【塩地 優】いつもガラガラ「志摩スペイン村」はなぜ潰れなかったのか?近鉄の大リストラ時代を生き延びた30年の苦闘

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志摩スペイン村 パルケエスパーニャが好調だ。2022年、VTuberの周央サンゴ氏(チャンネル登録者数66万人)に取り上げられたことをきっかけに、人気に火が付いた。

2024年度には近鉄グループの決算で初めて「観光施設」部門の営業損益が開示され、利益を生む施設になったことが示唆された。優れたショーやパレードなどのエンターテインメント、美しい景観、楽しいライドアトラクションを有するテーマパークの魅力がコラボイベント等によって広まった格好だ。

しかしながら、志摩スペイン村の歴史は苦難に満ちている。何度も大規模な投資を行いながら、入園者数の減少が続いたのだ。かつて大リストラを敢行し、複数の遊園地を廃業した近鉄グループにあって、なぜ志摩スペイン村は生き残ってこられたのか。近年になって魅力が再発見されるまで耐え抜いてきた原動力は何なのか。

その真相に、『遊園地は鉄道によってつくられた』(交通新聞社)などの著書がある、日本遊園地学会の会長・塩地優氏が迫る。

リアリティよりもエンタメ重視

志摩スペイン村と、その中にあるテーマパーク「パルケエスパーニャ」の発想は、各地に建設された「国」をテーマにしたパークとは少し異なる。オランダの街並みを精緻に作り上げたハウステンボスに代表されるように、1つの国をテーマとしたパークでは、その多くが街並みを精緻に、リアルに作り上げることに重点を置いた。

対して、志摩スペイン村は楽しさやエンターテインメントに重点を置き、一定のデフォルメを許容している。重厚かつリアルに作られた建物がある一方、どこか奥行きのない建物も見受けられる。もともとリアリティよりも楽しさを重視した、エンタメ志向のパークなのだ。

▲奥行きが薄く見えてしまう建物の一例。アランフェス王宮を再現しているが、装飾類の立体感が弱いことと、背後にある建物が奥行きをさらに短く見せ、全体的に平面的な印象を与える。ただし建物内にはローラーコースターがあり、「屋内型ローラーコースター」の外観としてみれば、非常に立派だ

楽しさを強調する思想は、ライドアトラクションによく表れている。伝説的アトラクション「アドベンチャーラグーン」は主に屋内を進むボートライドで、2回の途中落下を交えながら、映像と動く人形で表現された中世の戦争の世界を巡るというものだった。屋内パートの最後では、滝のように水が流れ落ちる壁にぶつかる直前で停止し、床ごと傾いて落下するというギミックで来場者を驚かせた。現在は、屋外部分のみが「フェリスクルーズ」というアトラクションとして残されている。

そうしたエンタメ寄りの思想は、現在も「ドンキホーテ冒険の旅」などに見ることができる。東京ディズニーランドの「ピーターパン空の旅」によく似た、乗り物で進むアトラクションだ。

さらに、遊園地らしい乗り物を集めたエリアには、日本最大かつ世界でも最大級の吊り下げ式コースター「ピレネー」、岩山をかけめぐるコースター「グランモンセラー」などもあって、ライドアトラクションだけでも1日楽しむことができる。

ハイクオリティなショーと、再現度の高いスペインの街並み

そして何といっても、志摩スペイン村の最大の魅力は、充実したハイクオリティなショーだ。

かつては、ユニバーサル・スタジオの「ウォーター・ワールド」のように特殊効果を多用したショーもあったが、現在はキャラクターが登場するショーが主体。4台の大型フロート(山車)と、バリエーション豊かで高品質な衣装を身にまとった多数のダンサーやキャラクターが登場し参加型のダンスもあるパレードに、大きな屋根付き劇場で行われるミュージカル仕立てのキャラクターショー。そして別料金が必要になるものの、本場スペインの振付師とダンサーを起用し、気迫あふれる演技に圧倒されるフラメンコ。他にもダンサー主体のミュージカルや大道芸など、さまざまなショーが催されている。

もちろん、1つの国をテーマにしたパークらしく、スペインの古城「ハビエル城」や「サンタクルス通り」など、スペインらしい建築物をリアルに再現したエリアも備える。

▲サンタクルス通り。アンダルシア地方の街並みを適度にデフォルメしながらも、高いクオリティで再現したエリアだ

こうした施設とショーを維持してきたために、志摩スペイン村を訪れた人はその質の高さに驚き、面白みを理解することになる。しかしながら、その魅力が正しく理解されるのには長い時間がかかった。

入園者数は減少の一途だった

志摩スペイン村の入園者数は、いくつかの特殊要因を除いてみれば、コロナ禍の前までほぼ単調に減少を続けていた。この間、アトラクションやショーの新設を含む積極的な投資を実施してきたにもかかわらず、である。

開業後の投資のうち、代表的なものに、

・1997年 大型吊り下げ式コースター「ピレネー」

・1997年 吊り下げ式ダークライド「ドン・キホーテ冒険の旅」

・1999年 大規模ショー「ロストレジェンド」

・2008年 屋内アトラクションエリア「ピエロ・ザ・サーカス」

がある。だがこれらの投資を経ても、入園者数の減少を食い止めることはできなかった。

苦境に陥った原因のうち、最も大きいのは立地の悪さだと考えられる。近隣に大都市が無く、大阪難波から特急で最短2時間30分+バス、名古屋から特急で最短2時間5分+バスと、アクセスに時間がかかる。車を使っても大阪市部から3時間、名古屋から2時間30分ほどを要する。伊勢神宮からも車で40分ほどかかる上、伊勢神宮自体の参拝者も2005年頃まで減少傾向にあった。こうした厳しい立地から、いかに魅力的なアトラクションやショーを揃えても、来園者数の減少を食い止められなかったと考えられる。

なぜ志摩スペイン村だけが生き残ったのか

2002年から2004年にかけて、近鉄では大リストラが行われている。有名なのは、プロ野球の球団であった近鉄バファローズや、大阪松竹歌劇団を手放したことだが、遊園地も2つ閉園している。伏見桃山城キャッスルランドと、近鉄あやめ池遊園地だ。

当時、有料道とあわせて黒字だった生駒山上遊園地は生き残ったが、志摩スペイン村は赤字が続いていた施設だ。リストラ中の2003年度には黒字になっているが、これはアトラクションなどの上物を近鉄本体が買い上げ、さらに早期退職募集等によって人件費を圧縮、その他のコスト削減を積み上げた結果だ。入園者数が減少傾向にある中で、この黒字が一時的なものにすぎないことは、当時の経営者も理解していたはずだ。

そのような中で、なぜ志摩スペイン村は特別扱いされたのだろうか。当時は開業から10年に満たない施設で減価償却が終わっていなかったことも、もちろん理由の1つだろう。しかしながら、近鉄グループのポートフォリオを見ると、志摩スペイン村を切り捨てられない理由が見えてくる。

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【つづきを読む】『バファローズさえ手放した近鉄グループが、赤字続きでも「志摩スペイン村」を守り続けた意外すぎる理由』

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