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奈良県大和郡山市の観光名所となっていたオブジェ「金魚電話ボックス」が、自身の作品に酷似しており、著作権を侵害しているとして、福島県いわき市在住の現代美術家、山本伸樹氏が大和郡山市の郡町柳町商店街協同組合など相手に、330万円の損害賠償などを求めていた裁判で、奈良地裁(島岡大雄裁判長)は7月11日、山本氏の訴えを退ける判決を下した。

「金魚電話ボックス」は、公衆電話ボックス部材を利用して制作された造作物に、本物の金魚を泳がせたオブジェで、もともとは学生グループが2011年に制作。その後、部材を利用する形で2014年に大和郡山市に設置された。

一方、山本氏の作品は遅くとも2000年までに制作。一般的な公衆電話ボックスを模した造作物に、本物の金魚を泳がせている。山本氏から提訴される前の2018年4月、トラブル回避のために協同組合は「金魚電話ボックス」を撤去していた。

判決では、山本氏の作品について「公衆電話ボックスに金魚が泳ぐという発想自体は斬新で独創的」としながらも、「これ自体はアイデアであり、表現それ自体ではないから、著作権保護上の対象とはならない」と判断。その上で、「金魚電話ボックス」と山本氏の作品に同一性はないとした。これに対し、山本氏側は控訴するという。

なぜ、「金魚電話ボックス」は著作権侵害にあたらないと判断されたのだろうか。著作権問題に詳しい井奈波朋子弁護士に、判決のポイントを聞いた。

●「公衆電話ボックスに金魚を泳がせること」はアイデアで保護されない

この裁判では争点が2つあった。まず、1点目は、「山本氏の作品に著作物性があるかどうか」だ。

判決では、「公衆電話ボックスのような造形物を水槽に仕立てて、公衆電話を設置した状態で金魚を泳がせていること」や、「金魚の生育環境を維持するために、公衆電話の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること」には、著作物性を認めなかった。これは、どういう理由なのだろうか?

「著作権法は、思想または感情の創作的表現を保護するものであって、アイデアや表現上の創作性のないものは、保護の対象ではありません。

なぜアイデアを保護しないかというと、アイデアは誰かに独占させるべきではないからです。人間は、先人の知恵を利用して文化的な発展をしていますが、アイデアの独占を認め、そのアイデアが自由に利用できなくなると、かえって文化の発展を阻害してしまう結果になります。

そのようなことがないよう、著作権法は、表現とアイデアを切り分け、前者は保護の対象とし、後者は保護の対象としないという基準を設けています。そのアイデアを実現するために選択肢が限られている場合も、その選択肢を保護することはアイデアの独占を認めることになってしまうので、著作権法では保護されません。

判決は、『公衆電話ボックスのような造形物を水槽に仕立てて、公衆電話を設置した状態で金魚を泳がせていること』は、アイデアにすぎないので保護されないと判断しています。

また、『金魚の生育環境を維持するために、公衆電話の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること』については、『公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば、もともと穴が空いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想』と判断し、アイデア実現のための限られた選択肢として、著作権法による保護を認めませんでした」

●「金魚電話ボックス」は山本氏の作品に依拠性や類似性はあった?

2つ目の争点は、「金魚電話ボックス」が山本氏の著作権を侵害しているかどうかだ。判決では、著作権侵害の訴えを退けている。その大きな理由とは?   「判決は、山本氏の作品については、『公衆電話ボックス様の造形物の色・形状、内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては、作者独自の思想又は感情が表現されている』と判断し、著作物性を認めています。

『金魚電話ボックス』が著作権(複製権)侵害に該当するためには、『金魚電話ボックス』が山本氏の作品の創作的表現に依拠したものであること(依拠性)、それを覚知させるに足りるものを再製すること(同一性または類似性)、有形的な再製であること(有形性)が必要です。

判決では、具体的表現のうち、(1)造作物内部に2段の棚板が設置され、その上段に公衆電話が設置されている点、(2)同電話機が水中に浮かんでいる点は共通と判断されています。

ところが、(1)については、電話ボックスを用いるというアイデアに必然的に生じる表現なので、創作的表現ではないと判断し、その部分について保護される著作物であることが否定されています。また、(2)の点では共通しているといっても、それから山本氏の作品を直接感得することはできないとして、同一性または類似性が否定され、侵害とは認められませんでした。

総括すると、電話ボックス内に金魚が泳いでいるというアイデアは保護されないので、その点が似ていたとしても著作権侵害にはなりませんし、一部の共通する具体的表現にしても複製権侵害の要件を満たさないので、著作権侵害には該当しません。著作権法の解釈上、当然の結論というべき判決です」

【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
著作権・商標権をはじめとする知的財産権、企業法務、家事事件を主に扱い、これらの分野でフランス語と英語に対応しています。ご相談者のご事情とご希望を丁寧にお伺いし、問題の解決に向けたベストな提案ができるよう心がけております。
事務所名:龍村法律事務所
事務所URL:http://tatsumura-law.com/