフラ整備や6Gの技術開発に向けた投資に消極的となっていき、日本の携帯電話産業の衰退が避けられないと筆者は危惧しています。
ちなみにこの調査には、地域や利用形態によって料金が異なることから「本調査結果は指標の1つとして捉えることが適当です」との記述がなされています。あくまで指標の1つに過ぎないこの調査を、菅政権が重視し過ぎてしまっていることが問題ともいえるだけに、総務省には内外化価格差調査とは異なる、より多角的な視点で日本の携帯電話サービスの質を評価する調査をぜひ実施して欲しいと思います。

