山梨・都留で出合った珠玉の珈琲店 人生を賭けた一杯が待つ

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焙煎、ピッキング、ネルでの抽出。人生を賭けて取得した手法で至福の一杯を楽しませてくれる店へと足を延ばした。その味はもちろん、街から見える富士の姿、隣町で楽しめる腰のあるうどんも含め、確かに心を動かされる一杯がそこにはあった。

より良い味を求めて今もなお探求を続ける『バンカム・ツル』@山梨・都留市

半世紀近く追求し続けるコーヒーの求道者の味と出合う

旅の計画はいつもひょんなことから始まる。きっかけはあるコーヒー店の店主に聞いた情報だった。「山梨に『バンカム・ツル』あり」

富士山の麓にコーヒーの求道者が営む知る人ぞ知る名店があるらしい……百聞は一見に如かず。目指すは山梨の東部に位置する都留市、水がおいしい自然豊かな街だ。まあ日頃から飲む=お酒しか頭にない私にコーヒーの味云々がわかるのか問題は東京に置いといて。勝手に付けた裏タイトルがこれ。

「肥田木、未知なるコーヒーの扉を開く?」。

その扉は至って気さくだった。

「やあよくいらっしゃいました」。笑顔で迎えてくれたこのお方こそ求道者、店主の中村操さんだ。聞けばその道に目覚めたのは27歳の時、知人から「コーヒーは焙煎が難しい」と言われ「挑戦したくなった」。専門書を読みあさり、北海道から九州まで全国の名店を飲み歩いて先人の考えに学んだそう。

選ぶ道は常に「難しい方へ」。会社員を辞め、物置で焙煎の研究に明け暮れること5年、より良い味の探求を続け念願の喫茶を開いたのが昭和60年。20代からひたすらコーヒーと向き合って、もうすぐ半世紀になる。レジェンドたる所以はやはりその焙煎の腕だろう。

マンデリン500円、チョコレートケーキ400円

『バンカム・ツル』(手前から)マンデリン 500円、チョコレートケーキ 400円 マンデリンは円熟味のある苦み。淹れてそのまま、温め直しをせず提供する。温度は旨みを感じやすい60度前後。チョコレートケーキはどのコーヒーにも合うよう2年掛けて完成させた

「僕の方法は水蒸気焙煎というもので、150年前の欧州の手法に近い」。

簡単にまとめるとこうだ。使うのは独自に改良した直火式焙煎機→焙煎前に豆を2度洗いして含水→水分が豆の中心まで熱を伝える役目となり→蒸気を利用し高温でムラなく火入れ→旨みを逃さない、という訳。

「日本人が米を炊く時と同じ。先人の知恵から得た原理原則です」。

聞けば聞くほど目から鱗がボロボロ落ちる。

兎にも角にもコーヒー人生が詰まった1杯を。富士山の伏流水を用い、手製のネルで豆を愛おしむように淹れてくれたブレンドは実にまろやかな旨み、スッと消えるおだやかな後口と言えばいいだろうか。ああ自分の語彙力の無さがもどかしい。

中村さんの言葉を借りればこれが理想の「舌離れのよさ」。その味を学びに遠方から通う同業者も多いとか。

ちなみにカップは大倉陶園のものしか使わない。曰く「この白じゃないと液色を確認できない」から。また、いいコーヒーはスプーンですくった時に琥珀色で透き通っているそうだ。勉強になります。

で、未知の扉を開いたかって?その奥深さを前にしたらノックぐらい。でもね、気付けば帰りはいつものビール……じゃなくてミルを買おうかと考えている私がいた。恐るべし『バンカム・ツル』。

『バンカム・ツル』

[店名]『バンカム・ツル』

[住所]山梨県都留市上谷1571-4

[電話]0554-45-2260

[営業時間]11時〜18時※テイクアウトは19時まで

[休日]日・月

[交通]富士急行線都留文科大学前駅から徒歩5分

撮影/鵜澤昭彦、取材/肥田木奈々

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

※画像ギャラリーでは、山梨県の喫茶店『バンカム・ツル』の画像をご覧いただけます

※月刊情報誌『おとなの週末』2026年4月号発売時点の情報です。

【画像】琥珀色はいいコーヒーの証 「この白じゃないと液色を確認できない」と話す、こだわりのコーヒーカップ(8枚)