「緊張感で嘔吐し続けた」『ロングバケーション』プロデューサーが明かす視聴率30%超え期待への強烈なプレッシャー

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なぜナオミ・キャンベルが歌ったのか

「失礼なくらい、制作にあたって最初から事細かに注文をつけたんです。もちろん『ロンバケ』のラブストーリーの内容は反映してほしい、亀山の言う通り女性とのデュエットにしてほしい、ダイアナ・ロスの曲のイメージに近いものになるようにBPM(曲のテンポ)も同じにしてほしい……といった具合に。久保田さんは、すべてのリクエストに見事に応えてくれた」

そんな経緯で誕生したのが、黒人モデルの先駆けであるナオミ・キャンベルを迎えた『LA・LA・LA LOVE SONG』。'25年の紅白歌合戦で披露されたことも記憶に新しい、約200万枚を売り上げた不朽の名曲だ。

「なぜナオミ・キャンベルだったかと言えば、久保田さんと同じアパートメントに住んでいたから。創作について時々会話を交わす仲だったらしくて、久保田さんが誘ったら二つ返事で受けてくれたんです」(永山氏)

キャスト、脚本、音楽にロケーションと、準備は整いつつあった。しかし、ある想定外の事態も生じた。

「北川さんのホンは仕上がりも早いし、素晴らしい。ただ、あがってきた第1話の脚本を読んで困ってしまった。というのも、筆がのりすぎてどうやっても90分のサイズなんですよ。でも、それを1時間ドラマの46分サイズにするのは惜しいし、難しい。これは切るわけにはいかんだろう、と。

それで、初回を30分拡大スペシャルにしたんです。初回拡大版はいまでこそ一般的になりましたが、当時は初めての試みでした」(永山氏)

もともと拡大枠が決まっていたわけではなく、期待の高さからフジテレビが枠の拡大を承諾したのだ。こうして、4月15日の初回に向けて、急ピッチで撮影は進む。

永山氏によれば「たしか春分の日」に、久保田利伸の主題歌にあわせて流れるタイトルバックの撮影が行われた。

木村拓哉、山口智子、竹野内豊、松たか子、稲森いずみ、りょうの主要キャスト6人が勢揃い。後にファンから「瀬名マン」と呼ばれる、瀬名の住むマンションに立つ看板の絵を、スプレーで描いてはしゃぐ、という内容だった。

「実際の屋上の看板は、アメリカっぽい雰囲気のフリー素材を使っています。書かれていた、“193.25 JOCX DAIBA”は、フジテレビの放送周波数とコールサイン、そしてフジテレビ本社の河田町からお台場への移転が決まっていたことから、DAIBAと書いたんです」(永山氏)

その下に「DON’T WORRY BE HAPPY」と書いたのは、永山氏の発案だった。

「ボビー・マクファーリンの曲のタイトルからとりました。「なんとかなるさ」ってね」

実は同じ日、ある人物から永山氏に電話がかかってきている。永山氏は、渡米時にロスで旧知の音楽家・日向大介とも面会し、『ロンバケ』の音楽を依頼していたのだ。

「こんな曲はどうかな」。携帯電話越しに流れたのは、英語で歌われたメロディ。永山氏はすぐに、「これをクラシックピアノの曲にしてほしい」とお願いする。こうして、キムタクが劇中で演奏したことで譜面が異例のベストセラーとなる名曲「セナのピアノ」が生まれることになった。

ワケアリ気な竹野内豊とりょうのカップル

なんとかなるさ―燻る若手ピアニストと売れないモデルの「長いお休み」に起きる人間ドラマ、恋愛模様を描く作品の内容にあわせた文句だったが、初回を控える永山氏は「なんとかなるさ」という心境にはなれなかった。初回の放送前日、視聴率30%を期待されるプレッシャーに、緊張で震え、嘔吐がとまらなかったという。

初回放送。結婚式当日に婚約者に逃げられた葉山南が、白無垢姿で東京の街を走る。南と瀬名との出会い、ふたりの軽妙洒脱な会話劇。瀬名が通った音大に現れる清楚な女子大生・奥沢涼子。独特なキャラクターで南と絶妙なかけあいをみせる、稲森いずみ演じる後輩モデルの桃子。

そして、今後物語にどう関わるか興味をそそる、ワケアリ気な竹野内豊とりょうのカップル……。

「今見ても、すごくいい初回だと自分で思いますよ(笑)。

ふつうに見ていると、竹野内豊が南から逃げた婚約者に見えるはずで、脚本がよく出来ているんです。竹野内豊演じる真二とりょうの氷室ルミ子がギャンブルして回るロードムービー的な場面は、新潟県・南魚沼のパチンコ屋、群馬県前橋の競輪場と1日で移動して撮りました」(永山氏)

南とシェアハウスをはじめることになった瀬名が、「瀬名マン」の部屋からスーパーボールを落とし、跳ね返ったボールをキャッチして二人でいっしょに喜び合う伝説的なシーンを経て、真二がついに南を訪ねてくる場面で、第1話は幕を閉じる。

初回視聴率は、30・6%。数字を聞いた永山氏は、ホッと胸をなでおろした。

伝説の初回の放送後、『ロンバケ』は高まりきった期待以上の社会現象を巻き起こしていく。だが最高のスタートを切ったドラマで次に永山氏を苦しめたのは、時代の寵児の絶大な人気だった。

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「週刊現代」2026年6月8日号より

【一回目から読む】「これが原作改変ドラマの完成形」小学館とフジテレビが生んだ元祖月9『東京ラブストーリー』はなぜ名作になりえたのか