ヒュンダイで水素自動車を視察する文大統領

写真拡大 (全5枚)

世界的スターのBTSがグローバルキャンペーンに起用されたが

 2009年に日本からの撤退を余儀なくされたヒュンダイ。今度は水素自動車「ネッソ」を携え、日本再上陸を計画中だ。世界的スターのBTSがグローバルアンバサダーとして活動中で、「グローバルの水素キャンペーンにBTSを起用することで、環境問題の意識を高め、持続可能な未来のために水素を活用したい」と同社は意気込んでいる。文在寅政権は「水素経済」を国家プロジェクトに掲げるが、その一方で「日本不買」キャンペーンを続ける中、再上陸に勝算はあるのか。

 ***

 トヨタが初代プリウスを発表したのは1997年。2003年に2代目が登場した。

 完成形に近づくプリウスの技術に対抗しようにも、他メーカーの開発の出遅れ感は否めない。

ヒュンダイで水素自動車を視察する文大統領

 ヒュンダイもまた、プリウスの成功を受けて新しいハイブリット車の開発に着手するものの、構想した主なハイブリッド車技術の特許の多くはトヨタと関連会社が所有していた。

 新技術を開発するには時間がかかりすぎる。

 危機感を募らせたヒュンダイは、トヨタと関連会社所有の特許期限が切れる技術に的を絞って開発を続けた。それで発売したのが2016年のアイオニック(IONIQ)だ。

 ところで韓国では「日本不買」キャンペーンの声は喧しいが、ダントツの人気を誇るハイブリッドカーはプリウスだ。

 トヨタの水素自動車ミライは2014年12月に発売。ヒュンダイ初のハイブリットカーより2年も早いことになる。

水素自動車「ネッソ」に乗ってグラミーアワードに到着したBTS

 そして、2015年には日産、ホンダと共同で、水素ステーションの整備促進に乗り出すことになった。

文大統領がヒュンダイを視察訪問して水素自動車に試乗

 ミライの発売当初のメーカー希望小売価格は消費税込で723万6000円だった。

 しかし、ドイツのある自動車メーカー関係者は「ゼロ1個間違っている。7000万円だろ」とこぼしたとされる。

 実際、売れるほどに赤字が増えるクルマであることは衆目の一致するところだ。

 ヒュンダイは水素自動車の開発に関して、こんな発表をしていた。

「1998年の水素電気燃料の開発を皮切りに、2003年には独自開発スタックを搭載した水素電気車開発のためのプロジェクトに着手。わずか3年後の2006年に世界最高水準の水素電気車の独自開発に成功し、主要部品の国産化を成し遂げ1次目標を達成しました」

日本再上陸で投入が噂されるネッソ

 しかし、その後に2次、3次目標……と続かなかったのは言うまでもない。

 初の商用水素自動車の「ネッソ」発売は18年3月まで待たねばならなかった。

 販売量は18年の730台から19年は4190台へ。

 2019年8月29日には、文大統領がヒュンダイを視察訪問して水素自動車に試乗。それ以前から注力してきた「水素経済活性化」が国家プロジェクトであることを強く印象付けた。

 今年の販売台数は5000を越えるというのが業界の予想で、ヒュンダイ自身、「ネッソは20数年間開発を続けてきた水素燃料電池技術が集約された車だ」と胸を張っている。

待ち構えるトヨタ・ミライ

日本の技術は世界のメーカーをいつも驚かせている

 ポルシェはロータリーエンジンの開発に取り組んだが断念をしている。採算の確保が難しいからである。

 シトロエンも1967年にはドイツの「NSU」と業務提携を開始し、ロータリーエンジンの開発に着手。

 シトロエン・アミ8をベースに、コーチビルダー「ユーリエ」で専用のクーペボディを載せた「M35」を1969年に発表する。

 497.5ccの水冷シングルローターエンジンを載せたシトロエンM35。

 一般販売ではなく、シトロエンをこよなく愛するユーザーへのモニター販売の形を採った。

「水素」というキーワードは国家プロジェクトに

 モニター終了後は返却して別のシトロエン車を好条件で購入するか、M35を乗り続けるかを選択することができた。

 多くのモニターは返却を選択。「M35」は267台の生産に留まった。

 文字通り幻の「M35」は現在、世界に数台存在し、その1台は京都のシトロエン専門ショップが管理しているという。

 また1995年に販売されたホンダのインテグラ・タイプRは1800ccのエンジンで200馬力。

 市販車で1000ccあたり100馬力以上を出すには、レーシングエンジンでない限り無理と言われた時代である。

 アルファ・ロメオ開発陣がインテグラ・タイプRをテストした時「これが市販車なのか? 採算が取れるのか?」とのけぞったのは語り草だ。

 先ほど述べたトヨタ・ミライの価格への驚きも含め、日本の自動車メーカーは世界を驚かせてきたのである。

ヒュンダイ再上陸の真の目的は?

 さて、ヒュンダイが再上陸するのにあえてチョイスした車両は水素自動車だ。

 現在トヨタのミライのみが水素自動車として国内販売されている。

 そんな狭小なマーケットにどうして? 日本不買を謳う国がどうして日本で? などと様々な疑問が湧く。

 そもそも、国によって自動車のイメージは異なる。

「イタリアの車は優美である」とか「ドイツの車は実直である」と言われるが、日本車が評価されたのは「壊れない」だろう。車は直しながら乗るという市場の定説を覆したのだ。

 では世界5位に位置するヒュンダイグループの車はどうか。

 消費者の率直な意見の多くは、「性能の割に安い」「値引きが凄い(韓国国内を除く)」ということになるだろう。

 水素自動車に限っては1車種、トヨタ・ミライだけであり、そのミライをターゲットに日本でヒュンダイが勝負できるのは文字通り、「性能の割に安い」「値引きが凄い(韓国国内を除く)」点になるはずだ。

 それでもよほどの変わり者でなければ、水素自動車はトヨタ一択以外にない。

 さらに悪いことに、ヒュンダイの水素自動車はSUVしかない(バスも一応あるが)。

 あるヒュンダイの関係者に聞くと、日本再上陸の真の目的は「日本で売る」ことではなく「日本でも売っている」ことだという。

 世界で認められたヒュンダイが唯一「売れなかった国」、それが日本だ。

「日本でも売っているならヒュンダイのメンツもかろうじて保たれるのではないだろうか」とも話している。

 そのメンツもいつまで保てるだろうか。

 いくら世界的スターのBTSにあやかっても、日本不買という超アゲンストの風を吹かせている側の韓国が日本の土俵でビジネスをうまく運べるとは思えない。

 そもそもヒュンダイは、現在の日韓問題の深刻さをもっとキチンとリサーチするべきではないのか。

高秀樹
韓国在住ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月14日 掲載