【現代ビジネス編集部】【独自】一挙7億円も!紀州のドン・ファンの資産から元妻が受け取れる額がわかった…岡口元裁判官が「遺贈報告書」を読み解く

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刑事の判決ですべて変わる

2018年6月、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の野崎幸助さん(当時77歳)が、急性覚醒剤中毒で死亡した。殺人罪などに問われていた元妻、須藤早貴被告(30歳)の控訴審判決が3月23日に出てから2ヵ月が経つ。大阪高裁は、一審で無罪とした和歌山地裁の判決を支持し、検察側の控訴を棄却したのだ。

再審制度見直し、刑事訴訟法改正が国会で紛糾。「冤罪」が問題になっている中、検察は上告した。

判決によれば、

《(須藤)被告人が犯人であることについての証明がないとした原判決(一審判決)の認定判断は、不合理で許容できないものではない。事実誤認をいう論旨は理由がない》

《殺害したと推認するには足りない。犯罪の証明がない》とされた。

その一方で、検察側は「野崎の死亡により多額の遺産を直ちに相続するのが動機」と繰り返し主張したが、認められなかった。

資産家であった野崎さんの遺産相続は、今後どのようになるのか。妻であった須藤被告の相続は認められるのか?

東京高裁や大阪高裁などで裁判官として勤務し、SNSへの投稿を理由とした裁判官弾劾裁判で罷免判決を受けたことでも知られる岡口基一氏に解説してもらった。

「須藤早貴さんは、野崎さんの配偶者だった以上、相続人として遺産相続が可能な立場です。しかし、民法891条各号には相続人の欠格事由が定められています。配偶者や子供であっても相続できないことがあるのです。

私が裁判官として相続事件に関与した際、遺言書の偽造・変造が疑われたケースがありました。遺言書の偽造・変造を行えば相続人の欠格事由に該当します(同条5号)」

もらえるのは、4分の3ではなく2分の1

岡口氏が続ける。

「偽造や変造がなくても、須藤さんの件で問題になり得たのが891条1号でした。《故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者》を欠格事由としています。

須藤被告が野崎さんを殺害したとして有罪判決が確定すれば、この1号に該当します。しかし今回、須藤被告は高裁で無罪となりました。上告審でもそれが維持される可能性は高い。最高裁で無罪が確定すれば欠格事由はクリアできますから、須藤さんは野崎さんの遺産を相続することができます」

野崎さんは生前、知人に《いごん 個人の全財産を田辺市にキフする》という自筆の遺言書を託していた。

野崎さんの死後しばらくしてその存在が明らかになり、野崎さんの兄弟らが遺言は無効だとして民事裁判で争った。田辺市も被告側に立ち、「遺言は有効」との判断が示された。現在、田辺市は野崎さんの全財産を譲り受ける準備を進めている。

岡口氏が解説する。

「須藤被告は野崎さんの配偶者ですから、本来は民法900条3号にしたがい、野崎さんの4分の3の遺産をもらう権利があります。しかし遺産は野崎さんが生前に遺言書を残しているわけで、亡くなった日に田辺市に遺贈されているという解釈になる。

そこで、須藤被告は妻として請求できる『遺留分侵害請求権』を行使すれば、遺贈された分から2分の1をもらえるということになります」

遺産の2分の1をもらえることは変わらないが、厳密には「相続」ではないという。また、不動産などをそのまま取得することはできない。

「平成29年の民法改正により、2分の1相当の金銭の請求しかできません。須藤被告は最高裁で無罪確定すれば、遺贈を受けた田辺市に遺留分侵害額請求を内容証明郵便で出せば、受け取れるはずです」(岡口氏)

保有していた3銘柄の株価

そこで、野崎氏の「御殿」の不動産登記を確認してみた。岡口氏の指摘通り、野崎氏が亡くなった日づけで田辺市に「遺贈」と登記されていた。

一体、須藤被告はどれほどの金額を受け取ることができるのか。2019年8月、田辺市は《故野崎幸助氏による遺贈に関する報告書》を作成した。「現代ビジネス」は、極秘にその報告書を入手した。

野崎氏が所有していた現金、土地や建物の不動産、株などの有価証券や投資信託、自動車、絵画などは、田辺市の額面評価で約26億円と試算されている。

しかし、野崎さんは生前、貸金業を成功させ財を成していた。死亡時にはその精算が終わっておらず、民事裁判で係争中のものも含まれていた。中には金利の過払いで返還が必要なものや貸し倒れ金などもあり、価値が下がっている不動産もある。田辺市は野崎さんの資産の実質的な評価額を約14億円として、市議会に報告している。

そこから2分の1とすれば、7億円相当になる計算だ。

田辺市の報告書の中には、野崎さんが保有していた気になる資産がある。

野崎さんは11銘柄の株を保有していたそうで、約7億円という評価になっているが、具体的な銘柄や保有株数は記載されていない。

一方で報告書には「振込払出証書に基づく債権」という項目がある。振込払出証書は、株式に関連する配当金や還付金の受け取りに使われることが多い。そこには「東芝機械」(現・芝浦機械)、「三菱UFJフィナンシャル・グループ」、「三菱商事」の3銘柄が記されており、野崎さんが保有していたとみられる。

野崎さんの遺産は、兄弟が民事訴訟で相続を争ったこともあり、不動産の中にはまだ処分されず野崎さん名義のままのものが残っていることが登記簿で確認できる。もしこれら3銘柄がまだ売却されていなければ、取り扱いはどうなるのか。

東芝機械は野崎さんが亡くなった2018年7月頃は3000円前後で推移していたが、現在は4300円ほど。三菱UFJフィナンシャル・グループは650円ほどだったが、今は2800円前後。三菱商事は1000円ほどから5300円へと、3銘柄とも大きく値を上げている。

筆跡鑑定は重要視されない

岡口氏がこう続ける。

「亡くなった日を起算日として、その日の株価で売却したと仮定した計算をしなければなりません。例えば野崎さんが死亡した日に1000円だった株が、今は1200円になっていても計算上は1000円。反対に700円に下がっていても1000円です」

野崎さんは投資に熱心で、研究を重ねていたと以前現代ビジネスに語っており、その“眼力”は確かだ。しかし、残念ながら遺贈において株価の上昇分は反映されない。

先に触れた野崎さんの兄弟による民事訴訟では、遺言書を有効と認め、遺産は田辺市へという判決が下されている。その裁判では、遺言書の筆跡が本人のものであるかが大きな争点となった。兄弟側は複数の筆跡鑑定を証拠として提出し、その記録は膨大な分量に及んだ。

岡口氏が言う。

「裁判所は、あまり筆跡鑑定を重要視しません。筆跡鑑定は国家資格があるわけでもないので、お金を出して鑑定を依頼した側に有利な内容を書くことも考えられるからです」

野崎さんの遺産は現在、田辺市が貸金業関連の債権債務を整理している段階であり、ここ数年、市議会でも弁護士費用を公費で負担していることが報告されている。

田辺市の関係者はこう語る。

「債権者や債務者となかなか連絡がつかないことなどから、遺贈を進めるのに時間がかかっています。不動産物件も処分できずに、まだ野崎さんの名義になっているものがいくつもあります」

ちなみに、弁護士費用などの扱いはどうなるのか?

「必要経費として田辺市に遺贈された野崎さんの資産から差し引くことができません。すべて田辺市がかぶらなきゃいけない。少額の遺贈を受けた場合、弁護士費用などが多額に及んだりするとマイナスになることもありうる」(岡口氏)

須藤被告はSNSでの投稿を始めるなど、新たな活動も行っていた。無罪が確定した後、彼女は「妻」だったとして野崎さんの遺産を請求するのだろうか。

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