食料消費税ゼロは本当に物価高対策になるのか――イラン情勢で揺らぐ「当初シナリオ」
政府が掲げる「2年間の食料消費税ゼロ」に対し、実現への意欲が改めて示されています。しかしその一方で、イラン情勢の悪化による原油高や輸送コスト上昇が進み、消費税をゼロにしても商品価格自体が上昇する可能性が指摘されています。さらに、レジ改修問題や財源論、給付付き税額控除への移行など、制度設計には多くの課題が残されています。5月から6月にかけての議論が、今後の経済対策の方向性を左右する重要局面となりそうです。
「政権公約」としての食料消費税ゼロ
2026年4月27日の参議院予算委員会において、高市早苗首相は、食料消費税ゼロについて「衆院選で自民党の政権公約にも掲げている」としたうえで、時間を要するシステム改修を可能な限り早期に実施できる方法も検討しながら、実現に向けて強い思いを持って取り組んでいく考えを改めて示しました。
原油高で変わる“物価対策”の前提
さらに、イラン情勢の混迷によって原油供給問題が切迫し、石油価格の上昇に伴う輸送費などのコスト増が広がっています。その結果、商品自体の原価も上昇傾向にあります。
仮に8%の食料消費税がゼロになったとしても、100円だった商品がコスト増によって110円になれば、消費税を撤廃しても結果として値上がりとなる可能性があります。
つまり、食料消費税ゼロがそのまま「家計負担の軽減」に直結するとは限らない状況になりつつあります。
「後発的事由」が揺さぶる当初シナリオ
高市首相には、衆院選で掲げた政権公約への強いこだわりがあるようにも見えます。しかし、選挙後に生じたイラン情勢の悪化は、当初想定されていなかった「後発的事由」といえます。
そのため、「2年間の食料消費税ゼロ」をつなぎ措置とし、その後に給付付き税額控除へ移行するという当初シナリオを維持するのか、あるいは外部有識者会議で提案された「税額控除」を見送り、給付のみを行う簡便型へ転換するのか――議論は岐路に立っています。
現在、この議論は政府・与党内の「国民会議」実務者会議や外部有識者会議を中心に進められています。実務者会議では、レジ改修の負担や導入時期が論点となり、「ゼロ」ではなく「1%案」も現実論として浮上しています。一方、有識者会議では、食料消費税ゼロを一時的措置とし、その後は給付付き税額控除へ移行する案が検討されていますが、制度の複雑さや財源問題から、給付のみの簡便型を求める声も出始めています。
しかし、財源論がなお見えない現状では、具体的な方向性を定めることは容易ではありません。
5月〜6月は「天下分け目」の局面に
6月の中間取りまとめまでに一定の概要が示され、その後、秋頃の法案作成へ進むのでしょうか。
5月から6月にかけては、今後の制度設計を左右する「天下分け目の関ヶ原」ともいえる局面を迎えています。政策実現を優先するのか、それとも物価上昇という新たな現実に対応した制度修正を行うのか。政府の判断が注目されています。
矢内一好
国際課税研究所
首席研究員
