認知症を防ぎたいなら「毎日1.5Lの水」を飲んでください
※本稿は、山下哲司『なぜ水を飲むだけで「認知症」が改善するのか 1日1.5リットルの水分補給が命を救う』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■体や脳の老化は「水分不足」に起因する
人間の体の約60%は水分です。言い換えれば、体重の60%は水分だということ。骨も筋肉も、脳も内臓も、細胞も血液も、そして生命も、すべてはそれだけの「水」があってこそ維持されているのです。
ただ、体を構成する水分の割合は年齢によって変わってきます。生まれたばかりの赤ちゃんで約80%、子どもで約70%、成人で約60%、高齢者では約50%と、年齢を重ねるにつれて徐々に割合が低くなっていくといわれています。
歳を重ねるにしたがって体に溜め込める水の量が減っていく。体をつくるベース、命を支えるベースである水が不足していきます。これが「老化」なのです。加齢による肉体の衰え、脳の衰えの元凶を突き詰めれば、すべてが「水分不足」に行き着くとも言えます。
■ペットボトル1本分の水分不足で意識障害のリスク
私たちは「水に生かされている」と言っても過言ではありません。そのため、体内の水分が不足すると、急速な体調の異変はおろか、ときに生命にまで危険が及ぶ深刻な事態に直結してしまいます。
一般的な目安としては体内の水分量の、
●1〜2%が不足すると、意識レベルが低下して意識障害のリスクが高まる。
●2〜3%が不足すると、体温調節機能に支障が出て循環機能に悪影響が出てくる。
●5%が不足すると、運動機能(特に持久力)が低下してくる。
●7%が不足すると、幻覚や妄想の症状が現れる。
●10%が不足すると、生命の維持ができなくなる。
と言われています。
とくに体内に蓄えられる水分量が減少してくる高齢者は要注意です。
例えば、「体重50kgの高齢者」の場合、体を構成するのに必要な水分量は50kgの50%で、約25kg(25リットル)という計算になります。
25リットルの1〜2%と言えば「250〜500ミリリットル」で、コップ1杯分からペットボトル1本分程度。このわずかな水分が不足しただけで脳の機能に支障が及び、意識障害に陥るリスクが高まってしまうということ。
だからこそ、人は歳を重ねるほど「意識的な水分摂取」が不可欠になるのです。
■水をたくさん飲めば、認知症は改善する
厚生労働省の推計によると、2025年には65歳以上の5.4人に1人が、2040年には4.1人に1人が認知症になると予測されています。
私たちが認知症に大きな不安を抱くのは「認知症になったら治らない」と考えられているからです。現代医療では、薬によって進行を遅らせることはできても、完治させることはできないというのが認知症についての定説となっています。
しかし、そんなことはありません。しっかり水を飲んで体内の水分不足を解消するケアを実践すれば、認知症の症状を大きく改善させることができます。
私が師と仰ぐ国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授も、「十分な水分摂取を行うだけで認知症の高齢者の7割はその症状が消失し治る」と述べています。認知症を脳疾患ではなく「精神疾患」と捉え、投薬では治らないけれど、水分摂取を主とした生活改善によるケアならば改善・治癒できる、というのが竹内教授の考え方です。
水を飲めば認知症が治るというのは理に適った論理的な発想であり、決して不思議なことではないのです。
■認知症を引き起こす原因は「脳の脱水状態」
認知症とは周囲の状況や自分の状態を正しく認識し、適切に行動するための脳の働き(認知機能)が著しく低下・混乱することで、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう状態のこと。
ここで重要なのは、認知機能は「はっきりした意識」を土台にして働いているということ。意識レベルが低く朦朧(もうろう)とした意識障害の状態では認知機能は働きません。
逆に言えば、認知機能をしっかり働かせるには、常に意識レベルが高い状態を維持する必要があるということになります。
そのためには意識レベルの低下や意識障害の要因となる水分不足を解消すること、つまり水分をしっかり摂って意識を覚醒させることが非常に重要になってきます。
水分が不足すると意識レベルが低下して認知機能に悪影響を及ぼす。それが認知症のリスクを高める--そう考えれば、認知症とは「脳の脱水状態」によって引き起こされる症状とも言えます。
ならば、水をしっかり飲んで脳の水分不足を解消することで、認知症の症状を改善・消失へと導くことができるということになるわけです。
■データが実証する「水分摂取で認知症が改善」という事実
上の図表は、認知症の高齢者を抱える家族たちによる「認知症を家族が治す」という勉強会で発表されたデータです。月1回ペースで6カ月間行われた勉強会では、
●1日ごとに摂取した水分量
●1日ごとに食事から摂取した栄養カロリー
●1週間ごとの運動時間と運動した回数
●1週間ごとの排便回数
と、それらに伴った認知症の症状の変化が報告されました。
そして、水分摂取・栄養摂取・運動・排便の4項目において量と回数を増やしていった結果、80%の家族が「認知症の症状が消失、もしくはほとんど消失した」と証言していることがわかります。
なかでももっとも影響を及ぼしているのが「水分の摂取量」です。1日の平均水分摂取量を1263ミリリットルから1709ミリリットルと約500ミリリットルも増やしたことが、認知症の症状改善、消失に大きく貢献していることがわかります。
水をしっかり飲む習慣が認知症を改善・消失につながることは、こうしたデータによっても実証されています。
■水を飲んで便秘を防げば認知症リスクも下がる
さらにもうひとつ。
人は高齢になると大腸まわりの筋力の低下によって便秘になりやすくなります。大腸の「蠕動(ぜんどう)運動(便を送り出す動き)」が弱まることで排便しにくくなるのです。
実は、体の器官でもっとも水分を保持できるのが筋肉です。それは逆に言えば、水分不足による機能低下の度合いがいちばん大きいのも筋肉だということ。
だから水をたくさん飲む。そうすることで筋肉にしっかり水分が届いて大腸の蠕動運動も活発になり、便秘予防になります。
また高齢になって水分が不足してくると便が固くなりがちです。普段から水をしっかり飲んでいれば、便に水分が含まれて適度にやわらかくなり、便通もスムーズになります。
介護の世界では「認知症を予防するうえで便秘の予防・解消は不可欠」というのが常識になっています。
便秘による腹部膨満感や腹痛が引き起こす体調不良や苦痛、不快感は食欲の低下につながります。栄養状態が悪化すれば、さまざまな身体機能の低下を招くことにもなります。高齢者の場合、そこから寝たきりや認知症に進行してしまうリスクが高いのです。
十分な水分摂取によって健康リスクが高い便秘を予防することが、ひいては認知症の予防にもつながります。
■1日に最低1.5リットルの水を飲む
水をたくさん飲むことは認知症予防や認知症の改善のための重要な生活習慣ですが、具体的にどのくらいの量を飲めばいいのでしょうか。
目安となるのは「1日に1.5リットル」です。当然、これには根拠があります。
私たちは尿や汗、さらには不感蒸泄(無意識に発生する皮膚や呼気からの蒸発)などで、毎日2.5リットルもの水分を体外に排出しています。ということは、最低でも1日に2.5リットルの水分を補わなければ水分不足状態になってしまうのです。
ただ、水分摂取の方法は水を飲むだけではありません。実は、毎日の食事からも水分を摂っています。料理に使われている食材が含む水分を摂取しているということ。肉類は約70%、魚類や卵は約75%、野菜に至っては約90%が水分です。そのため、朝昼晩と1日3回、しっかりと食事をしていれば、それだけで1日に約1リットルの水分を摂取できます。
そのため、1日に約1.5リットル以上の水を飲めば、排出した水分を補ってプラスマイナスゼロにするための水分を摂取できるというわけです。
とくに水分が不足しがちな高齢者にとって、1.5リットルは最低限の量。できる限り、それよりも多く飲むことを心がけてください。
■ただし飲み過ぎに注意、上限は1日3リットル
とはいえ「たくさん」にも限度があります。いくら水は命の源とはいえ、大量に、急激に飲むのは危険かつ、逆効果なのです。漢方医学でも、体内に過剰な水分が溜まった状態を「水毒」と呼び、「過ぎたる水分は毒」だと警告しています。
気温や湿度などの外的環境の違いや健康状態や活動量などの個人差もありますが、1日に飲むべき水分量は、1.5リットルを下限とするならば、上限の許容範囲は、基準の2倍程度にあたる約3リットル前後と考えてください。
このくらいの量ならば時間をかけて少しずつ摂取し、オシッコによる排出などの“出し入れ”によって、適量の水分を体内に循環させることができます。
人間が水でできている以上、「水の充足」は健康のいちばんの基本です。高齢者や高齢者を家族に持つ方に限らず、すべての方々に、「水をたくさん飲む暮らし」を始めていただきたいと思います。
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山下 哲司(やました・てつじ)
リハコンテンツ代表取締役
1986年中央大学商学部卒。国際医療福祉大学大学院博士課程修士(自立支援介護学)。日本の少子高齢化を社会的課題ととらえ、高齢者介護の問題解決のために学術研究の道に進む。医学的エビデンスが豊富で信頼性の高い理論に基づいたリハビリ・プログラムを採用してFC化、認知症の改善や身体機能の改善のために水分摂取を積極的に指導して、多くの成果を上げている。現在、医師も加盟する店舗数ナンバー1の介護を改善するデイサービス「リハプライド」をFC展開する。
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(リハコンテンツ代表取締役 山下 哲司)