■福島良一MLBコアサイド

 昨年までメジャーで活躍していた黒田博樹投手が日本球界に復帰したとき、彼の投げる「ツーシーム」という球種が話題となり、日本の各メディアが大きく取り上げていました。ツーシームの正式名称は、「ツーシーム・ファストボール(two seam fastball)」といい、速球でありながらシュート気味にボールが沈むため、バットの芯を外して打者を打ち取るのに有効な球種です。アメリカではメジャーなツーシームですが、黒田投手の日本球界復帰で耳にすることが増えたように感じます。メジャーリーグでは聞き慣れない球種の名前が次々と生まれてくるので、今回はそれらを紹介したいと思います。

 黒田投手が球界復帰したとき、ツーシームという球種とともに、「バックドア」「フロントドア」という単語も話題となりました。バックドアというのは、正式には「バックドア・ブレーキングボール(back door breaking ball)」といい、これはバッターの外角のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる変化球のことを指します。スライダーやカーブ、カット・ファストボール(※)など、外角のボールからストライクに入れてくることを、総称してバックドアと呼びます。

(※)カット・ファストボール(cut fastball)=リリースする際にボールを切るように投げる球種。通称「カッター」と呼ばれ、直球に近い球速で小さく鋭く変化する。

 一方、フロントドアはバックドアと逆のことで、バッターの内角からストライクゾーンに入ってくる変化球のことです。バックドアで最も多く用いられている球種はスライダーで、アメリカでは「バックドア・スライダー(back door slider)」と表現されています。一方、フトントドアはフォーシーマー、カッター、シンカーなどが多く、「フロントドア・フォーシーマー(front door four seamer)」と呼ばれています。

 メジャーではボールの握り方によって、様々な名称が付けられています。例えば、「スパイク・スライダー(spike slider)」というのは、人差し指と中指を折り曲げ、爪をボールの縫い目に押し当てる独特の握り方をします。ストレートの軌道から鋭くスライドする動きが特徴で、ニューヨーク・ヤンキース時代に「マリアノ・リベラの後継者」と言われ、現在はシカゴ・ホワイトソックスでクローザーを務めているデビッド・ロバートソンが使い手として有名です。

 他にもスライダー系では、「カッター・スライダー(cutter slider)」と呼ばれる球種が多く登場するようになってきました。文字通り、カッター(カット・ファストボール)のような鋭い動きでスライドする球種ですが、通常のスライダーと大きな違いがあるかと言えば微妙です。ただ、デトロイト・タイガースでクローザーを務めているホアキム・ソリアや、ミネソタ・ツインズで先発陣の一角を担っているリッキー・ノラスコが投じるスライダーは、カッター・スライダーと呼ばれています。

 ただ、メジャーの数ある球種の中で、最もバリエーションに富んでいるのはカーブだと思います。まず最初に紹介したいのは、「ナックル・カーブ(knuckle curve)」です。1970年代、当時ロサンゼルス・ドジャースで活躍したバート・フートンという先発投手が投げることで有名になりました。その後、1990年代から2000年代にかけてナックル・カーブの使い手として活躍したのは、ボルチモア・オリオールズとヤンキースで通算270勝をマークしたマイク・ムシーナです。現在では、2008年に奪三振王に輝いたピッツバーグ・パイレーツのエース、A.J.バーネットが決め球としてナックル・カーブを使っています。

 次に紹介するのは、「スパイク・カーブ(spike curve)」です。これは、人差し指を曲げてボールに押し当てるようにして握ります。指でボールに回転を与えるため、鋭いカーブとなるのが特徴です。近年のメジャーでスパイク・カーブの使い手と言えば、シアトル・マリナーズのタイフアン・ウォーカーが挙げられます。

 そして最近、新たに登場してきたカーブは、「ヤッカー(yakker)」でしょう。メジャー中継を見ていると、解説者がヤッカーという表現をよく使うようになりました。大きく曲がるカーブのときに使われることが多く、オークランド・アスレチックスの若きエース、ソニー・グレイが代表的な使い手と言われています。

 数年前から、「トゥエルブ・トゥ・シックス・カーブボール(12 to 6 curve ball)」という表現が日本でも紹介されるようになりました。これは、ボールの軌道が時計の文字盤の12時から6時に向かっていくことで、つまり縦に大きく割れるカーブのことを指しています。メジャーではフィラデルフィア・フィリーズのクリフ・リーが得意とし、このカーブで三振の山を築いています。

 それが最近、「12 to 6」に似たような新しい呼び名が登場してきました。それは、「テン・トゥ・フォー・カーブボール(10 to 4 curve ball)」です。つまり、時計の文字盤の10時から4時に向かって曲がる軌道のカーブなので、左ピッチャーの場合に使われています。これを得意としているのは、アスレチックスのドリュー・ポメランツという左腕投手です。右バッターと対峙したときは、打者のひざもとを突き刺すようなカーブなので、「ニー・バックリング・カーブ(knee buckling curve)」とも呼ばれています。

 一方、メジャーで愛用されているチェンジアップも、いろんな呼び名が増えてきました。まずは、「スプリット・チェンジ(split change)」。これは、スプリット・フィンガー・ファストボール(SFF)を投げるときのように、ボールを指で挟むようにして握ります。これを決め球にして注目されるようになったのは、タンパベイ・レイズのアレックス・カッブという先発投手です。彼の投げるスプリット・チェンジはバッターの手前で鋭く沈むので、空振りを奪うときの最大の武器となっています。近年、使い手の増えている球種のひとつと言えるでしょう。

 また、「スリーフィンガー・チェンジ(three finger change)」も最近のメジャーリーガーは好んで使っています。ボールをがっちりとホールドしやすいので、安心して投げられることが好まれる要因のようです。ボストン・レッドソックスで先発を務めるリック・ポーセロが使い手として有名です。

 あと、「バッグス・バニー・チェンジ(bugs bunny change)」という変わったネーミングのチェンジアップもあります。バッグス・バニーとは、アメリカの有名なアニメに登場しているウサギのキャラクターのことで、ちょこちょこと動き回って捕まえづらいボールの軌道をすることから、この呼び名になりました。タイガースのアルフレド・サイモンという先発投手が得意としています。

 このように、メジャーリーグでは次々と聞き慣れない呼び名の球種が誕生しています。日本では浸透していない呼び名ですが、現地のメジャーリーグ中継では解説者が頻繁に使っており、アメリカで発売されているスカウティングレポートなどを読んでいると、今回紹介した球種が記載されています。常に新しい発見があることも、メジャーリーグの魅力だと思います。

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu