新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は発熱・喉の痛み・せきなどが主な症状だとされていますが、脳にも深刻な影響を与えるという事例がたびたび報告されています。COVID-19が脳に与える影響について、ワシントン大学の研究チームが新たな研究結果を発表しました。

The S1 protein of SARS-CoV-2 crosses the blood-brain barrier in mice | Nature Neuroscience

https://www.nature.com/articles/s41593-020-00771-8

COVID-19 virus enters the brain, research strongly suggests: A new study shows how spike protein crosses the blood-brain barrier -- ScienceDaily

https://www.sciencedaily.com/releases/2020/12/201217154046.htm

UW Medicine doctor explains study suggesting COVID enters the brain

https://mynorthwest.com/2375747/uw-medicine-study-covid-brain/

新型コロナウイルスは、発熱・乾いたせき・倦怠感・嗅覚・味覚の消失・鼻づまり・結膜炎・喉の痛み・頭痛・筋肉痛や関節痛・吐き気・嘔吐・下痢・悪寒やめまいなどのさまざまな症状を引き起こしますが、時には認知症のような症状や脳神経に損傷を与える事例まで報告されています。

新型コロナウイルス感染症は軽症でも脳に深刻な障害をもたらすという研究結果 - GIGAZINE



こうした症例から、新型コロナウイルスは脳に直接感染するか、免疫系に与える影響から神経障害を引き起こすという可能性が指摘されており、新型コロナウイルスが脳に与える影響について調査が行われていました。そして2020年12月16日、ワシントン大学医学部の研究チームがマウスを使った実験によって、新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に使う「S1タンパク質」が脳に存在することを確認しました。

S1タンパク質は新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に用いるスパイクタンパク質の一部で、スパイクタンパク質から切り離されて機能する部位です。S1タンパク質自体はウイルスではありませんが、損傷を引き起こしたりサイトカインを放出して炎症を生じさせたりすることもあります。



研究チームが放射性ヨウ素を加えたS1タンパク質をマウスの静脈に投与したところ、S1タンパク質が肺、脾臓、腎臓、肝臓だけでなく、血液脳関門を通過して脳に入ると判明。さらに鼻腔内にS1タンパク質を投与した場合は、静脈に投与した場合の10分の1の量でも脳に達することも確認されました。

今回確認されたのは新型コロナウイルスのS1タンパク質が脳に侵入するという事実であって、新型コロナウイルス自体が脳に侵入するかどうかは不明ですが、「新型コロナウイルスが脳に侵入するという可能性はかなり高まった」と報じられており、論文の筆頭著者のウィリアム・A・バンクス氏は「COVID-19の代表的な症状は呼吸器系に関するものですが、ウイルスが脳の呼吸中枢に入り込むことも原因の1つである可能性があります」とコメントしています。

また、今回の実験では、マウスの体内におけるS1タンパク質の拡散速度はメスよりもオスの嗅球や腎臓で速かったことが確認されたとのこと。この結果は、男性のほうがCOVID-19が重病化しやすいという事実と関係している可能性が指摘されています。