《ウクライナ人女性(23)刺殺事件》「戦争から逃れて新生活を始めたばかり」「突然、背後から喉元を複数回刺された」ノースカロライナ州での事件から8か月、犯人に“公判能力ナシ”で裁判が始まらず
米ノースカロライナ州の電車内で、ウクライナ人女性のイリーナ・ザルツカさん(23)が、デカルロス・ブラウン・ジュニア被告(35)に突然喉元を複数回刺されて死亡した事件から約8か月。この事件は全米に衝撃を与え、同州では死刑制度の事実上の復活が検討されるなど社会的に大きく波紋を広げた。しかしいまだ裁判が始まらず、国内では批判の声が高まっている。
【写真】逮捕された34歳のホームレス男性・デカルロス・ブラウン・ジュニア被告、SNSに投稿されていたザルツカさん
事件が起きたのは、昨年8月22日午後10時ごろ(現地時間、以下同)。同州最大の人口を誇る都市・シャーロットの中心部から南に2km離れた駅構内でのことだった。刺し傷を負った状態のザルツカさんが発見され、その場で死亡が確認された。現場に居合わせたブラウン被告が容疑者として逮捕され、のちに第一級殺人罪で起訴された。
その後、同地域の公共交通システム(CATS)が、事件発生時の防犯カメラ映像を公開。映像には、勤務先から帰宅途中のザルツカさんが電車に乗り込んで窓側の席に座っていると、しばらくして真後ろの席に座っていたブラウン被告がポケット付近から突然ナイフを取り出し、前に座るザルツカさんの喉元に複数回ナイフを突き刺す様子が映っていた。
大手紙国際部記者が語る。
「捜査関係者によると、2人に面識はなく、完全に通り魔的な犯行だったようです。ザルツカさんはウクライナ出身で、ロシアによるウクライナ侵攻から逃れるために2022年からアメリカに移住。新たな地で、平穏な生活を始めたばかりでした。
一方でブラウン被告は2007年から事件発生までの間に14件の逮捕歴があり、うち1件は強盗罪により5年の懲役刑が言い渡されていました。
犯罪を繰り返していた者がなぜ"野放し"状態になっていたのか……。事件後、司法制度に対する市民の不信感が高まったことを受けて、同市議会はライトレール車内の警備体制の強化を決定。また、同州議会による事実上の死刑制度復活を視野に入れた『イリーナ法』が採択されました」
「公判能力なし」と判断され2度の延期
しかし、ブラウン被告の裁判は現在も始められる状況にないという。障壁となっているのは、被告の"責任能力"だ。前出・記者が続ける。
「被告は、ザルツカさん殺害以前に精神科への通院歴があり、精神疾患と診断されて治療を受けていました。昨年1月には、病院の敷地内から911(緊急通報用電話番号)に電話をかけ、『医療施設で人工物を埋め込まれた。誰かに体をコントロールされている』と訴えていたことが確認されています。この件でブラウン被告は、911の不正利用による業務妨害で逮捕されています。
逮捕後の精神鑑定の結果、被告には裁判に耐え得る責任能力がないとして、公判が2度延期されました。1度目は昨年末、精神状態の回復を待つため、今年4月30日まで延期が決定。その後、4月7日には被告の弁護士が改めて180日の延期を裁判所に申し立てました」
現在、ブラウン被告の身柄は連邦当局が勾留しているという。
「約8か月が経過しているにもかかわらず、いまだ足踏みを強いられているもどかしい状況に、市民による批判の声はじわじわと高まっている。アメリカの一部地域では、ザルツカさんの事件を風化させてはいけないとの思いと、正義を求める社会的メッセージを発信するため、アーティストたちが彼女の追悼壁画を描くキャンペーンも始まっています」(同前)
"正義の執行"を求める声が高まる一方で、難局は続く。
