TOEICのスコア「伸びる人」と「頭打ちになる人」どこが違う?
勉強をすれば成績が伸びるという常識は必ずしもTOEICに当てはまらない。スコアが伸びた人と伸び悩む人の徹底比較から両者の学習スタイルの違いが明らかになった。
喫茶店でリラックスしながら、テキストを黙々と眺めている。将来必要になりそうだからという動機で英語を勉強しているのだ。リスニングよりは単語の暗記に重点を置き、単語帳を使って単語を暗記している。リスニングはまずは英文を見てから、同じ英文を何度も繰り返し聴く。音読はしない――。
あてはまる方はいないだろうか。これは今回の調査の結果、判明した典型的な進歩がない人の姿だ。勉強すれば成績が伸びるという常識は、必ずしもTOEICに当てはまらない。勉強しているつもりなのに、スコアが伸び悩んで肩を落としている人も多いはずだ。
スコアが伸びる人と頭打ちになる人は、どこが違うのか。それを明らかにするために、TOEICを複数回受験したことがある人1000人にアンケート調査を実施。初回受験時よりスコアが200点以上アップした人を「伸びた人」、スコアが変わらないか落ちた人を「進歩がない人」として、両者の学習スタイルを比較してみた。
まず差が出たのは、英語学習の目的だ。何のために英語を学ぶのかを尋ねたところ(複数回答)、伸びた人でもっとも回答が多かったのは「仕事で必要だから」の52.5%(進歩がない人では32.5%)。一方、伸び悩んだ人で最多の回答は、「将来必要になりそうだから」の45.2%だった(伸びた人は40.8%)。この結果を、元イェール大学助教授で、英語塾「JPrep斉藤塾」代表の斉藤淳氏は次のように解説する。
「応用言語学では、集中力が学習効果に影響を与えるという考え方が常識です。集中力は、目的の切迫性に左右されます。とすると、伸びた人の中に、『仕事で必要』という切実な理由で勉強した人が多いのは納得です。進歩がない人に『将来必要になりそう』と回答した人が多いのも当然。目的が漠然としていると学習のやり方も漠然としてしまい、効果があがりにくいのです」
重視する学習ジャンルは、伸びた人と進歩がない人で明確な違いが出た。勉強にもっとも時間をかけたジャンルを聞くと、伸びた人は「リスニング」が61.1%で、「単語」が12.1%。それに対して進歩がない人は「リスニング」が50.3%で、「単語」が21.7%だった。伸びた人は「単語よりリスニング」、進歩がない人は「リスニングより単語」の傾向が明らかだ。その理由を、斉藤氏は次のように分析する。
「読む、書く、聴く、話すという言語の4スキルのうち、もっとも難しいのがリスニングです。他の3つは自分のスピードでできますが、リスニングは相手のペースで容赦なく音が流れてきます。とくにテストでのリスニングは困難です。日常会話ならジェスチャーや表情などの非言語的なヒントがありますが、テストの場合は純粋に音だけです。伸びた人は、リスニングが難しいことをよく知っているから重点的に学習しているのでしょう」
■リスニング重視が正しい理由
一方、進歩がない人が単語に時間をかけるのは、どうしてなのか。
「TOEICは、簡単な英語を速く反応する能力を問うテストで、大学受験とは別種のものです。昔の成功体験を忘れられず、TOEICも同じ勉強法で取り組んでしまう人が少なくない。単語重視も、その一つ。進歩がない人は、単語を暗記すれば点数が取れた学校英語から脱却できていないのです」
続いて、各ジャンルの学習方法を比較した。リスニングで「同じ英文を何度も聴く」のか、「いろんな英文をたくさん聴く」かを聞いたところ、進歩がない人の67.7%が「同じ英文」派で、伸びた人の54.7%を上回った。
「伸びた人も過半数が『同じ英文を何度も聴く』と答えたように、反復練習は大切です。ただ、筋肉をつけるときとダイエットのときでバーベルの重さを変えるように、リスニングも目的によって負荷を変える必要があります。音声を習得したいときは簡単な英文、文法や語彙を習得したいときは難しい英文が適切。進歩がない人は、そこを間違えているのかも」
リスニングで「最初から英文を見て聴く」か、「まず英文を見ないで聴く」かという質問では、「見ないで聴く」と回答した人が、伸びた人で67.5%、進歩がない人では50.3%。どちらも見ないで聴く人が上回ったが、伸びた人にその傾向が強かった。
リスニングした英文を音読する人は、伸びた人で50.3%。それに対して、進歩がない人では39.8%と、やや少ない。通常のTOEICにスピーキングの出題はないが、どうして音読したほうがスコアは伸びやすいのか。
「自ら発音することで、音の違いを意識するからでしょう。たとえば英語にはアに近い母音が5つありますが、それぞれを正しく発音できない人は、リスニングですべてカタカナの『ア』に聞こえて混乱してしまう。リスニング力を高めたければ、正しい発音を音読で身につけることが第一歩。そうすれば、リスニングも伸びるはずです」
次は文法の学習について。「文法よりリスニングや会話力のほうが重要」と回答した人が、伸びた人で61.6%、進歩がない人で55.6%に達した。どちらも文法軽視の傾向が見てとれたが、これは正しいのか。
「TOEICで問われる文法は中学レベルなので、テスト対策として文法軽視は正解。逆にいうと中学レベルの文法を習得していないと話にならない。不安な人は一度、中学のテキストからやり直してみるといいでしょう」
単語学習は「英文中で覚える」派と「単語帳で覚える」派がいるが、英文派は、伸びた人で68.2%、進歩がない人で60.3%。単語帳派は、伸びた人で20.2%、進歩がない人で25.6%だった。どちらも英文派が多いが、単語帳派は伸び悩む人に多い。
「単語は文脈中で覚えないと使えるようにならないので、単語帳より英文の中で覚えたほうがいいのは当然です。そのときも、スペルを覚えて満足するのではなく、音を覚えることが大事。聴いて覚えることで、リスニングのときの反応速度が変わってきます」
■なぜ“ながら勉強”が必要なのか
学習時間はどうか。1日の学習時間は、伸びた人が平均81.0分、進歩がない人が平均63.6分だった。その差は1日約17分で、伸びた人が上回ったものの、極端な違いではない。裏を返せば、わずか17分の差でスコアは大きく変わるということだ。
気になるのは、17分の差がどこでついているのかという点だ。学習する時間帯について、「就寝前」と答えたのは、伸びた人で60.0%、進歩がない人で59.9%で、ほぼ同じ。それ以外の「起床後、家を出るまで」「通勤途中」「昼休み」「帰宅途中」では、いずれも伸びた人が進歩がない人を上回る(図参照)。
伸びた人も進歩がない人も就寝前のまとまった時間を学習に充てているが、伸びた人はさらにスキマ時間を活用している。17分の差も、そこでついたと考えるのが妥当だ。
「英語学習には、集中してやる勉強と、集中していなくてもバックグラウンドで英語を聴いて慣れる“ながら勉強”の両方が必要です。通勤途中などのスキマ時間は、ながら勉強向き。伸びた人はおそらく通勤中に英文を聴き、帰宅後に集中して読むといった学習をしているのではないでしょうか」
学習法全体についても聞いた。効果のあった学習法は伸びた人も進歩がない人も、1位は「書籍の教材」(伸びた人31.3%、進歩がない人32.5%)で同じ。しかし、伸びた人で2位に入った「英会話レッスン」(18.1%)は、進歩がない人では4位で、8.9%にとどまった。レッスン受講も効果があるようだ。しかし、その時間とお金がない人はどうすればいいのか。
斉藤氏は「スクールに通わなくてもスコアは伸ばせます」と指摘する。
「スクールは授業内容以前に、半強制的に通わなくてはいけないというコミットメントの効果が大きい。自分できちんと勉強時間を管理できる人なら、市販の教材で十分です。教材は、簡単すぎても難しすぎてもダメ。レベルは、自分の現在のスコアから2割上のものが理想です。相性がいいものを1冊選び、骨までしゃぶるように何度も繰り返したほうがいいと思います」
スコアを伸ばした人が実際に使っていた教材や好きな著者を参考にして勉強に励んでほしい。(図・写真参照)
▼進歩がない人の悪いクセ5▼
【1】口⇒音読しない
「TOEICではスピーキングの出題はない。だから不要でしょ」
【2】目⇒まずは英文を見る
「同じ聴くなら、目と耳の両方を使えば効果は2倍期待できそう」
【3】耳⇒同じ英文を何度も聴く
「聞き取れない文も繰り返し聴くことで、聴けるようになるはずだ」
【4】記憶⇒単語帳を使って覚える
「大学受験も単語を丸暗記して乗り切った。まずは単語力だろう」
【5】目的⇒何となく将来のため
「グローバル時代だから、勉強しておいてどこかで役立てばラッキー」
▼伸びた人のよいクセ5▼
【1】口⇒音読している
「正しい発音を真似すれば、リスニングへの反射神経も高まるはず」
【2】目⇒まずは英文を見ない
「試験では英文は見られない。本番と同じ環境で訓練しておこう」
【3】耳⇒いろんな英文を聴く
「耳を英語のリズムに慣れさせよう。初めて聴く英文は貴重だ」
【4】記憶⇒英文を読み、わからない単語を都度覚える
「文脈で覚えておけば、忘れにくいだけでなく活用もしやすい」
【5】目的⇒仕事で必要だから
「海外との商談など切迫した必要性があるので、本気でやっています」
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英語塾「JPrep斉藤塾」代表。元イェール大学助教授。著書に『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』がある。
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(村上 敬=文)

