海上自衛隊のP-1哨戒機は哨戒(パトロール)が主任務ながらも、多くの武装を搭載でき万一の場合には戦闘も辞さない飛行機です。その特徴は旧海軍が運用した、九六式陸上攻撃機や一式陸上攻撃機などに通ずるものがあります。

現代技術で「陸攻」を作ったらP-1哨戒機に…?

 毎年1度、防衛省によって発行される「防衛白書」によると、2020年現在、海上自衛隊は新型で配備が進む国産のP-1を19機、退役が進んでいるP-3Cを55機の、合計74機の「哨戒機」を保有しているとされます。哨戒機は艦艇の10倍にも及ぶスピードを有し、広大な洋上を監視する上で欠かせない航空機です。


P-1の大きな爆弾倉には短魚雷や空対艦ミサイルを格納可能(画像:Ronnie Macdonald from Chelmsford and Largs, United Kingdom[CC BY〈https://bit.ly/2UWPDBi〉])。

 哨戒機の名称の頭文字「P」は「Patrol(パトロール)」から取られていますが、れっきとした“戦う飛行機”でもあります。特に対水上戦(潜水艦ではない艦艇との戦闘)におけるその役割は、旧日本海軍が保有した九六式陸上攻撃機、一式陸上攻撃機の両「陸攻」と非常によく似ています。

 九六式、一式は極めて優秀な航続距離を有し、兵装を搭載しない状態であれば最大で6000kmを飛行可能でした。この航続距離を活かして洋上を長時間、遠方まで敵艦を索敵し、発見した場合は兵装を搭載した機体が長駆進出し対艦攻撃を加えます。最も有名な成功例は1941(昭和16)年12月10日のマレー沖海戦であり、両陸攻はイギリス戦艦2隻を撃沈しました。

 P-1は機体外部のハードポイント(兵装類を吊り下げ搭載する部分)8か所と、さらに胴体部の爆弾倉(ボムベイ)に、レーダー誘導型空対艦ミサイルAGM-84「ハープーン」または国産の91式空対艦誘導弾(ASM-1C)を搭載できます。2020年に入り陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を原型とした新型対艦ミサイルの搭載試験と思われるP-1の姿が目撃されており、近い将来実用化されることになるでしょう。

 現代の水上艦およびこれが搭載する艦対空ミサイルは非常に優れているため、航空機が接近するとまず撃ち落とされてしまい、また単に水上艦へ対しミサイルを発射しても迎撃されてしまいます。

 したがって水上艦を攻撃するには、たくさん対艦ミサイルを搭載する能力が大きな利点となります。つまり目標の艦はもちろん、周囲の護衛艦や戦闘機などと共同で迎撃できないほどの大量の空対艦ミサイルを、同時かつ長距離から撃ち込むのです。

P-1の武装が充実しているワケ

 航空自衛隊のF-2戦闘機は、P-1とほぼ同等の空対艦ミサイルを4発、携行できます。戦闘機には戦闘機の利点もあるので単純に比較はできないにせよ、P-1はF-2の、2機分以上の攻撃力を有しているといえます。

 そのため、敵国からしてみれば「大量の空対艦ミサイルを持っているかもしれないP-1がどこかで滞空している(飛んでいる)かもしれない」という脅威を受け続けることになり、平時においては抑止力となりえます。

 P-1が搭載できるもうひとつの空対艦ミサイルに、AGM-65「マーベリック」があります。こちらは画像認識誘導型で射程と威力は比較的低く、本格的な水上艦以外の目標への攻撃に適しています。

 AGM-65は、実戦での戦果において右に出るものがない傑作ミサイルです。これまで他国軍において様々なタイプが合計5000発以上発射され、おもに対戦車ミサイルとして使われました。ターゲットが船舶でも戦車でも射撃前に映像で捕捉し射撃する手順は変わらないので、ある意味ではP-1は地上攻撃能力もあるといえます。

P-1と陸攻 時代は変われど同じような装備になるのは…?

 九六式、一式陸攻は爆弾や魚雷も搭載可能でした。これらはおもに水上艦艇への対処に使用されましたが、P-1も対潜(対潜水艦)用途ではありますがどちらも装備可能です。

 1999(平成11)年の能登半島沖不審船事件では「海上警備行動」が発令され、警告のためP-3Cから「150kg対潜爆弾」が投下されています。対潜爆弾は無誘導なので、やはり主力は誘導装置を持った「短魚雷」です。

 P-1が搭載する「短魚雷」にも種類があり、アメリカ製のMk46、太平洋など深海における能力を改善した97式魚雷、東シナ海など比較的浅い海での能力を改善した12式魚雷があります。

 これらの短魚雷は、敵潜水艦の発する音を探知するパッシブソナー、または音波を発信し物体に跳ね返ってきた信号を探知するアクティブソナーを持ち、たとえば潜水艦上空から発射され着水すると、円を描くように潜っていき敵潜水艦を探します。


中央の黄色いものが、P-1のマスターアームスイッチ(安全装置)。兵装搭載状態であることを表している(2018年12月6日、関 賢太郎撮影)。

 80年前と現在では社会情勢こそ大きく変わりましたが、日本という国が四方を海に囲まれ海運に依存する地勢的状況は変化していません。九六式、一式陸攻を現代のテクノロジーによって再設計したようなP-1哨戒機ですが、こうした種類の飛行機がいまも重要であり続けることは、必然であるといえるのかもしれません。