「戦前の幻のレーベル」から「教養だけでなく生活も」へ【NHK出版新書の25年・前史編】

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『寝た子は起こすな』や『バラバラな世界で共に生きる』など新刊も話題のNHK出版新書は、2026年で創刊25周年です。

25周年を記念して、2001年に前身となる「生活人新書」が誕生して以来のあゆみを、編集部に聞きました!
第1回は、戦前に存在した幻のレーベル「ラヂオ新書」に始まる前史と、『蕎麦屋のしきたり』『脳が冴える15の習慣』『国語力アップ400問』など、2001年の創刊から334タイトルを刊行した、「生活人新書」の10年間を振り返ります。

生活人新書の創刊

 1931年に設立された日本放送出版協会(現NHK出版)にとって、新書とは“主戦場”のひとつでした。

 1939年の『一億一心百億貯蓄』に始まる「ラヂオ新書」、1946年の『アメリカの哲学思想』に始まる「ラジオ新書」をはじめ、新書というシリーズでの書籍の連続刊行は、その後も何度か試みられてきました。念頭には1938年創刊の岩波新書がありました。

『アメリカの哲学思想』

『アメリカの哲学思想』

 その試みが、今世紀に入って新たな形をとったのが「生活人新書」シリーズです。これが現「NHK出版新書」の直接の前身となりました。

 2001年11月、蕎麦職人として知られた藤村和夫さんによる『蕎麦屋のしきたり』を第1号として生活人新書がスタートします。同時発売は、『6番アイアンの教え』(坂田信弘)、『ビジネスマンのための「個性」育成術』(黒木靖夫)、『それでもやり直したい二人のためのマニュアル』(岡野あつこ)、『地上星座学への招待』(畑山博)などです。

 このほか、手話の普及に努めた丸山浩路さんの『手話あいうえお』、ラジオ英会話講師として知られる遠山顕さんの『脱・「英語人間」』、ファイナンシャルプランナー畠中雅子さんの『〈ライフスタイル別〉家計の方程式』、美術と解剖の研究者である布施英利さんの『ダ・ヴィンチ博士、海にもぐる』が創刊第一弾でした。このあと2011年1月に現行のNHK出版新書がスタートするまで、累計334タイトルを刊行します。

 NHK出版には1964年以来、NHKブックスという選書のシリーズがあります。NHKブックスは創刊からしばらく「新書的な選書」を標榜していたこともあり、2001年の新書創刊にあたっては、両者のカラーを分けて、より広い読者層に当社書籍を届けることが目指されました。シリーズ名はそれを反映しています。

 すなわち、「生活する人」が読者であることを謳って「生活人新書」としたのです。読者が「生活する人」であるというのはいま考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、従来、読者として想定される専門家でない人々がこうしたシリーズに対して求めるものは、大きな括りで言えば「教養」でした。これに対して、『基礎英語』『きょうの料理』など放送テキストの編集において生活実用情報を強みとする会社としては、「教養だけでなく生活も」という意図をもって、いわば教養に対置する形で「生活」をネーミングに採用したのです。

今も読まれるロングセラー

 最も多くの読者に支持されたのは築山節さんの『脳が冴える15の習慣』(2006年)でした。現時点で58万部を超えて読まれ続けています。その1年半後には同じく築山さんの『脳と気持ちの整理術』(2008年)が出て、こちらも生活人新書で売り上げ部数2位を占めています。

 当時は何度目かのブームが来たと言われるほど脳科学関連の書籍が多く出ており、時代の要請に応えるという刊行方針を象徴するものだったと言えるでしょう。築山さんは2005年の著書『フリーズする脳』以来、生活人新書で首位のベストセラー著者となりました。

『国語力アップ400問』(2003年)も多くの読者に迎えられました。著者はNHK放送文化研究所、こちらはNHKの放送に関する事柄を研究するシンクタンクです。脳科学と同様、国語についての関心もこの頃非常に高まっていました。著名なエコノミスト水野和夫さんの『金融大崩壊』(2008年)は、百年に一度と言われた金融危機リーマン・ショックのすぐあとに刊行され、こちらもよく読まれました。

 一方、これらに準じて読者を獲得したのが、英国人ジャーナリストのコリン・ジョイスさんの『「ニッポン社会」入門』(2006年)、池上彰さんの『見通す力』(2009年)、中野京子さんの『「怖い絵」で人間を読む』(2010年)などです。

新書の王道へと舵を切る

 ここまで見てきて気づくことは、生活人新書はその看板に「生活実用」を謳いながら、その実、「教養」路線でもあったのではないか……ということです。つまり、新書とは、やはり王道の教養路線が強いのではないか。10年近く、時代の要請に応えるべく刊行を続けてきた当時の部員の間でもそのことについては多かれ少なかれ合意がありました。

 そこで、創刊10周年の節目に、シリーズ名を生活人新書からNHK出版新書へと変更し、「新書の王道へ。」を掛け声に、教養路線を中心に据えて再スタートを切ることになりました。

NHK出版新書創刊25周年を記念した特設サイトがオープンしました。サイト上では現在販売中の全点をジャンルごとに網羅。表紙から直感的に選書できます。今読みたい一冊がきっと見つかります。